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札幌銭湯スタンプラリー2024のこと(その10・美春湯)

2024年7月25日、美春湯さんへ。
札幌銭湯スタンプラリー2024の10軒目。

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中学校時代、私は陸上部に所属していた。その地味さ故か、我々に与えられる練習スペースは僅かで、大変に肩身が狭かった。

我が中学にはサッカー部がなかったこともあり、グラウンドは野球部が大きな顔でほぼ独占していた。

「もも上げ」なる、焼き鳥屋のメニューみたいな謎過ぎる運動を繰り返す我らに、ライナー性の打球が襲いかかるなんてこともしばしばあった。

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オイコラふざけんなよ野球部!バッチ来いだのピッチャーびびってるだのうるせえんだよ!お通夜くらい静かな陸上部を見習えよ!

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うるさかったのは部員だけではない。
体育教師である顧問の怒鳴るような大声も、非常に耳障りだった。

「気合入れていけ!」
「気合見せろ!」

お前はアニマル浜口か。

もっとも、アニマルの気合は金になる、エンタメ気合だ。しかし、その顧問の気合はうるさいだけだった。マネタイズできない気合に意味なんてない。飛べない豚がアレなのと同様だ。

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その顧問が具体的な指示を出したことは、ついぞ一度もなかった。とにかく気合一辺倒。

「たぶんバカなんだろう。体育大学出身だし」

中2の私はそう結論づけた。
後にその顧問は音楽教師の大貫と結婚したのだが、その際には

「大貫もバカなんだろう。ピアノばっか弾いてるからだよ」

と結論づけた。今は反省している。

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当時は野村監督のID野球なるものが、野球に興味のない私にも届いていたくらい、世を席巻していた。
そんな世で気合野球。古田が聞いたら卒倒してメガネ全割れ、中井美穂もつられて血を吐きながらの七転八倒だったろう。

なんだよ気合って。軍国主義?玉砕?竹槍?

とにかく、気合などというあやふやな言葉で人を評したり、動かしたりしようとするのは大嫌いだ。

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あれから30年。美春湯を訪れるたびに私は思う。
「気合入ってるな!」

気合の何たるかを理解したわけではない。でも、そう思ってしまうのだ。

女将さんの元気な挨拶、熱い湯、キリッとした水風呂、綺麗に積み上げられた洗面器、日々ツイート(と絶対に言い続ける)される薬湯ぶち込み動画などが、そう思わせるのかもしれない。

いずれにしても、私は美春湯を訪ねるたび、忌み嫌っていた「気合」を感じる。

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気合が何なのかは結局わかっていない。
でも、気合が入っている(入っていない)としか言いようのないことがあると知った。あの顧問と音楽の大貫に謝りたい。

美春湯に気合を入れてもらった私は素直だ。

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10こめ。もも上げで帰宅したのはいうまでもない。

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