札幌銭湯スタンプラリー2024のこと(その16・円山温泉)
2024年8月20日、円山温泉さんへ。
札幌銭湯スタンプラリー2024の16軒目。
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人の形をしたオケラこと私だが、どういうわけか研修講師のお仕事をたまにいただく。研修のテーマは様々だが、総じて真面目である。
なにしろ根が不真面目な人間だ。真面目な顔で真面目な話をしている自分に、時折耐えきれなくなる。
そんなとき、耳元で悪魔が
「おちんちん出しちゃえよ」
などと囁くものだから、わずかばかりの理性で抗うのに必死だ。
たまには愉快なテーマをオーダーして欲しい。
「好きなプロレスの技ベスト10」とかなら
「第7位は外道クラッチなんですけれども、そもそも邪道・外道は…」
と滑らかに話せるのだが。
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先日もある職業の人たちに向け、偉そうに話してきた。テーマは、大雑把にいうと、コミュニケーションに関することだった。
言わずもがな、友達もろくにいない私が話すべきではない。
休日の夜、
「今日『クイックペイで』しか言ってねぇな、俺」
などと1日を振り返り、枕を濡らすようなこともある。
そんな人間がコミュニケーションについて語るだなんて、泥棒が一日警察署長をやるようなものだ。
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もちろん、ご依頼をいただいた以上は一生懸命にやった。おちんちんも奇跡的に出さなかった。
ただ、信じられないくらいに手応えはなかった。たぶん
「こいつ、友達もいないくせに偉そうで草www」
とか思われていたに違いない。
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そもそも手応えを感じることなんてあるのかというと、意外にも少しはある。
例えば熱心にメモを取っている人がいたりすると「よっしゃ」だ。
メモではなく「ぼくの考えた悪魔超人」を描いている可能性を否定できないが、百歩譲ってそれでも嬉しい。
いずれにせよ、1時間にわたってスべり散らかした。
漫談をしたわけではないので「スベった」という表現は不適切かもしれないが、それでもあの雰囲気は「スベった」という言葉が一番しっくり来る。
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全く笑いが起きない漫才、全く声援が飛ばないプロレス。観ているだけでしんどくなってしまう。
「もうやめさせてあげて!」
と叫びたくなる。
しかし、その主体になってわかった。やめるわけにはいかないのだ。
笑いがなくても、声援がなくても、誰もメモを取ってなくても、show must go onなのである。
地獄のような空気は、主役が一番感じている。
どうにもならないことをわかっていながら「なんでやねん!」と頭を叩き、「終わりだー!」とダイビングボディプレスを繰り出し、「では次のスライドをご覧ください」とキーボードの「N」を叩く。
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円山温泉の湯船に浸かりながら、振り返った。
「俺にコミュニケーションの話をオーダーする方が悪い!大谷翔平にポートボールをやらせるようなものだ!」
責任転嫁をしてみたが、恐らく大谷はポートボールでも活躍する。自分と並列にしたことを恥じた。
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円山温泉は常連さんで賑わっていた。
「こんばんは」
「今日は早いね」
「リハビリが休みだったんだわ」
「なんだ、まだ腰悪いのかい」
コミュニケーションの鬼である。俺なんかより、円山温泉の常連が講師をやるべきだろう。
あるいは、受講者が近場の銭湯に行ってコミュニケーションスキルを磨くべきだ。
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16こめ。なお、好きなプロレスの技第1位はファイヤーバードスプラッシュです(ただしハヤブサに限る)。