【レポート】MZ Senior JAPAN TOUR 幸田大会
2024年3月17日。新たなシリーズ戦が幸田サーキットYRP桐山で遂に幕を開けた。
今大会の参戦ドライバーの平均年齢は41.6歳。全国各地を転戦することから、まさに「オトナの全日本選手権」といえるであろう。
しかし、走ってしまえば年齢など関係なし。他のシリーズ戦に引けを取らないハイレベルなバトルが常に繰り広げられた。
注目ポイント
オールウェザータイヤSL98の可能性
つま恋でのMZシリーズに続き、新たにMZ Senior JAPAN TOUR(以下、MZSJT)で採用されたオールウェザータイヤ「DUNLOP SL98」
インターバルの短い本大会に対応すべく、急な雨でも”そのまま走れる”パッケージを目指して採用された。
しかし、参戦ドライバーからは「滑り出しが穏やかで乗りやすい」と”ドライ”での評価も好評だった。
それ故に全車戦闘力の差がほぼなく、イコールコンディションに限りなく近い状況でのバトルが実現した。
今回はドライのみだったが、ウェットでの性能にも期待が高まる。
公式練習(20分)+タイムトライアル(10分)
午前9時、公式練習+タイムトライアルが開始された。
公式練習終了後にそのままタイムトライアルを開始するため、走行可能時間は合計30分と他に類を見ない設定となっている。
開始直後、全車が一斉にコースインしていく。他にない最長スケジュールだったからか、戦略は手探り状態で皆ほぼ同じようだ。
その予想通り、マシンの感触を掴んだものから続々とピットインしていく。開始17分には全車ピットイン。タイムトライアル開始をピット作業エリアで待つ作戦を取っていた。
駆け引き上等「スリップストリームの取り合い」に
公式練習開始から19分経過。タイムトライアル開始30秒前ほどから一気に全車コースイン。
ストレートの長いハイスピードコースでは、スリップストリームをいかに有効活用するかでタイムに大きく影響する。今回のタイムトライアルは”スリップストリームの取り合い”となった。
しかし、そこに1台出遅れてしまった車両がいた。
#73 柿本真輝(SAFARI&VehCOOL)だ。アウトラップでの他車のペースアップに遅れをとってしまい、集団から若干離れてしまった。
しかしその後のペースアップが良く、集団にみるみる近づいていく。タイムも一時はトップタイムを叩き出し、単独でもタイムを出せることを証明した。と言うよりは、4台分のスリップストリームを邪魔にならない距離感で常に活用できていたのかもしれない。
タイムトライアル残り5分を切ったところで、集団に柿本も加わり全車での駆け引きが勃発。集団の先頭に出たらバックストレートで進路を譲る場面が多々見られた。
順位も毎周変動するデッドヒートに。
最終的に#27 舟橋弘典(Let Wing)が53.353を叩き出しトップに。#16 北野信孝(RS Yamamoto)が53.417で2番手、柿本は53.574で3番手となった。
第1戦 「レース 1(Feature Race)」
レース 1(Feature Race)として行われる第1戦は20周と全日本カート選手権並みのロングレースとなるが、そうと感じさせないバトルが常に繰り広げられていた。
スタートからホールショットを決めたのは舟橋弘典。その背後に北野が着ける。3番手スタートの柿本はスタートで出遅れ#15 市原康裕(RS Yamamoto)に抜かれ4位に。
舟橋弘典はこのまま後続を引き離すかと思われたが、背後から北野、市原とRS Yamamotoの二人が近づき、3台でのバトルに。4周目のAコーナーで北野が舟橋弘典のインに飛び込みトップに浮上。しかし5周目のショートヘアピンですぐさま舟橋弘典がやり返す。後ろから市原もチャンスを伺っている。
先頭集団がバトルを始めた瞬間、後続の車両も追いついてきた。柿本を捕らえ4番手に浮上した#23 舟橋陵(Vifonte with Ash)も先頭集団に加わり4台パックに。7周目には市原が北野をショートヘアピンで抜き2位に浮上したが、これもAコーナーで北野がやり返す。
タイムトライアルとは一転、やられたらやり返す。駆け引きなしのバトルが繰り広げられていた。
5台1パック。MZシニアらしいレーシングバトルへ。
この攻防を繰り返しているうちに5番手の柿本も加わり全車5台での争いに。まずは10周目に舟橋弘典が動いた。1コーナーで北野のインに並び、2コーナーでアウトに膨らんだ隙を狙いクロスラインで抜き去るという高度な技を魅せた。
毎周トップが入れ替わる中、16周目にトップ集団が大きく動く。
トップの北野、2番手の舟橋弘典が3コーナーで若干バランスを崩し失速、その隙を狙い還暦ドライバー市原が勝負に出た。バックストレートで舟橋弘典の横に並び2位へ、その勢いのままショートヘアピンで一気に北野に仕掛けるも止まり切れずスピン。最年長ドライバーがトップに浮上する瞬間が実現するかと思われたがあと一歩及ばなかった。
これで舟橋陵が3位に浮上。しかし前との差があり、トップ争いは北野、舟橋弘典の2名に絞られた。
17周は舟橋弘典が10周目に魅せた技で2コーナーでトップに浮上。しかし直後の18周目に北野が1コーナーで舟橋弘典のインに飛び込み、北野は2コーナーもアウトから被せて前に出た。舟橋弘典とは異なる技で、同じ場所でやり返した。
舟橋弘典は1周様子を見て、19周目のショートヘアピンで北野を抜きトップを奪還。トップ2がやり合う背後では舟橋陵も近づいてきた。
3台パックで迎えたファイナルラップ。ショートヘアピンで舟橋陵が北野に仕掛けるも一歩及ばず。トップの舟橋弘典は守りのラインで背後からの攻撃を警戒していた。
そして、そのまま順位変動はなく舟橋弘典がトップでチェッカー。2番手には北野、3番手には舟橋陵となった。
第2戦 「レース (Sprint Race)」
13周と、レース1より短い周回数で行われる第2戦 「レース (Sprint Race)」
レース1の順位結果をリバースしてグリッドを決定し、柿本がポールポジションとなった。
スタートでは、第1戦の覇者である舟橋弘典が最後尾からロケットスタートを決め一気に2位に浮上。躊躇なく柿本にプレッシャーを掛ける。
1周目は柿本がトップを守り切るも、2周目のショートヘアピンで舟橋弘典に先行を許してしまう。舟橋弘典はそのまま逃げの体制に入った。
他のドライバーも後に続くかと思われたが、柿本の防御に北野が苦戦。その真後ろでは舟橋陵が市原をAコーナーで捕え4位へ浮上。両者ともにペースの上がらない2位争いに追い付き、4台パックへ。
4周目のAコーナー、北野が柿本のインをこじ開け2位に浮上。遂に4台パックから抜け出した。
しかし、この時に既にはトップの舟橋弘典とは2.6秒の差がついてしまっていた。
脅威のペースで猛追。トップはラスト3周で決戦を迎える。
レースは後半にかけて膠着状態になると思われたが、脅威のペースで前を追う者が2名いた。
1人は前半に順位を落としていた還暦市原だ。8周目のバックストレートで柿本を捕え、9周目には53.088をマーク。レース2のファステストはもちろん、この日のコースレイアウトでのコースレコードを叩き出した。還暦市原の勢いは止まらず、10周目のショートヘアピンで舟橋陵を捕え3位に浮上。表彰台圏内に躍り出た。
そしてもう1人、北野だ。
2位に浮上した時は2.6秒の差が開いてしまい万事休すかと思われたが、トップの舟橋弘典より1周0.3秒以上速いペースで猛追。11周目、遂に舟橋弘典を射程圏内に捕えた。
11周目、残り3周。遂にトップ争いが始まる。
早速北野はAコーナーで舟橋弘典のインに飛び込みトップに浮上。しかし舟橋弘典は12周目の1、2コーナーで応戦。そこに負けじとショートヘアピンで北野がインに飛び込み再びやり返す。駆け引き一切なし、意地と意地のぶつかり合いが繰り広げられた。
そして迎えたファイナルラップ。舟橋弘典は得意の1、2コーナーで北野を捕えトップへ。
そのままショートヘアピンからは北野に一瞬たりとも隙を見せない脅威のディフェンス走行でトップを守り切り2連勝を飾った。
2番手には北野、3番手には還暦市原。還暦市原は最終ラップにはトップ2の真後ろまで追いついていた。
総評
楽しく、旅行感覚で挑む"レーシングバトル"
旅行感覚で全国を転戦し、楽しみながら「全日本選手権」気分を味わうシリーズを目指して始まった本大会。
パドックや前夜の宴会では皆でワイワイ、いざヘルメットを被れば皆"真剣に楽しむ"レースとして、幸田大会を終える事ができたのではないだろうか。
実際、レース自体は想像以上にハイレベル、且つクリーンな戦いとなり、MZシニアらしいレースを見る事ができた。結果的に「ベテランドライバーの2連勝」に終わったが、誰が勝ってもおかしくない状況だった。
年齢、実績、身分など関係なく、己の努力次第でトップを狙えるカテゴリーとして、相応しいと感じた1日だった。
次回は6月9日にTSタカタサーキットにて開催。次戦も魅力的なレースが見れる事を期待しよう。
午前中で全スケジュールが終了。天候にも恵まれた結果に。
MZSJTの特色の一つでもある「午前中で全スケジュールが終了」
これにより、今回は天候にも恵まれた。
結果論ではあるが、数日前から雨予報が警戒されていた当日に雨が降る前に終える事ができた。
ドライバー、チーム関係者は雨に濡れる事なくサーキットを後にすることができたであろう。
そんな中、午後から開催されたM4 カートレース WESTでは「あるドライバー」が走り出してから雨が降り出したという。
MZSJTの主催者、大井偉史だ。実は飛び入り参加していたのだ。
走る度に雨が強まり、最終的にはヘビーウェットに。
当日のMZSJT関係者の中で唯一"ずぶ濡れで"サーキットを後にしたのは彼1人で間違いないだろう。
雨男で定評のある彼だが、まさかここまでとは…
写真提供:TOKONAME CHARSIU📸 様