海
高校二年生の頃、何もかもが嫌になって海に出かけた。
一人で40分くらいの道のりを自転車で漕いだ。
10月の海は酷く寂しくて、空気が乾いていたのを覚えている。
私の高校は家から2時間かかる場所だったので、6時には家を出ていた。
いつもの服装で、いつもの私で、母親に行ってきますを言った後に駅に向かうのではなく海へ向かった。
ただひたすらまっすぐ進むだけだったし、川沿いを辿るだけだったのであまりにもつまらない旅ではあったけど、道の途中の景色は素敵だった。
橋の下のホームレス、自転車に潰されたであろうカニ、錆びれたなまずの注意喚起の看板、乗り捨てられた自転車。
海について本を読んだ。暖かい日差しが眠くて、ハンカチを顔にかけて寝た。鳥が集まっていたので仲間に入りたくて走った。自然って気持ちいい!不純異性交友なんかよりも心がふわふわ浮かんだ。
お昼に買ったマクドナルドを食べていると、ゴルフクラブを持ったおじさんが近くまで来た。
「どこの学生さん?」
うわー、これもしかしてしっかり学校行きなさいって言われるパターンかな。めんどくさいな。
「この辺のじゃないんです。今日は早く学校が終わったので海に来ました。」
テキトーに嘘をついて、おじさんはそうなのと言ってゴルフクラブで素振りを始めた。近くの流木に当たりそうで怖いなと思った。
「おじさんね、この海良く来るんだけど汚いよねえ。天気も今日は悪いし、せっかく来たのに勿体ないねえ」
そうですねえとテキトーにまた返事をして、本に目を落とした。
朝の7時くらいからもう既に5時間近く経っていたらしく、ちらほらと海に来る人が増えてきた。
こんな真昼間から制服で恥ずかしいなと思いながらまた昼寝をした。気づいたら2時間近く経っていた。
この日のためにしたペディキュアが若干ハゲかけていて、あーあと思う。貝殻を乗せてみた

本当は素敵な夕日を拝みたかったけど、天気はあいにくだったので断念して15時半頃に海を後にした。
帰り道も変わらない景色を横目に自転車を走らせて、丁度いい時間になるまでフラフラと自転車を漕いだ。
小学校の時に恋していた人とすれ違い、呼び止められた。まさか呼び止められるとは思っておらず顔が真っ赤になった。私は赤面症だ。
何を話したかは覚えてないけど、彼は頭のいい私立に行ったのでこんな馬鹿な人と話して楽しいのかなとか考えてたと思う。
その日は足が真っ赤に日焼けした。
特に足の甲は普段晒さない無防備の象徴だったので、恥ずかしい気持ちになった。
この日の充実度は半端なかった。
後にも先にも学校をサボることはもうなかったけど、高校生のうちにやりたいリストのひとつを叶えることは出来た。
ありがとう高校二年生の私。
あの頃より強くも逞しくもなってないけど、心の中で特別な思い出として残り続けることでしょう。