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本を出したい女の話16

その人は独特な雰囲気を纏っていて、なぜか背筋がぴんと伸びるような緊張感があった。少しだけ話して、きっとこの人は私の事に興味がないタイプの人だろうなと勝手に決めつけた。なのに、その人はその後毎月私をご飯に誘ってくれたのである。地位も名誉もあり、とにかく激務な彼が何故こんなにも貴重な時間とお金を使ってくれるのか不思議で仕方なかった。マッチングアプリで嫌というほど負傷した私はしばらく彼を警戒していたのだけれど、変わらず彼は毎月約束を取り付けてくれる。そして私が知らない世界の話や仕事の話、恋愛の話もこれからどんな生き方をしたいかも沢山共有してくれた。私の悩みや相談もジャッジせず、どこまでも受け入れ親身に聞いてくれた。

回数を重ね、会うたびお互いのことを知り、興味と尊敬が生まれ、また会いたいと自然に思う。
そんな楽しい時間を過ごしていくうちに当初抱いていた警戒心はなくなっていた。

これが信頼を築くということなのだ。

男女として恋愛前提で出会うアプリでは知ることができなかった、時間をかけて相手の人となりを見て、寄り添うことで相手の心を開いていくという信頼関係の作り方。
生きていく上で物凄く重要なことを学んだ。

結婚をしたいから、彼氏が欲しいから好きになれそうな人を探すのではない。人として魅力的でまた会いたいと思うからそれが恋心となり、恋人になりたいと、更には生涯を共にしたいと思うのが本来の恋愛のあり方だ。自ら手間暇をかけて目の前の人を大事にするからこそ、相手も何か返したくなるのだ。与えられるのを待つのではなく、まずはこちらから与える。もちろん見返りなど求めずに。彼は私に手間暇をかけてくれた。まさに究極の足し算の愛を教わった。その手間暇が相手の心を開いていく。人との関わりがお手軽でいいわけないのだ。そんな大事なことをすっかり忘れていた。そして私も彼に対して圧倒的な尊敬と人として心から大切にしたいという思いがうまれた。

単に恋愛の好きとか愛してるとかそんなものでは薄っぺらくて、この先私と関わることがなくなったとしても幸せでいてほしい。と心から願えた。恋愛なんていう不確かなものじゃなくて、信頼関係の元にこの人との関係がこれからも続けばいいなと心から願った。間違いなく私の中に初めて芽生えたという感情だった。そう、きっとこの愛のことを敬愛と呼ぶんだと思う。男女関係なく、大切な人は何人いたっていいのだ。人生を豊かにするには人との繋がりが必須である。

関係構築が得意な彼だから、常に人もお金も愛も循環していた。彼のやりたいことをみんながサポートしてお金を生み出す。金額が大きい時はクラウドファンディングをする。彼が常に目の前の人に愛を注いでいるから、その人たちは彼の力になりたいと支援をする。お互いに恩や感謝が生まれて、縁が広がる。非難されないから挑戦ができる。その先には新しいものがクリエイトされる。それをまた周りが応援して当人たちは常にワクワクできるのだ。この循環はとても豊か。物質的な豊かさでは得られない幸せが存在することを知り、確実に私がこの先生きていく未来のロールモデルとなった。

まずは自分を大切にした上で、目の前の人を大事にする。それを繰り返してるうちに男女としてではなく人として相手を見ることができるようになる。本当に心が優しい人なのか、思いやりのある人なのか、寄り添い合える人なのか。そうなったときに初めて、見掛け倒しの優しさに騙されることなく大人の恋愛を始められるみたいだ。
彼と出逢わなかったら私はこんな大切なことに気付く事すらできなかったと思う。何度も救われた。出逢えてよかった。この場を借りて心からのありがとうとリスペクトを贈りたい。本当にいつもありがとう。

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