札幌銭湯スタンプラリー2023のこと(その25・真駒内湯)
札幌銭湯スタンプラリー2023、25軒目は真駒内湯さんへ。
いよいよ最終盤だ。愛は地球を救うなら、みんなで「負けないで」を唄いだす頃だろう。
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私の仕事は暦通りだ。
今日は土曜日。
つまり本日は休みである。
以上が選ばれし天才にしか扱えない三段論法というやつだが、それはさておき、とにかく今日は休みなのだ。
本来ならば。
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数日前、課長がニコニコしながら近寄ってきた。
「申し訳ないけど、土曜日、出られる?」
休日出勤。私が1番嫌いな4文字だ(2番は誤認逮捕)。
しかも3連休の初日ではないか。そんなもん、出るわけないだろう。
「あー、その日はちょうど親戚が何かあるらしくて自分もちょっと色々でとにかくマジ無理です出られません嫌です行きません舐めんな」と巧みにかわそうと思ったが、課長が続けた言葉で踏みとどまった。
「しかも場所が真駒内なんだけど、どうかな?」
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真駒内か。
スタンプラリーは残り5軒。そのうちのひとつが真駒内湯だ。
これはむしろチャンスではなかろうか。
「行かせて下さい!」
志願兵、ここに現れり。
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仕事とはいっても、見張り番みたいなものだった。ボーっと突っ立って時々おっぱいのことを考えたりしているうちに終業。
時計を見ると14時を少し過ぎたところだった。徒歩で向かえばちょうど開店のタイミングだろう。
アイスアリーナで三代目 J SOUL BROTHERSのライブがあるらしく、若者の群れをかき分けながら向かった。
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思惑通り、開店直後に到着。
「ご主人は何代目ですか?」
そう尋ねたい気持ちをグッと堪えつつスタンプ用紙をお渡しした。
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全ての人が暦通りに働いているわけではない。
当たり前だとわかってはいるけれど、その当たり前を意識することは日頃ない。
「最後の赤ワインが余計だったな…」と後悔しながら水をガブガブ飲んでいる土曜の朝。そんなときにも仕事へと向かっている人が、あるいは仕事をしている人がいることを、どう意識できようか。
しかし今日。普段は乗ることのない土曜朝の地下鉄。車内にはスーツに身を包んだオッサンやお姉さん。
「そりゃ土曜だって仕事の人はいるよな」と実感した。
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開店直後の真駒内湯、なかなかの賑わいだった。
土日祝には及ばないだろうが、平日の開店直後もそれなりにお客さんはいるだろう。
私が歯を食いしばって仕事をしているときに銭湯なんてムキーッ!とは思うが、私が深酒を後悔しているときに働いている人だっているのだ。ムキーッ!は勝手すぎる。
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自分が普遍的で、標準で、ノーマルだなんて、のぼせ上がりも甚だしい。
色々な時間に色々な場所で色々な人が仕事をしたり、湯に浸かったり、おっぱいのことを考えたりしている。
みんながもう少し想像力を働かせれば世界はもっと優しくなるのではと、熱々の湯で思った。
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私と入れ違うように、妙齢の女性が暖簾をくぐって湯へと吸い込まれていった。
土曜の16時、どんな事情で銭湯へ。
大きな湯船に浸かりたかった。
サウナに入りたかった。
毎日来ている。
家の風呂が壊れた。
神のお告げ。
あるいはスタンプラリーか。
いや、想像力は大事だが、自分を標準にしてはいけない。