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史上最大の不祥事 『陸奥爆沈』を読んで
今日は2024年8月15日、日本の終戦記念日です。 世界的には降伏文書に署名した9月2日(もしくは3日)が終戦日なのに未だに欺瞞満載で15日にやるの?っていうのは置いて、ちょうど『陸奥爆沈』を読んだののでNOTEしておこうと思いました。
史上最大の不祥事
当時は秘密にされたこともあり、あまり有名でない日本最大の不祥事に「陸奥爆沈」という事件があります。タイトルの写真は爆沈し、その後引き上げられた陸奥の主砲塔だそうです。
陸奥は当時の「スーパー戦艦」で16インチ(40センチ)口径を持つ主力艦は全世界で7隻だけ、そのうちの1隻でした。(日本はもう1隻、旗艦だった長門がありました)1921年に竣工、1924年~1936年に改良工事を経て帝国海軍の最強戦艦として君臨。 出撃はあまりなく、主な出撃は兵員輸送で使われたあとミッドウェー海戦で後方にとどまり、赤城の生存者を呉に運ぶ人員輸送など。。
その後も、あとから就役した大和と共に燃料不足と需要の無さから待機ばかりとなり、敵の一弾すら受けることも無く日本国内で爆沈しています。
そして、その理由は兵曹の不満からの放火、もしくはモラル低下からの人為的な出火と見られています。
その事件のドキュメンタリーが吉村昭著「陸奥爆沈」です。
事件の概要
昭和18年(1943年)6月8日正午過ぎに爆発。事件の日は先に亡くなった、総司令官山本五十六元帥の国葬の3日後でした。
乗員1,474人のうち、助かったのは353人。1121人の方が犠牲になっています。しかし、当時は戦時中だったので隠蔽が先で事故についての調査や反省は少なかったようですが発火原因については科学的な究明が徹底的になされています。
陸奥の第三砲塔弾薬庫と全く同じ構造の模型を建造し、陸奥生存者立ち会いのもとで各種の実験を行うという本格的なものだった[134]。この実験でも、三式弾の劣化等による自然発火は発生しないことが確認された。
…検討の結果、火薬の自然発火とは考えにくくなった。
三式弾と言うのは主砲など大型の大砲から発射できる巨大な散弾で航空機や地上軍に広範囲に打撃を与える事ができる、日本の誇る最新兵装備でした。全ての戦艦や巡洋艦が搭載していたので、海軍にとって大問題で潜水調査や引き揚げ、火薬の発火実験など徹底的に調査が行われました。
隠蔽工作の可能性が浮上
直前に陸奥で窃盗事件が頻発しており、その容疑者に対する査問が行われる寸前であったことから、人為的な爆発である可能性が高いとされています。
そう、「他の犯罪を隠すために犯人が放火をした」という隠蔽からの放火、爆発という説があるのです。ミステリー小説か!
また、その背景には乗員のいじめによる自殺や一下士官による放火などの説も挙げられていて、一言で隠蔽で終わらないモラルの低下諸々の前提にあったということが、その後の調査でわかっているそうです。
泥臭く戦争犯罪印象もある陸軍とちがい、工業癒着もあり華やかで上品な官僚組織な印象もある帝国海軍ですが、やはり暴力装置なので実際の現場では問題があったようです。(まあ戦争中ですし。)
華やかさについてはさまざまな伝説があり、有名な話では大和や武蔵には高級家具やら清涼飲料水製造設備まであり「ホテル」と揶揄されていたとか。
事件はミッドウェー海戦で帝国海軍が主戦力の空母を失った半年後で、竣工から開戦後、戦功なく敗色ムードになっていくストレスも乗組員たちの間で広がっていたかもしれません。同開戦では赤城などの生き残り・負傷者を陸奥などの艦艇に乗せて日本に輸送したそうで、乗員のムードを低下させるに十分悲惨なイベントだったことでしょう。
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連合艦隊は虎の子の空母4隻と錬度の高い搭乗員を一挙に失った
ちなみに、事件後の陸奥は75%ほどが引き上げられ調査の上、リサイクルされたそうですが残りの部分は今もダイビングで見れると話題になっています。
実は前にもあった爆発・爆沈
この本の中で、陸奥より前におきた爆発事故について詳細に調査した経緯と結果が記され、3割位くらい紙面を使っています。というのも7件おきた爆発事故・事件はすべて人為的なものと見られています。そのために海軍は繰り返し対策を取っていて、「なぜ陸奥は爆沈したか」の推理から外せないからです。
「三笠」の爆沈事故
大日本帝国海軍では「陸奥」以前にも、停泊中の艦船で火災や爆発により多数の殉職者を出した事故が7件も起こっていました。中でも有名なのが明治38年の「三笠」の爆沈事故で、佐世保軍港に係留中に発生した火災が原因で消火活動も虚しく12インチ主砲弾火薬庫に延焼、爆発。死傷599人の大惨事となりました。
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三笠は2回爆発事故・事件をおこしていて、1回目は停泊中に水兵たちが飲み会を企て工業用アルコールを飲用に使うために臭い消しで火をつけた(苦笑)ら延焼してしまい爆発。なんと弾薬通路で行っていたという。
2度めは自殺を図った水兵が火薬庫に放火したものだったそうです。「筑波」「河内」「松島」の爆発も自殺のための放火と見られています。
これはイジメによる現代の自衛隊の自殺騒動とはちょっと違う社会状況が有ったようで、背景としては
貧農の3男以降が兵隊になりがち(居場所がない)
他の理由でも家庭環境が悪い人が軍隊へ
社会全体のモラルが低く、家庭教育モロモロが悪い時代
といった事情もあったようです。
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戦争は国ごと暴力を組織化・正当化する「野蛮」な状態ですが、戦後の凶悪犯罪のグラフを見ると、なんとなく想像することが出来ます。
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日進の爆発事故(事件)
さらに1912年に巡洋艦日進で起きた火薬庫爆発事故は、不満を持っていた乗組員の放火によるものでした。公式には事故とされていますが、故意の犯行による事件だったようです。
寄港していた清水港で「日進」の火薬庫爆発が発生した[5]。午後6時50分ごろ後部8インチ砲塔付近で爆発が発生したが、火薬庫注水などの措置が迅速に行われ、損傷は軽微なものにとどまった。人的な被害は死者2名負傷者17名であった。…不満を抱いていたこの人物は艦長に脅迫状を送ったものの反応がなかったため艦の爆破を企んだのであった[8]。その後、予備役二等兵曹は、翌年の1914年7月7日に舞鶴鎮守府軍法会議によって死刑判決が下され、1915年に死刑執行されている
明治38年から13年の間(1905~1918年)に7回のうちイギリス製の火薬が原因と見られる1件を除きすべて故意・犯罪、もしくはずさんな管理が原因と見られているのですが、中には船内の盗みだけでなく船外でも強盗殺人をした挙げ句に火薬庫に放火と、真正の犯罪性癖社が紛れ込んでいたりで海軍首脳の想像をはるかに超えるNetflixなの?という問題が起きていました。
そんなわけで、最終的に人選から火薬庫管理まで厳しい管理体制を積み上げ、海軍の運営が盤石と思われた戦時中に25年ぶりにおきた世界最大の軍艦惨事が陸奥爆沈だったのです。
原因はブラック?人間の性?
おそらく両方なのでしょうが、兵隊になるぞ!と志願して戦艦に乗る1000名以上の人の中におかしい人も居るよね、というのは少なからずあるようで、人間世界の大変さみたいなのが濃縮され始めると放火、爆発、という悲劇につながるのかもしれません。特に明治大正に起きた事件では精神異常者や犯罪性癖のある水平によって故意におきた爆発がいくつもあり、他の事件も教育や素行の悪さが原因?というような原因がありました。例えば館内での飲酒喫煙が普通におこなわれ、高濃度アルコールとタバコが火災の原因になったりしています。
諸説あるようですが人類の1~5%くらいがサイコパス、男性は女性の2倍などと言われて最近はよく使われるようになりました。
ちなみにわたしがサイコパスを知ったのはBBC製作のこのドラマ。刑事がサイコパス(しかも女性)に追い詰められていくお話ですが、サイコパスの犯人の考えが突飛すぎてついていけないレベルでした。ちなみに統計ではイギリスはサイコパスが多いみたいです。凄惨な歴史や環境がそうさせるのでしょうか。
水兵全体の実態と犯人の奇行の格差
話を戻すと、ヤバい水兵がいる一方で真面目に勤めを果たそうとしていた人たちが圧倒多数だったのは救助や調査の話でもよくわかります。 調査では「そんな事が起きるはずがない」という返答も多かったのだとか。
「戦争だ!」とメディアなどのプロパガンダに乗っかった当時の日本人はかなりウブで真面目だったのです。生き残られていた方のこんな談話がありました。
戦後は現在の長野県小海町に帰郷して27歳で結婚し、4人の子どもに恵まれた。しかし、「どうして自分だけ生き残ったのか」との思いにさいなまれてきた。 … 戦後78年がたち、記憶の風化が進む。篠原さんは「かつて戦場に赴くことなく、消えていった命があった。そんな理不尽な戦争の事実を命が続く限り、語り伝えていきたい」と語った。
理由はともあれ、生き残られた方にも大きな心の傷を残しその後の人生にも多大な影響を与えたことは想像に難くありません。
製造中からすでにわかっていそうですが,日本の巨艦大砲主義は時代遅れで途方もない無駄でした。現代ではデジタル分野でも繰り返し政府がやらかしていますが、近代になってからは似たような繰り返しで、何かこの人たちには欠陥でもあるのかな?とつい疑いたくなるレベルです。
最近の無駄といえば
2017年に北朝鮮が相次いで弾道ミサイルを発射したことを背景に、イージス・アショアの配備計画が決定されました。今回、イージス・アショアの配備が白紙に戻されました。
幸い、配備に至りませんでしたが関係者の使った費用は膨大だったことでしょう。
イージス・アショアは、イージス艦(BMD対応型)のBMD対応部分、すなわち、レーダー、指揮通信システム、迎撃ミサイル発射機などで構成されるミサイル防衛システム(イージス・システム)を、陸上に配備した装備品であり、大気圏外の宇宙空間を飛翔する弾道ミサイルを地上から迎撃する能力を有しています。
1発数十億円なのでテストするだけでもすぐに数百億円になるそうで、北朝鮮のミサイルがアップグレードされ検証するのに追加で500億円、と配備する前から費用計画がメチャメチャになり、そもそも無理があるからアメリカの廃品なのだし、、、ということで終了となったようです。ちなみに代わりのイージス艦配備は1兆円では足りないという話もあり、それでもドローン開発の目処はないとか存在が無駄な防衛庁と、それを指導するはずの無能な国会&日本の政治家、という見慣れた光景が広がっています。税金使いたい,なんかやりたい、みたいな業界の圧力たるや…でしょうか。
陸奥爆沈のすごいところ
話を本に戻しますが、ネタバレにならない範囲でこの事件の凄いところを一つ挙げると、爆沈後の隠蔽工作です。戦時中で敵に知られてはならないという事で周辺住民や市民だけでなく,味方の兵士にも知られないようにする必要がありました。しかし、巨大な戦艦が爆発して装備品と1000人以上の水兵が海中に沈んだのですから、周辺の島に何が流れつくかわかりません。また大爆発の音もそれなりに広い範囲に鳴り響いています。当時、数百人の兵士を動員し、遺体捜索と回収や残留物の回収焼却をする必要がありました。もちろん秘密の作戦です。また生存者は軍艦に拘置され監視,監禁同然のうえ死体の回収処理などを命じられていたそうで、事件の後も大変な思いをされていたようです。 これらの事だけでもどれだけのドラマがあったのか。映画化して欲しいなと思いました。
それともう一つは、この作品は珍しく吉村昭が主体で「私」として綴られている点です。氏のベストセラー「戦艦武蔵」でも書かれていましたが、戦後になっても多くの関係者が当時の厳しい秘密主義と脅しの恐怖があり、取材が大変だったようです。恐らくは関係者に責任が及ばない、また心理的な負担にならないように配慮して,氏の責任を負う形を明確にするために一人称で書いたのではないかと思いました。吉村昭氏の作品は登場人物の側、その時の状況・事情に立って描かれて批判的ではなく中立で読者に届ける点で徹底されていますが、組織や集団になったときの人の偽悪さはうまく伝わるよう配慮されていて、とても心が大きい方だったのだな、と想像します。
付録:作家 吉村昭
吉村昭さんは本当にすごい作家です。まだ風化する前の、当時だからこそ書けた内容も多く時代を記録した彼の功績は計りしれないものがあります。
氏は地道な取材に基づく重厚なドキュメンタリー作品群を含む300篇以上を執筆し、まさに時代を記録しました。最近まで知らなかったのですが千葉に資料館があるそうです。
吉村昭の作品は、掌編小説から長編小説まで、総計371遍ありますが、当資料館は、その内の一遍(ラジオドラマ)を除いて全てを収集保管しております。国会図書館や他の文学館にもない資料を含め、ほとんどが一次資料(原典)です。作家の作品としては珍しい「LPレコード5枚組」(戦争体験者のインタビュー集)を全巻所有。学習院大学時代、緊急入院した友人の小説を、代わって清書し、赤い糸で和綴じした小説「山百合」や、速水敬吾名で書いた児童文学も収蔵しています。日本一小さな文学館。
ベストセラーの「戦艦武蔵」や屯田兵の現実を描いた「赤い人」、4度の脱獄をクリア返した実在の受刑者を描いた「破獄」など、子供の頃に読んだ時には強烈なインパクトがありました。
どの作品もみんな凄いのですが、その中で一番、強烈だったのは日本獣害史上最大の惨事の「熊嵐」です。
「383kgの巨大な羆が、わずか2日間に6人の男女を殺害したのだ。鮮血に染まる雪、羆を潜める闇、人骨を齧る不気味な音…」ドキュメンタリーというよりホラー小説のような恐ろしさ。スティーブン・キングに読ませて意見を聞きたい1冊です。
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