多くの人が小説家を名乗れる時代になった① 小説投稿サイトの双璧は「小説家になろう」とKADOKAWA
すでに小説投稿サイトについて触れているが(文学賞に落選。心機一転再スタートを切る② 情報端末の多様化で活況を呈するネット小説)、ここからは、個々の投稿サイトの紹介をしたい。
小説投稿サイトを利用している方には退屈な情報かも知れないが、小説をインターネット上に公開したい人や、小説を読みたい人に参考になるようサイトの特色や歴史を説明していく。
小説家になろう 2004年4月 ヒナプロジェクト
小説投稿サイト名 サービス開始時期 運営会社
小説家になろう - みんなのための小説投稿サイト (syosetu.com)
「小説家になろう」は、学生だった梅崎祐輔が小説執筆投稿システムの開発を始め、2004年に個人サイトとして開設した。
『Deep Love』を書き、ケータイ小説の元祖と言われるYoshiをはじめ、ネットに小説を発表する場合、個人で運営するサイトや掲示板サイトが主流だった。そのため、投稿小説をまとめて公開するサイトは見当たらなかった。
小説を読みたくても、作品を探すことが難しく、自ら作ろうと思い立ったのが開発の原動力となったという。
サービスを開始すると投稿が相次ぎ、書籍化されるケースも出てきた。個人での対応に限界があると感じ、2009年にヒナプロジェクトを立ち上げた。サーバー管理やサイトデザインの大規模なリニューアルを行い、翌2010年にヒナプロジェクトを法人化して現在に至る。
サイトのトップページに小説掲載作品数、登録ユーザー数が公開されている。直近の掲載作品は約97万件、登録ユーザーは約231万人。自らが出版部門を持つことはなく、プラットフォーム事業に徹している。
投稿した小説の読者数が分かり、縦書き表示やルビといった読みやすさを高める機能を持つ。また、連載小説の目次が自動で作成できる、章を作成できる、投稿小説をシリーズ化できる、挿絵を挿入できる、メールで小説が書けるなどのサービスをすべて無料で提供している。
出版社が作品に興味を示し、出版を希望した場合、作家への橋渡しを担うが、仲介手数料などのフィーは取らず、交渉は出版社と作家の間で行う。
「小説家になろう」で人気を博した『魔法科高校の劣等生』(佐島勤著)、『Re:ゼロから始める異世界生活』(長月達平著)、『異世界居酒屋「のぶ」』(蝉川夏哉著)、『転生したらスライムだった件』(伏瀬著)、『君の膵臓をたべたい』(住野よる著)などの作品がこれまでに書籍化された。
さまざまなコンテストを開催していて、もっとも大きなイベントが、通称「なろうコン」と呼ばれている「ネット小説大賞」だ。
2022年7月に結果発表された第10回ネット小説大賞では、過去最多となる15社の出版社、32の出版レーベルが参加。新潮社、宝島社、双葉社、主婦と生活社などが協賛出版社になっている。
1万3116作品の応募があり、48作品が受賞して、各出版社から商業作品として市場に送り出される。
「小説家になろう」では、投稿する際のガイドラインが設けられており、参考になるアドバイスがいろいろ盛り込まれている。
例えば「歌詞転載に関して」の項目では、歌詞にも著作権が存在し、権利者の同意を得ない歌詞の掲載は著作権の侵害であり、小説に歌詞を掲載する時は作詞家や翻訳家など、権利者の許諾が必要と説明している。
小説の中に歌詞を載せる場合、許可を意識している人は少ないと思われるが、権利侵害がないよう注意喚起してくれるのはありがたい。
また、サイト内での行為で問題があった場合は「小説家になろう」グループ内での利用規約違反として、アカウントの停止などの厳しい処分を行なうと明示されている。
二次創作の投稿を原則禁止している点も、「小説家になろう」の特色の一つ。厳密な定義はないが、二次創作というのは原作・原典となる創作物を利用して二次的に創作された小説・漫画・映像・楽曲・フィギュア・カードなどの派生作品を指す。
原作者による許可や監修を受けていない場合、原作者との権利問題が発生することがある。二次創作物を扱うかどうかは、小説投稿サイトを運営する側で議論になっている。
ライトノベル・新文芸市場を育てるKADOKAWA
ライトノベルで圧倒的な強みを持つKADOKAWAは2種類の小説投稿サイトを運営。一つは買収で傘下に収め、もう一つは自ら立ち上げたものだ。
魔法のiらんど 2006年3月 KADOKAWA
【魔法のiらんど】人気のWeb・ケータイ小説/小説投稿サイト (maho.jp)
カクヨム 2016年2月 KADOKAWA
無料で小説を書ける、読める、伝えられる - カクヨム (kakuyomu.jp)
ケータイ小説のヒットを支援してきた「魔法のiらんど」は、独立系のウェブサイトだった。書く・読む・楽しむケータイ小説総合サイトの「魔法の図書館」を2006年3月にスタートさせ、100万部を超えるヒット小説が産み出してきた。
2006年6月にメディアワークスと業務提携し、翌2007年10月にメディアワークスが「魔法のiらんど文庫」を創刊する。
メディアワークスは、後にアスキー・メディアワークスとなり、同社は「魔法のiらんど」の70%の株式を2010年3月に取得し、翌2011年1月に吸収合併した。
2013年10月にアスキー・メディアワークスがKADOKAWAに吸収合併されたため、「魔法のiらんど」はKADOKAWAのブランドとして事業を続けている。
「魔法のiらんど小説&コミック大賞」を創設し、さらに「魔法のiらんど 恋愛創作コンテスト」を実施している。
作家の収入支援でカクヨムの総支払額は1億円
「魔法のiらんど」とは別に、KADOKAWAは検索・ブログサービス業の「はてな」と共同で、小説投稿サイトの「カクヨム」を2016年2月にスタートさせた。
サイト開設を機に「カクヨムWeb小説コンテスト」、通称「カクヨムコン」を年に1回実施している。
異世界ファンタジー部門、現代ファンタジー部門、恋愛(ラブロマンス)部門、ラブコメ(ライトノベル)部門、キャラクター文芸部門、ホラー部門の6部門に分けて作品を募集し、それぞれの大賞賞金は100万円。
KADOKAWAの小説編集部、コミック編集部の37の編集部・出版レーベルと映像企画制作部門が選考に参加する。受賞作はその作品に最も適したレーベルから書籍化され、映像化も検討される。
通常の公募文学賞は選考委員による選考だが、「カクヨムコン」では読者による支持と編集部による審査という2つの選考がある。そのため、通常の新人賞では現れないような新しい作品にもチャンスがある。
また、気軽に応募できる短編コンテストの「カクヨムWeb小説短編賞」も同時に開催。短編小説の受賞作は読切の漫画として、エッセイの受賞作はコミックエッセイとしてコミカライズしていくなど、きめ細かい対応を採っている。
大賞、部門賞、短編を対象にした賞などの多様な取り組みで、小説投稿サイトを起点とし、小説、コミック、映像、キャラクターグッズ販売などのビジネス強化を目論む。
コンテンツの確保には、作家やクリエイターを押さえる必要がある。そのため、KADOKAWAは2019年10月から作家を支援する「カクヨムロイヤルティプログラム」を開始した。ユーザー(作家)の創作活動を収入面で支援する制度だ。
作家は、任意で同プログラムに参加できる。自分の作品に「広告表示」を希望すると、広告閲覧数などを基に「アドスコア」が貯まる。そして、毎月の広告売上を、作家とカクヨム運営で7:3の割合で配分する。
掲載された広告収入の70%がユーザー(作家)に還元されることにより、書き手のモラールを上げ、さらには「カクヨム」への参加を促す狙いがある。
「カクヨムロイヤルティプログラム」の総支払額(広告収入還元額)は2021年9月に累計1億円を突破した。
7か月間で100万円以上の収入を得た作家が複数名、50万円~100万円未満が35名、10万円~50万円未満が165名で、200名強が10万円以上の支援(収入)を受けることができた。
さらに、KADOKAWAは読みたいライトノベルや新文芸が見つけやすいように、新刊チェック・検索・小説紹介機能を持ったサイト「キミラノ」を運営している。
キミラノ:新刊もアニメ化作品も!キミにおすすめのラノベを紹介! (kimirano.jp)
「どの文学賞を受賞すると作家になれるの?④ 賞金に幅があるライトノベルの文学賞」の回でも説明したが、「キミラノ」に参加する出版レーベルは29。KADOKAWAが13レーベルで、他の出版社のレーベルが16。
KADOKAWAの5大ライトノベルレーベル
MF文庫J、角川スニーカー文庫、電撃文庫、ファミ通文庫、ファンタジア文庫
KADOKAWAのその他のライトノベルレーベル
MFブックス、角川ビーンズ文庫、カドカワBOOKS、電撃の新文芸、ドラゴンノベルス、ビーズログ文庫、ビーズログ文庫アリス、ノベルゼロ
キミラノに参加しているKADOKAWA以外のライトノベルレーベル
講談社 講談社ラノベ文庫、Kラノベブックス、Kラノベブックスf
集英社 ダッシュエックス文庫
小学館 ガガガ文庫
双葉社 モンスター文庫、Mノベルス、Mノベルスf
ホビージャパン HJ文庫、HJノベルス
SBクリエイティブ GA文庫、GAノベル
オーバーラップ オーバーラップ文庫、オーバーラップノベルス、オーバーラップノベルスf
TOブックス TOブックス
「キミラノ」はライトノベル・新文芸市場の開拓に、企業の枠を超えて共同で取り組もうというもの。おすすめ作品の紹介、新刊情報、ユーザーのおすすめ、ランキング(総合、ラノベ、新文芸、日間、週間、月間別)などの情報を提供している。(敬称略)