どの文学賞を受賞すると作家になれるの?④ 賞金に幅があるライトノベルの文学賞
ライトノベル関連の文学賞は数が多いだけに、賞金の額も300万円から1万円の商品券までピンキリである。
小説を書きたいというニーズは高く、小説投稿サイトの「小説家になろう」には97万強の作品が掲載されている。
小説投稿サイトはピーク時には100以上あり、現在でも数十のサイトがある。重複して小説投稿サイトにアップされている小説もあるが、100万件を大きく上回る作品がネット上にあり、無料で読めるものも多い。
こうした小説投稿サイトに掲載されている作品の中心がライトノベルだ。このジャンルでは、集英社とKADOKAWAがパイオニアになってきた。
集英社が1983年から主催している公募型文学賞のノベル大賞は、同社のライトノベル文芸誌の『Cobalt』やライトノベル・レーベルの読者を対象にした作品を募集しており、一時、コバルト・ノベル大賞と名称を変えていた。
集英社は、現在リニューアル中の集英社ライトノベル新人賞も創設しており、このレポートでは、集英社のノベル大賞は「エンターテインメント小説(ノンジャンル)」に分類している。ノベル大賞は唯川恵、藤本ひとみ、島村洋子、山本文緒、角田光代ら一般小説の分野で活躍している作家を数多く輩出してきた。
KADOKAWAは富士見ファンタジア文庫をベースに、ファンタジア長編小説大賞(現・ファンタジア大賞)を1989年に創設。神坂一、秋田禎信などの作家を世に送り出している。
この大手2社が中心となってライトノベル分野を切り開いてきたが、インターネットで作品を公表、販売する小説家が続々と登場。市場が伸びていることもあり、新旧入り乱れて、出版社各社が文学賞を新設し、作家・作品の争奪戦が繰り広げている。
ライトノベル作家の層が厚く、賞金額が少ない文学賞でも作品を集めやすいからだ。その中で、KADOKAWAは賞金300万円の文学賞をいくつも出し、少額の文学賞も企画しているので、高いシェアを維持できている。ライトノベル部門の文学賞と出版社、賞金は以下の通り。
ライトノベル部門の文学賞
賞の名称 主催者(出版社) 賞金
ファンタジア大賞 KADOKAWA 300万円
電撃小説大賞 KADOKAWA 300万円
スニーカー大賞 KADOKAWA 300万円
MF文庫Jライトノベル新人賞 KADOKAWA 300万円
角川文庫キャラクター小説大賞 KADOKAWA 150万円
角川ビーンズ小説大賞 KADOKAWA 100万円
角川ルビー小説大賞 KADOKAWA 100万円
カクヨムWeb小説コンテスト KADOKAWA 100万円
魔法のiらんど 小説大 KADOKAWA 100万円
ビーズログ小説大賞 KADOKAWA 50万円
魔法のiらんど 恋愛創作コンテスト KADOKAWA 30万円
eロマンスロイヤル大賞 KADOKAWA 20万円
カクヨムWeb小説短編賞 KADOKAWA 10万円
集英社オレンジ文庫ノベル賞 集英社 300万円
集英社ライトノベル新人賞 集英社 リニューアル中
ジャンプ恋愛小説大賞 集英社 100万円
ジャンプホラー小説大賞 集英社 100万円
集英社みらい文庫大賞 集英社 50万円
ジャンプ小説新人賞 集英社 50万円
コバルト短編小説新人賞 集英社 20万円
ナツイチ小説大賞 集英社 10万円
ファンタジー小説大賞 スターツ出版 50万円
スターツ出版文庫大賞 スターツ出版 30万円
野いちご大賞 スターツ出版 30万円
野いちごジュニア文庫大賞 スターツ出版 30万円
ベリーズ文庫大賞 スターツ出版 10万円
ベリーズカフェ恋愛小説大賞 スターツ出版 10万円
ベリーズカフェファンタジー小説大賞 スターツ出版 10万円
マカロン文庫大賞 スターツ出版 3万円
ノベマ! キャラクター短編小説コンテスト スターツ出版 商品券1万円
日本ファンタジーノベル大賞 新潮社 300万円
小学館ライトノベル大賞 小学館 200万円
講談社ラノベ文庫新人賞 講談社 100万円
幻狼大賞 幻冬社コミックス 100万円
ポプラキミノベル大賞 ポプラ社 10万円
『この文庫がすごい!』大賞 宝島社 10万円
HJ小説大賞 ホビージャパン 300万円
ノベルアップ+小説大賞 ホビージャパン 50万円
オーバーラップ文庫大賞 オーバーラップ 300万円
オーバーラップWEB小説大賞 オーバーラップ 150万円
アース・スターノベル大賞 アース・スター エンターテイメント200万円
ネット小説大賞 小説家になろう 100万円
GA文庫大賞 SBクリエイティブ 100万円
ツギクル小説大賞 SBクリエイティブ 10万円
New-Generationアイリス少女小説大賞 一迅社 100万円
アイリス異世界ファンタジー大賞 一迅社 30万円
一迅社文庫アイリス恋愛ファンタジー大賞 一迅社 30万円
恋愛小説大賞 アルファポリス 10万円
ホラー・ミステリー小説大賞 アルファポリス 10万円
キャラ文芸大賞 アルファポリス 総額100万円
エブリスタ小説大賞(出版社と賞を選び、エブリスタに投稿した小説をエントリー。次の4つの賞がある。集英社、竹書房、ポプラ社、宝島社)
エブリスタ 10万円
氷室冴子青春文学賞 エブリスタ 20万円
ノベルバノベルズ登竜門コンテスト ビーグリー 50万円
らぶドロップス恋愛小説コンテスト ビーグリー 20万円
ムーンドロップス恋愛小説コンテスト 竹書房 20万円
最恐小説大賞 竹書房 10万円
ホビージャパンは雑誌や小説、コミックスの出版、模型、玩具、ゲームの開発・輸入・販売を行っており、2019年に小説投稿サイトの「ノベルアップ+(プラス)」を開始している。
オーバーラップはコミック、アニメ、映像、音楽などの企画・制作を行ない、ライトノベルには早い段階から参入している。
SBクリエイティブはソフトバンクグループの関連会社で、デジタルコンテンツ事業、出版事業を手掛ける。IT関連の書籍を主に発行していたが、ビジネス書、科学新書、ライトノベルにも力を入れている。
コミック雑誌、コミックス、ライトノベルなどを制作する一迅社は、一迅社文庫アイリスを立ち上げており、アイリス少女小説大賞などを新設。講談社の関連会社である。
KADOKAWAがライトノベルで強みを発揮
KADOKAWAには、ライトノベル・新文芸と読者をつなぐ「キミラノ」というレコメンドサイト(利用者の好みにあった商品をおすすめするサイト)を立ち上げている。
2019年3月にスタートした時点ではKADOKAWAの6レーベルだけだったが、「キミラノ」に参加している出版レーベルは現在29。運営の中心になっているのがKADOKAWAということもあり、KADOKAWA系のライトノベルは13レーベルに上る。
新文芸というのはKADOKAWAが名付けた文芸のジャンルで、インターネット上に発表された作品を書籍化したり、電子書籍化して出版する作品のことだ。ネットだけに公開されるネット(オンライン)小説、ボカロ小説、フリーゲームの小説化といったものが新文芸に該当する。
ボカロ小説とは、ヤマハが開発した音声合成ソフトのボーカロイド(ボカロ)を使って制作・発表された楽曲を原案にして、創作された小説を指す。
KADOKAWAの5大ライトノベルレーベルであるMF文庫J、角川スニーカー文庫、電撃文庫、ファミ通文庫、ファンタジア文庫の他に、MFブックス、角川ビーンズ文庫、カドカワBOOKS、電撃の新文芸、ドラゴンノベルス、ビーズログ文庫、ビーズログ文庫アリス、ノベルゼロの8レーベルが「キミラノ」に参加している。
他の出版社が展開している出版レーベルで、キミラノに入っているライトノベルは以下のようになっている。
キミラノに入っているKADOKAWA以外のライトノベル
講談社 講談社ラノベ文庫、Kラノベブックス、Kラノベブックスf
集英社 ダッシュエックス文庫
小学館 ガガガ文庫
双葉社 モンスター文庫、Mノベルス、Mノベルスf
ホビージャパン HJ文庫、HJノベルス
SBクリエイティブ GA文庫、GAノベル
オーバーラップ オーバーラップ文庫、オーバーラップノベルス、オーバーラップノベルスf
TOブックス TOブックス
TOブックスは小説、児童書やコミックスを企画・編集し、電子書籍化などを行なっていて、「コミック コロナ」などのレーベルを持つ。
KADOKAWAは2013年10月に連結子会社9社を吸収合併し、一体化戦略でライトノベル分野での総合力、強みを発揮しやすくなった。
連結子会社の角川書店、角川マガジンズ(旧角川マガジングループ)、富士見書房(角川書店の子会社)、アスキー・メディアワークス(旧メディアワークス)、エンターブレイン(旧ベストロン映画、旧アスキー映画)、角川学芸出版(旧飛鳥企画)、中経出版、メディアファクトリー(旧リクルート出版)、角川プロダクション(KADOKAWAグループに属する各社のライセンス管理・営業を行っていた会社)を合併した。
角川プロダクションを除く8社は、社内ブランドという位置付けになり、それぞれ一部門として、商品とサービスを提供する体制に衣替えした。
KADOKAWAが7~8割のシェアを持っていたライトノベル市場の成長力が注目され、他社もこのジャンルに関心を持ち、新規参入や再参入が相次いだ。
講談社、PHP研究所、SBクリエイティブ、ホビージャパン、京都アニメーションなどが独自の出版レーベルを創設して参入している。
ライトノベルのキャンバス文庫(1993年創刊)を発行していた小学館は2005年にキャンバス文庫を終了させたが、2007年にガガガ文庫を創刊して再参入を果たす。
KADOKAWA以外で300万円の賞金を出しているのが集英社、新潮社、ホビージャパン、オーバーラップ。200万円が小学館、アース・スター エンターテイメント。
アース・スター エンターテイメントは、カルチュア・コンビニエンス・クラブの関連会社のカルチュア・エンタテインメントの傘下で、コミックス、ライトノベルを手掛けている。カルチュア・エンタテインメントの関連会社には徳間書店や主婦の友社などがある。
ノベルバノベルズ登竜門コンテストを主催しているのは上場会社のビーグリー。同社はコミック配信サービスを中核に、コンテンツプラットフォーム事業を展開し、小説投稿サイトのノベルバや、女性向けの漫画雑誌や単行本を発行するぶんか社を傘下に収めている。
そのビーグリーは2021年12月に、日本テレビホールディングスの持分法適用関連会社になっている。
どの文学賞を受賞すると、作家になれるか。
賞を受賞すれば、小説家、作家と名乗ることはできるが、食っていけるか、作家として認めてもらえるかどうかは別問題だ。
芸能プロダクションが運営する「お笑い学校」を卒業し、舞台に立てば、お笑い芸人と自称できるが、アルバイトをして食いつなぐ芸人も多い。
著名な文学賞や、活躍している作家を多く輩出している文学賞を受賞すると、読者から指示される小説家になれる可能性は高い。いずれにしても自分の作風にフィットした文学賞を狙う必要がある。
私も、エンターテインメント全般を対象とする文学賞(ノンジャンル)に挑戦した。400字詰原稿用紙で何枚まで、と分量の制約があり、文字量を削って文学賞に応募したが、1次で落選してしまった。文学賞で箔を付けるという夢は断たれた。(敬称略)