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多くの人が小説家を名乗れる時代になった④ コミック事業の会社が文芸分野の強化を図る

小説閲覧アプリを開発するために2015年に設立された株式会社ノベルバは、2018年1月に小説投稿サイト「ノベルバ」の運営を開始。同年7月に広告収益の一部を作者に還元する「ノベルバ報酬プログラム」をスタートさせている。

サービスを開始して10か月後の2018年11月、ノベルバはビーグリーの完全子会社となり、翌2019年6月に吸収合併された。ビーグリーはコミック配信サービス「まんが王国」を核に、コンテンツプラットフォーム事業を展開する企業だ。

ビーグリーの社名は、「進化論」を唱えたチャールズ・ダーウィンが航海したときの船の名前、ビーグル(Beagle)号にちなんだもの。企業理念は「新しい発見と進歩を求め続ける」で、「コンテンツとファンの最適なマッチング」を企業の存在意義だとしている。


ノベルバ   2018年1月 ビーグリー


「ノベルバ報酬プログラム」は作品のPV数に応じて作者に報酬を支払うというもので、1PVに対し作者は0.1円の報酬を受け取れる。

アプリの「マイページ」の「PV/収益の確認」で、収益状況が分かるようになっていて、高いモチベーションを保てる環境を整えている。なお、不正防止のため、一人のユーザーが同じエピソードを何回読んでも、その日のPVは1とカウントされる。

著作権は作者が保有したまま、収益を受け取ることができ、書籍化などの活動は自由に行える。オリジナルレーベルの「ノベルバノベルズ」の配信を2020年11月から始めており、「ノベルバノベルズ登竜門コンテスト」「らぶドロップス恋愛小説コンテスト」を実施してきた。

2017年3月に上場したビーグリーは、ノベルバを吸収合併した翌2020年10月、女性向け漫画雑誌・単行本を発行するぶんか社を子会社化するなど、プラットフォーム事業とともに、コンテンツプロデュース事業の拡充に努めている。

「創る」「選ぶ」「届ける」をワンストップで提供する強みを持つビーグリーは、小説の書籍化・コミック化により、売上高の9割を占める収益基盤の「まんが王国」との相乗効果を目指す。

そのビーグリーに対し、日本テレビ放送網が株式公開買付け(TOB)を実施し、2021年12月、日本テレビホールディングスの持分法適用関連会社となった。今後、ノベルバの投稿作品やコンテストの受賞作品のドラマ化なども考えられる。

小説投稿サイト「セルバンテス」を止めた講談社


 小説投稿サイトの「トークメーカー」は、未来創造株式会社が2016年12月にスタートさせた。講談社が「トークメーカー」を引き継ぎ、名称を「NOVEL DAYS」と変更して2018年8月に小説投稿サイトを始めた。
未来創造は、ウェブシステムの開発を手掛けるSI(システムインテグレーター)企業で、現在も小説投稿サイトの運営に関わっている。

代表取締役社長の小野寺隆は宅地建物取引士、賃貸不動産経営管理士など不動産関連の資格を持ち、貴金属、不動産、ベンチャー企業への投資も行なっている。小説、漫画原作、実用書、ビジネス書など50冊以上の著書を著し、講談社BOX大賞を受賞して、小説家デビューを果たした人物。

NOVEL DAYS  2018年8月 講談社

https://novel.daysneo.com/

講談社は「NOVEL DAYS」の開始と同じ年の4月にマンガ投稿サイト「DAYS NEO」を開設し、同年8月にイラスト投稿サイト「ILLUST DAYS」を立ち上げている。

「NOVEL DAYS」は、チャット形式の会話で物語を進める「チャットノベル」や複数の作家が小説を書き上げていく「コラボノベル」などの投稿スタイルもあり、新しい創作形態を模索する作家の参加も促してきた。

「NOVEL DAYS」の運営を始めた4カ月後の2018年12月、講談社は新たに小説投稿サービス「セルバンテス」をプレオープンし、翌2019年2月にサービスを開始した。

「セルバンテス」は、講談社のネクストファンタジー小説のレーベル「レジェンドノベルス」の事業主体である講談社新企画開発チームが開発・運営する小説投稿サイトで、「大人のための投稿小説」を標榜していた。

ところが、「セルバンテス」のサービスはわずか1年3ヶ月、2020年5月に終了した。読者が集まらず、オリジナルの投稿が少なかったことが原因の一つと見られる。

「セルバンテス」に投稿されていた小説を「NOVEL DAYS」に移管するよう、講談社は作者に促したが、各事業部の連携が密でないまま、複数の小説投稿サイトを持つ難しさを露呈したと言えそうだ。

講談社は、小説投稿サイトの「NOVEL DAYS」、マンガ投稿サイトの「DAYS NEO」、イラスト投稿サイトの「ILLUST DAYS」のトップページに、「マンガ投稿」「イラスト投稿」「小説投稿」のタグを付け、利用者が相互に乗り入れしやすいようにしている。

小説の読者も、マンガの読者も、イラストに関心がある人も取り組もうという戦略に出た。作者の側から見ても、小説がコミックスの原作となるのはありがたい。今後、小説のコミカライズ化がさらに増加すると見られるが、そこに布石を打った形だ。

講談社の2021年11月期決算の純利益は155億円。2017年11月期は17億円だったが、その後順調に利益を伸ばしてきた。その最大の収益源がコミックス(マンガ)で、紙の製品、電子書籍ともに好調で、映画化、TVアニメ化による版権収入も高収益に寄与している。

講談社に限らず、出版界の収益の基盤は目下、コミックスにある。この傾向は当面変わりそうない。(敬称略)

アマゾンのキンドル出版で、2023年8月、ペーパーバックと電子書籍の小説が発売されました。「権力は腐敗する」「権力の横暴や不正を許さない」をテーマにしており、お時間のある方はお読みください。
『黒い糸とマンティスの斧』 前原進之介著

この連載記事は、以下のような流れになっています。
1 小説を書きたいと思い立った「いきさつ」
2 どうしたら小説が書けるようになるの?
3 小説講座を探そう 
4 どの文学賞を受賞すると作家になれるの?
5 文学賞に落選。心機一転再スタートを切る
6 多くの人が小説家を名乗れる時代になった


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