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トーセ、フィリピン撤退で日系終了か

8月のニュースですが、ゲーム受託開発大手のトーセが特定子会社TOSE PHILIPPINES, INC.の解散および清算、ならびに札幌開発センターの閉鎖を決定したと発表。解散の経緯としては、コロナ禍以降の営業赤字継続、技術力向上の遅れ、物価・人件費高騰による業績改善の見込み低下、を理由としています。 

2028年までに精算を進めるようですが、オフショア子会社の撤収は現地政府から「追徴金」などの「ペナルティー」を伴うことがあり、今回の特損1.5億のほかにも様々な経費がかかってくるのではないかと心配しています。

ゲーム業界・中国オフショアに続き、フィリピンも…

今回のトーセの撤退で、事実上フィリピンからクリエイティブ系の日系スタジオは絶滅するというお話が関係者の方からありました。
2010年頃までに中国でオフショア開発が撤退が相次ぎ、現在はゲーム開発オフショアはほぼ壊滅。現在は実力をつけた中国企業が巨大な市場を背景にスマホゲームを売りまくり巨大企業に成長し日系ゲーム会社を買収するまで成長しています。フィリピンの場合は実力をつけずに沈没した感が強いですが、今後どの様になるのか注目しています。

東南アジアの高度人材不足の内情

トーセ撤退の理由にある技術力向上の遅れですが、おそらくコスパ的なことと思います。日本だと技術が理由🟰最先端についていけなくなった、と解釈されますが、後進国ではコストとクオリティ(速度含む)のバランスが取れなくなった事の言い換えでしょう。

ちなみにベトナムではゲーム開発はまだまだで、先生&先輩など先駆者がいない事や基礎学力の低さからくる高度人材不足と、文化的な成熟度、経験の無さで絶対的なクリエイティブ系の人材不足が慢性的にあります。

ゲームは音楽映像脚本を含む総合芸術であり、あらゆる娯楽を包含していて広範な知識を必要とします。 それなのに、たとえば非常にサッカー人気の高いベトナムでもフットサルとフットボールの違い(定義もろもろ)を自分でプレイしている人でも「知らんし!」くらいは普通です。 豊かでない事は知識経験が無いことに繋がりやすく、単語自体が分かないみたいな世界線で、見たことがない競技や娯楽が圧倒的に多いのでゲームを作ると言っても下請けで末端作業、ということになります。
それなのに人を楽しませる為のアプリを作るとなると、下請けでもそうそうできるものではありません。 

また娯楽以外の一般的な知識も少なく、ゲームに登場するもの,例えば戦車とかステープラーについて動画を見せて説明から,ということまであります。後進国にいると、多くの人は人間は目に入っていても手取り足取り教えてもらわないと、その物体が何か認識できないのだ、としょっちゅう痛感し、自分の子どもが幼稚園児だった頃のデジャブかな?くらいのことはよくあります。

金額と見合う人材か
わたしがであったフィリピンの学校の先生や、ベトナムの理系の大学卒業者は理数の能力は日本の(悪名高い)大卒に者比べても理数系能力がかなり低く、「生まれつきそっち系が高い」系の人は米国を目指したりさっさと起業するため,文系の人や形だけ卒業の競争力が無い(競争したくない)人が日系へ、という色合いが強かったです。話せば欧米系より明らかにヌルいと思われているんだな、という話もちらほら。。。

感覚的にはハノイ工科大学やダナン工科大学卒業生でもゲームで使う初歩的な、中高で習うくらいの数学を理解している人は見たことがありません。日本人でもたまに言うがいますが「習ったときにはわかってた」とか「そういうのはやらない」というのが2次曲線とかは朝飯前です。
(これについて「いや!ちがうよ!!」という方はぜひコメントを入れてほしいです。統計的な情報はないですが数千人見ても数学基礎が分かる人は見たことがないですし、経済問題もこれが原因かな?という事件が多すぎるので光明を見いたしたい気持ちがあります。)

ライブラリがあるから必要ない知識とか、中学生の言い訳は良く聞きますw

余談ですが、これ系の問題で毎回思うのは、企業が約束を守らないと「ブラックだ!」とブーブー言う人達は自分の学歴なりの入社時に書いた事の知識理解を保証できるのか、ということ。 日本人でもほとんどの人が、言えば学歴詐称なのだから真剣に仕事をしようよ、って思うことがゲーム開発ではときどきあります。 中高校までの数学を必要があっても仕事で活用できない人って99%位の割合だと思うので。。。まあ自分もその1人で能力の不足を補うために必要があれば残業でもなんでもやってきました。 仕事が遅いのが自分の知能&技能が原因なときにはなおさら…隠れてやることも😷
逆に言えば良い意味でなーなーだったから,日本のゲーム産業が世界を席巻できたのは理由としてあると思っています。

フィリピンオフショアを襲った3つの波

フィリピンは政治が不安定で治安も悪く英語ができる反面理数系は非常に弱いため、オフショア開発に向いている印象がありません。
過去には大きな社会的な問題があり、外国企業が撤退する以下の3つの波があったように思います。

1.ドテルティの犯罪者処刑キャンペーン
2.税制改革 (外国人ターゲットな増税)
3.コロナのロックダウン

ドテルティの直後くらいにフィリピン留学をしましたが、先生たちに聞くと当時は毎週のように知り合いのお葬式で、とにかくたくさんの人が街なかで処刑され、警察の襲撃の流れ弾での死傷もあって勉学や仕事どころではなかった、という話でした。 小さいスーパーの入口には今も銃を所持した警備員が普通にいますし、治安の面で問題があるのは続いています。

トーセ撤退の主犯としてコロナが上がっていますが、糖尿病が国民病のフィリピンとマレーシアでは厳しいロックダウンが行われました。 
多くの企業では通常の営業が(そうでなくても大変なのに)崩壊状態。ゲームなどクリエイティブ型の開発は機材の制約でオフィスではないと仕事ができないケースがあったり、質感・クオリティーのすり合わせなど細かい作業も多く、重要大打撃だったことは想像に難くないです。ベトナムでもゲーム開発の現場では(もともと生産性は高くないのですが)半分以下のパフォーマンスになっていました。

↓はJETROの記事です。

https://www.jetro.go.jp/biznews/2019/11/fa372805cfaba3c9.html

税制改革第1弾で15社の多国籍企業が既に撤退
在フィリピンの海外企業で構成するフィリピン多国籍企業駐在事務所協会(PAMURI)は、2018年1月1日付で施行された税制改革法第1弾(TRAIN 1)によって、既に15社のPAMURI所属企業がフィリピンから撤退したと発表した。

コスト上昇で、今後どうなる?

トーセの撤退理由の直接の理由は円安による「コスト上昇」でしょう。
経済成長期の国の通貨は日増しに高くなり、現地の物価も上がっていますので今後も日本にとっては厳しい状況です。
他の理由としては「年々上がるコストに見合わない」、技術力や生産性が上がっていかない、という理由も大きいようでトーセの発表の文言にも滲んでいます。

おそらく関係がない人にはオフショアの記事をあさると、殆ど人材業界の「能力が高い」「コスパが良い」という広告やステマ記事に占拠されているので実態が掴みづらいと思います。(内容がないので良く見ればわかりますが) 反対に批判の記事が少ない理由は「褒める分にはウソでもOKだけど、下げると訴えられる可能性がある」からでしょう。訴訟になりそうなトラブルの仲裁もしたことがありますが、違約金には秘密保持がつきものです。

オフショアITのコスパ感シミュレーション

このニュースを見て、前々から気になっていた「オフショア界隈でのインフレ(物価+人件費増加)と円安が過去10年でどのくらい変わったのか、ざっと数字を調べてシミュレーションをしてみました。

以下はドル円為替とベトナムの物価上昇(6%で計算)おおおよその実数と、受注単価やベトナム人技術者の能力上昇の仮説を元に描いたグラフで、オレンジ色がコスパ(経費と生産価値の率)の目安です。縦に潰れているので分かりづらいですが、2012年頃までは割安だったのが円安で降下、更に最近の円安進行で激減しマイナス領域では、という感じになりました。このコスパが顧客満足度なのか、 ITオフショア経営が苦しいかは受注単価次第です。

2012~2014年に急激にコスパが落ちているのはアベノミクスの急激な円安です。その後2024年まで円安は進みベトナム人のコスト増は年率8%の賃上げで計算しています。実際にはゲーム系ですと2018年頃前は年率10%以上の賃上げというのは珍しくなかったはずで、2018年時点で非技術者でも$1500の人が散見されましたから、以下のグラフのプログラマー給与[ PG(yen) ] の上昇はかなり控えめな計算です。

当たり前ではあるのですが、オフショアビジネスは為替と人件費の格差を商材としているので、経済成長期の国相手ではコスパが時間とともに悪くなりますし、発注する国が送金して人を育てるのですから更に加速するのは中国の過去を見ればわかります。

ベトナム人技術者の技術力も2010年頃と現在では相当差があり上昇しているとは思いますが、作業量も相対的に増え陳腐化して生産バリューはさほど高くならない部分もあるので2012年を70、2024年を125としています。(コロナの2年間では確実に下がったので、そこは若干補正しています)
日本側はインフレに転じたと言っても実際の年収・発注額はさほど大きく上げられないですし、構造的に中間の会社が入ることもあるのでITオフショアは10年でかなり厳しくなっている事をグラフを作って実感しました。

おそらくフィリピンはこのグラフの未来がすでに来た、ということなのでしょう。 物価や通貨の上昇に合わせて人間の能力が増えない事が問題で、いわゆる中心国の罠は確実にベトナムを捕まえにかかっているのかもしれません。

ASEANのゲームプログラマーのスキル

自分が関わった範囲では、日本の中学生までの教育レベルの人は非常に少なく、ITや教育者とか大卒の人でも習った特定の事だけ記憶に引っかかっていてほかのことは殆ど何も知らないとか、特に数や四則演算など計算が苦手であったり抽象概念の理解が乏しいこと、フレンドリーな反面エモーショナルで理屈の話がしづらい傾向が強いため、アート系や看護接客などに向いてる人の割合が多い印象でした。 
中華系の人たちが教育、金融、不動産業などを実質的に支配している「黄色いユダヤ」の国と言っても良い雰囲気があります。 中進国の罠にはまって国内産業が停滞し、今後も出稼ぎの人の仕送りで経済を回していくのか、気になるところです。 (※もちろん雇われる階層の人たちの話で、事業を持っているビジネスマンの話ではありません。どこでも虎は虎でしょう。)

金の切れ目が縁の切れ目(?)

業界からの情報発信に目を向けると苦しさが滲む話が増えてきているように思います(以下リンク)。 
これまでは広告費を支払えていたオフショアIT、オフショアクリエイティブが没落すると、こういった記事も増えてくるかな、とちょっと心配もしています。 が、真相を知ったうえで利用しないと危険なサービスではあるので、日本の企業にとっては良いことなのかもしれません。

厳し目のこと書くオフショア開発も増えてきたので、いよいよ品質で戦う時代が来ているのかもしれませんが、ベトナムに関してはFPTのような国内企業が育ち、インセンティブが全くレベルが違う(グループ会社の不動産を安く買えるとか、家族のケアとか外資系が無理なやつ)で日系企業はベトナム人材の質ではすでに勝ち目がないところまで来ています。今後どの様になっていくのか注視していきたいと思います。


サポートありがとうございます😊 ベトナムにお越しの際はお声がけくださいね🌻