「漫才協会 THE MOVIE」(または大空遊平)と円山温泉のこと
2024年3月24日。
映画「漫才協会 THE MOVIE」を観に行った。
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四半世紀前、私は「ケーシー高峰のファン」というニッチな高校生だった。
「他人とは違う、ちょっと変わった自分」を演出するという思春期特有のアレではなく、本当に心からケーシーさんが好きだったのだ。
ステージに登場するなり、拍手を止めない客席に向かって
「静まれこのバカ!」
と毒づき、その後は下ネタのオンパレード。
面白いを通り越して、カッコよかった。
バイクを盗んだり、校舎の窓ガラスを壊して回るより、よっぽど不良でロックじゃないか。
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当時のケーシーさんはNHKラジオの「真打ち競演」という番組によく出られていたので、熱心に聴いていた。
もちろんMDに録音し、ケーシーさんの出演部分だけを編集。ラベルには「Ultimate KC's show」と書き、悦に入っていた。
モテなかった。
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その番組には、ケーシーさんと同じくらいの頻度で「大空遊平・かほり」という漫才師が出演していた。
「恐い嫁と尻に敷かれる旦那」というオールドスクールな夫婦漫才で、高校生には味が濃すぎたものの、素なのか芝居なのか、遊平さんの弱々しい声色と口調は印象的だった。
笑点だっただろうか、テレビでそのお姿を見かけたこともあった。
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現在に話を戻す。
映画「漫才協会 THE MOVIE」を観に行った。
開始早々、遊平さんが出てきた。遊平さん「だけ」が出てきた。
そういえば、かほりさんとは離婚、解散したと何かで読んだ記憶がある。
遊平さんは、あの日に観た笑点とはまるで別人のようだった。
ニッチな高校生がニッチな中年になるくらいの時間が流れたので、当然である。誰しも歳はとる。
いやでも、スクリーンに登場した遊平さんを「老けたな」の一言で片付けることはできなかった。
右腕が、ない。
遊平さんは酔っ払って線路に転落し、電車に轢かれて右腕を失ったという。
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その映画には色々な芸人さんが登場した。
右腕を失った者、相方が亡くなったためピン芸人として歩む者、シェアハウスに住みながらお笑い界の天下を狙う者。
みんな、うまくいってほしい。
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映画の余韻に浸りつつ、円山温泉へ。
そこにも色々な人がいた。紋々を背負った者、子連れの者、映画帰りの者。
芸人に、映画に限ったことではない。銭湯には、世の中には、色々な人がいる。
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彼らにもうまくいってほしい。
いや、そういう俺はうまくいっているのか。
たまたま銭湯で一緒になった人たちの成功を祈る資格は、俺にあるのか。
そもそもうまくいくってなんだ。
大金を得る。地位を得る。テレビに出る。東洋館の舞台に立ち続ける。五体満足で生きる。銭湯に入る。
どこに向かっているんだ、俺は。
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湯に浸かりながら、自問自答を繰り返す。
悪い癖だ。風呂なんてのは、馬鹿っ面で日頃の全部を忘れるためにあるんだよ。
うるせえ、俺!
静まれこのバカ!
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