札幌銭湯スタンプラリー2024のこと(その27・鷹乃湯)
2024年9月26日、鷹乃湯さんへ。
札幌銭湯スタンプラリー2024の27軒目。いよいよラストである。
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このスタンプラリーは、どんな順番であろうと期間内に全ての銭湯を踏破すれば、景品と栄誉を手にすることができる。
しかし、私は、ラリーの最後を鷹乃湯で迎えると決めていた。
昨年も最後は鷹乃湯と決めていたのだが、諸般の事情により叶えることができなかった。
順番は関係ない。どこで始まってどこで終わっても、スタンプラリーは完遂となる。
しかし、どの湯でフィニッシュするかには拘りたかった。
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例えばサッカー。フィニッシュ、つまりゴールはどんな形であっても1点だ。リバウドのバイシクルシュートも、山口素弘のループシュートも1点だった。そして、しょうもないオウンゴールも、混戦からのごっつぁんゴールも同じく1点だ。
フィニッシュはどんな形であっても、全て1点なのである。でも、記録より記憶ではないけれど、人々を震えさせ、熱くさせるフィニッシュとは何か。答えは明白だ。
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例えばプロレス。10.9、武藤対高田が今でも色鮮やかに記憶されているのは、フィニッシュが足4の字だったことと無関係ではないはずだ。フィニッシュがエルボーやドロップキックだったら、10.9はまた違った形で語り継がれていただろう。
プロレスは、3カウントかギブアップを取りさえすれば、ルール上は勝ちである。エルボーでもドロップキックでも、あるいはアームホイップでもボディスラムでも、3カウントを取れば勝ちだ。ただ、それで納得、満足できるのか。
僕たちは、足4の字で、レインメーカーで、リキラリアットで、みちドラⅡで、スタークラッシャーで、フィニッシュしてほしい。
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例えばフレンチのフルコース。最後は「季節のフルーツジュレで味わうレアチーズケーキ」でなければならない。
締めが
「カロリーメイトでございます」
だったら、全部台無しだ。フルーツ味もチーズ味もあるけど、そういうことではない。
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とにかく、フィニッシュは大事だ。
ネロとパトラッシュが、ルーベンスではなく日野日出志の絵を前に息絶えていたら、どうだったろうか。
「笑っていいとも!」最終回に、おすぎと橋田壽賀子しか出てこなかったら、どうだったろうか。
そういうことだ。
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鷹乃湯がバイシクルシュートで足4の字でレアチーズケーキで、他の湯がオウンゴールでボディスラムでカロリーメイトだといいたいわけではない。ただ、詳述はしないが、私にとって鷹乃湯はちょっと特別な湯なのだ。
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「景品の手拭いがカッコいい」という理由だけで始めた今年のスタンプラリー。もっとちゃんとした夏の使い方があっただろうとは思う。思うけれど、これはこれでちゃんとしていた。
iPhoneなんてなかった時代、通勤の地下鉄や居心地の悪い飲み会をどんな風にやり過ごしていたのかが思い出せないように、銭湯を知らなかった私がどんな夏を過ごしていたのか、記憶はない。
記憶がない過去の先端に、銭湯でスタンプをもらってニヤニヤしている自分がいる。
いずれにしても、よい。これでよい。
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山口のループシュートや武藤の足4の字のような瞬間は、また来るのか。来たとて、それをあの時と同じ熱量で享受できるのか。わからない。
でも、それでよい。
いまの俺には銭湯がある。
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日々の銭湯で少しニヤニヤして、自分は大丈夫だと言い聞かせて、余裕があれば、あの人も大丈夫であるようにと祈って、恐ろしいことから距離を置いて、好きな歌を口ずさんで、カレーを食べて、ハイボールを飲んで、永遠みたいに寝る。
それでよい。
いまの俺には銭湯がある。
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26こめ。ありがとうございました。