さくらあやのこと(その2)
1年と少し前。
よい年をして新人女子レスラーの、さくらあや選手に熱を上げていたところ、所属団体のスターダムが北海道遠征にやってくると知り小躍りしたが、さくら選手の欠場が直前で決定。不貞腐れたが、それでも観に行った久しぶりのプロレスは大変面白かった。
というようなことを書いた。
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その後、さくら選手の復帰はなかなか果たされず、さくらんぼう(ファンの総称。オードリーでいうリトルトゥース)をやきもきさせたが、3月に無事リングへカムバック。
復帰するや否やコズエン入り希望である旨を表明し、厳しいトロピカル審査を経て正式加入。最近ではシングルで初勝利をしたり、タッグながら金星をあげたりと、着実にキャリアを重ねている。
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というのが、この1年の大まかな経過である。「トロピカル審査」とか自分でも何を書いているのかよくわからないが、事実なのだからしょうがない。
そんな中、スターダムは今年も札幌へとやって来てくれた。祝・さくらあや選手初来道である。修学旅行とかで来てるだろうとは思うが、プロレスラー・さくら選手としては初めてである。めでたい。
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ありがたいことに、7月27、28日と2連戦の興行だった。
1日目。
さくら選手の出番は第2試合だったが、私にとってはメインイベントである。
すっかり耳になじんだテーマ曲が流れる中、姿勢を正して敬礼&万歳&テープカット&くす玉割り&鏡開きで、さくら選手を迎えた。
この瞬間を待っていた。
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さくら選手は、全ていつも通りだった。
花道を進む笑顔、コール時の凛としたハイキック、声援に応える溌剌とした「はいっ!」という声。
全ていつも通りだったが、ただ唯一違ったのは、その光景がiPhoneの画面でなく、眼前で繰り広げられていたことだ。
1年間、この日のために頑張ってきたのだ。
俺よ、よくやった。
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相手は鹿島沙希選手。曲者である。
さくら選手はゴングと同時にフライングニールキックを放つと、その後は得意の蹴りでラッシュ。
「畳みかけろ!やっちまえ!」
と思った刺那、鹿島選手の起死回生(という技)がさく裂。気がつくと3カウント。さくら選手の負けである。試合時間26秒。
もう一度書こう。俺は1年間、この日のために頑張ってきたのだ。
試合時間26秒。
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私の表情は「鳩が豆鉄砲を食ったような顔」もしくは「推しが26秒で負けたような顔」だったと思う。
確かに起死回生は、流れに関係なく一発で試合を終わらせられる、ドラクエでいえばザキみたいな技である。鹿島「沙希」と「ザキ」でダジャレになっているが、事故なので許してほしい。
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もちろん文句を言うつもりはない。
いつ何が起こるかわからないということを、さくら選手は身をもって教えてくれたのだ。
人間万事塞翁が鹿島沙希。
勝負事とはいえ、2日目も秒殺だったら消費者センターか法テラスに相談しようと思っていたところ、翌日はアメリカ遠征が予定されているHANAKO選手を相手に善戦し、惜しくも敗れた。
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遠征壮行試合ということで、試合後はHANAKO選手がマイクを手に取りご挨拶。
「頑張ってきます!」
くらいにしておけばよかったのだが、さくら選手を罵り倒した。
HANAKO許すまじ!ボコす!
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鼻息を荒くしたが、HANAKO選手は181cmもあるので、どう考えてもボコされるのは165cmの私である。人類初の「死因:アルゼンチンバックブリーカー」は勘弁だ。
さくら選手は苦い表情でボトルを叩きつけていた。
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推しが悔しがっているときに思うことではなかったが、やっぱりプロレスはよい。
秒で負けたり、怒ったり、裏切ったり、何が起こるかわからない。
大人なので、次の選挙で誰が勝つとか、明日の日替わりランチが何なのかとか、おおよそのことはボンヤリながらも想像がつく。それによって生きやすくなっている部分もあるが、面白くはない。
あの定食屋が明日の日替わりランチで出すのは、サバ味噌煮定食だろう。ジャンバラヤだったら面白いのに。
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せっかく生きているのだから、楽しいことや面白いことは多いほうがよい。
だから私はプロレスを観て、さくら選手に声援を送る。銭湯に行くのも然り。ジャンバラヤは食べたことがない。
さくら選手のおかげで日々が少し楽しく、面白くなっている。
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話は前後するが、大会前日には札幌市内でサイン会が催された。
おっさんが馳せ参じてよいものかという逡巡はあったが、もちろん行った。現場にはおっさんも子どももたくさんいたので全く問題はなかった、と思いたい。
「さくら選手のおかげで日々が少し楽しく、面白くなっていること等々を直接伝えよう!」
と張り切っていたのだが、いざご本人を前にして口をついたのは
「すいません、今ちょっと泣きそうです」
だった。
直立不動のおっさん(しかも明らかに仕事帰り)にそんなことをいわれたら、さすがに怖かったと思う。申し訳ない。
あと、めちゃくちゃ可愛かった。今まで目にした生命体の中で2番目に可愛かった(1番はレッサーパンダ)。
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なお、今回の興行が行われたガトーキングダムは、日帰り入浴も可能なホテルである。
サウナのイベントを催すなど非常に頑張っているが、キングダムを名乗る風呂に私のようなクソ平民が入るのは恐れ多かったので、スターダムに専念させていただきました。ありがとうございました(とってつけたような風呂の話)。
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