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タカラヅカの音楽学校と歌劇団で起きた「いじめ事件」の共通点         

宝塚歌劇団のそら組に所属していた劇団員Aさん(享年25)が昨年9月に急死した問題で、遺族側の代理人弁護士が今年2月27日、東京都内で記者会見した。

遺族の代理人弁護士は「交渉経過、現段階を正確にみなさんにお伝えする必要がある」とした上で、歌劇団を運営する阪急電鉄の親会社、阪急阪神ホールディングスのすみ和夫会長が「宝塚歌劇団の理事を退任する意向を示したとの報道がされていますが、遺族側としては、同氏が劇団理事を退任することが、同氏が責任を取ることを意味しないと考えています」と強調している。

会見の席で、Aさんの双子の妹で、宝塚歌劇団の別の組の劇団員Bさんのコメントを代理人が発表。現役の劇団員であるため、どのような不利益を被るか分からない中、切々と心情を訴え、宝塚歌劇団でのいじめ、パワハラがどのようなものか、垣間見える内容となっている。その一部を紹介する。

宝塚は治外法権の場所ではありません。宝塚だから許される事など一つもないのです。
劇団は今に至ってもなお、パワハラをおこなった者の言い分のみを聞き、第三者の証言を無視しているのは納得がいきません。
劇団は、生徒を守ることを大義名分のようにして、パワハラを行った者を擁護していますが、それならば、目撃したパワハラを証言してくれた方々も、姉と同じ生徒ではないのですか。
そもそも「生徒」という言葉で曖昧にしていますが、パワハラを行った者は、れっきとした社会人であり、宝塚歌劇団は一つの企業です。
企業として、公平な立場で事実に向き合うべきです。

タカラヅカで起きたいじめに対する似たような対応は、このときばかりではない。宝塚歌劇団に入るために、絶対に通過しなければならない宝塚音楽学校でも陰湿ないじめがあり、いじめられた生徒が退学処分を受ける事件があった。

宝塚音楽学校で起きた「タカラヅカいじめ裁判」でも、音楽学校側は、いじめた側だけの発言を聞いて、第三者の証言は無視。2008年4月に入学したSさんを、同年11月、退学処分にした。

宝塚歌劇団への入団条件は宝塚音楽学校の卒業生に限られており、宝塚歌劇団に入ってからも、劇団員は「生徒」と呼ばれる。音楽学校で身に付いた上下関係の厳しさ、パワハラ体質は、宝塚歌劇団に入ってからも引き継がれていく。

Sさんがどのようないじめを受け、仲間外れにされ、信頼していた先輩から裏切られたのか、裁判がどのように進んだのか、山下教介氏が著わした『ドキュメント タカラヅカいじめ裁判』(鹿砦社)に詳しく書かれている。退学までの経緯と裁判でのやり取りが克明にレポートされており、この書籍に基づいて、事件を振り返っておく。

万引き犯、財布の窃盗犯にされて退学処分に

6歳からバレエを習い、「96期生の中でSさんが一番きれい」と同期生のブログにも書かれたSさん(入学時17歳)は、地方出身のため「すみれ寮」で寮生活をしていたが、現金やドライヤーなどのモノが頻繁になくなる出来事が続いていた。

8月に東北の地元に帰省したとき、郷土が生んだ宝塚歌劇団OGの法要が営まれており、呼ばれて参加。たまたま地元放送局のインタビューを受けた。学校に無許可で取材を受けてしまい、薄化粧をしていたなどの校則違反を犯した点に、Sさんにも落ち度があった。

地元テレビ局のニュースはネットで配信され、Sさんの同期生の親戚が見て、生徒に通告し、その生徒が学校に通報したため、騒ぎが大きくなった。反省文を書き、一件落着となったが、寮や学校でモノがなくなると、Sさんの仕業にされ、同期生からのいじめがひどくなった。

万引きをしたかどうか目撃していないのに、同期生が学校に通報し、コンビニで万引きをしたと犯人扱いされて、音楽学校で問題になった。

宝塚大劇場でSさんら生徒が観劇をしたとき、財布をなくした客がいて、カードはあったが、現金が入っていない財布を、Sさんが劇場内のトイレ近くで拾った。劇場や警察に届けることなく、現金のない財布を届ければ、盗んだと疑いを掛けられると思ったのか、預かったまま保管していた。すぐに届け出なかった落ち度もあり、犯人扱いされてしまう。

財布をなくした本人は、劇場でとなりの席に座っていた女性(宝塚音楽学校の制服を着ていた)はSさんではなかったと証言しているのだが、学校側はこの証言を無視した(もし、Sさんが現金を盗んだ犯人なら、財布を処分して持っていないはず)。

その後も、同期生の携帯電話を拾い、無断で中身を見たりするなど、Sさんには問題行動があった(Sさんだけを除外したメーリングリストがあったようで、先輩に相談した内容が同期生に筒抜けになっていたため、確認したいと考え、携帯電話の中身を見てしまった)。

学校も保護者会もSさんの復学を拒否

その翌月、学校側から突如、通告を受けた。教室にいたSさんは副校長から呼び出され、否認していた窃盗の件など6項目の問題行動が書かれた書類を読み上げられ、自宅待機を命ぜられたのだ。

すみれ寮に立ち寄ることもなく、職員にそのまま伊丹空港に連れて行かれ、東北にある自宅に戻された。「すぐに戻すから」と副校長に言われたため、荷物はすみれ寮に置いたままであった。その10日後、自主退学を勧告され、4日後に退学処分通知が送付された。

これに対して、Sさん側は退学の取り消しを求める地位保全仮処分命令の申立てを行う。神戸地方裁判所は地位保全を認めたが、学校側は、同期の生徒の保護者会が復学に反対していることも1つの理由として、登校を拒否。

裁判所の判断に従い、事前に学校に連絡して、実家から宝塚に戻って来たSさんと母親が音楽学校に着くと、門を閉ざして入れず、事務長と学校側の弁護士が門の内側に立ちはだかっていた。押し問答をし、結局、学校に戻ることはできなかった。

そのためSさん側は「登校拒否すると、1日につき1万円払え」という間接強制を申し立てた。間接強制というのは、支払債務などを実行してくれない場合(Sさんの場合は学校への復学を実現するために)、一定の金銭(制裁金)を支払うよう命じる裁判を行い、裁判所の決定に基づいて債務者(学校側)を心理的に強制して、債務(学校への復帰)を実行してもらうようにするもの。

裁判所は間接強制の申し立てを認め、学校側が挙げていた退学処分理由をことごとく却下している。

最終的には、学校側は復学を認めるが、Sさんは入学手続きをしない、宝塚音楽学校の卒業証書を発行する、という形で和解することになった。Sさんは学校に戻ることはなく、舞台に立つ夢は実現しなかった。

宝塚音楽学校は、コンビニ店が被害届を出していないのに、学校側が宝塚警察署に依頼し、コンビニの防犯カメラの映像を入手して、法廷に提出している。宝塚警察署が画像を確認したが、万引きの事実は確認できず、捜査は打ち切りになっていた。

裁判所側は「宝塚音楽学校は教育機関としての姿をなしていない」「10代の子どもを預かっているので、やるべきことはきちんとやるべきだ」と、学校側を厳しく指弾した。

いじめ隠蔽の責任は宝塚歌劇団と阪急阪神HDトップに

裁判で長期間争っても、いじめの事実を認めようとしなかった「タカラヅカいじめ裁判」は、昨年9月に亡くなった劇団員のAさんの問題にも、オーバーラップしてくる。

宝塚歌劇団や宝塚音楽学校で行われてきたいじめ、パワハラの実態を明らかにし、Aさんが死に至った問題については、いじめた劇団員(上級生)の行動の詳細と処分内容を明らかにすべきだ。

さらにいじめ、パワハラが起きやすい要因を排除し、女の軍隊とも呼ばれた上下関係の問題点をチェックし、伝統の名のもと、時代錯誤と言えるルールは撤廃するべきだろう。

さらにいじめ、パワハラの隠蔽がなぜ起きたのか、コンプライアンス(法令遵守)上、どのような問題があったのかを、第三者委員会によって解明しなければ、ファン離れが起こり、新規のファンは増えない。

「清く正しく美しく」と大きく乖離している姿が、白日の下にさらされ、幻滅してファンが離れても、タカラヅカの真の再生のためには、問題点を洗いざらい公開することが近道になるはずだ。

アマゾンのキンドル出版で『黒い糸とマンティスの斧』(前原進之介著)という小説を上梓しました。大手出版社で起きた実際の事件を基にしたノンフィクション・ノベルで、会社を支配し、傍若無人に振る舞う人々と、それに立ち向かうカマキリ(マンティス)の闘いを描いています。
「権力は腐敗する」「権力の横暴や不正を許さない」をテーマにしており、興味のある方はご一読ください。


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