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「十二支プロジェクト」ーーー作家活動を始めてからの思いと、作品に込めた想い
私は大学近くの書店で、ふと平積みされていた文庫本の表紙に目が惹かれました。手に取り、小さな文庫本を開くと、極寒の世界が確かに存在していて、まるで私がその場にいるように錯覚しました。文章がこんなにも人を引き込むものなのかーーー。それからは、小説は私の人生に付かず離れず気兼ねなく接する友人のように寄り添い続けています。
読書が好きで、「いつか自分の本が出せたら」とぼんやりと考えていました。せっかく書くなら、誰かに楽しんでもらえるものを書きたい。そう思うようになったのは、あるきっかけがあったからです。
それは、妻との何気ない会話でした。寝る前に、ふとした流れで私が即興の物語を話したとき、妻が本当に楽しそうに聞いてくれたんです。
「次はどうなるの?」と身を乗り出すように。その経験から、「こんな風に物語を届けることができたらいいな」と思いました。
まずは、目の前の一番の読者を楽しませよう。そうすれば、きっとその先の読者にも届くはずだと。
こうして始まったのが「十二支プロジェクト」。
干支をテーマに、毎年1作品ずつショートストーリーを描き、12年かけて1冊の本にするという挑戦です。
毎年、干支の動物たちを物語に少しでも絡ませたり、ジャンルを変えたりと何か新しいチャレンジを取り入れてます。作品ごとにジャンルを変えながらも、根底にあるのは「一生懸命生きる人たちを描くこと」。12年という長い時間をかけてゆっくりと積み重ねた物語たちは、まるで干支の動物たちがバトンを繋いでくれたように、私自身の作家としての成長の足跡になっていくはずです。
描き続ける理由はいくつもあります。私自身の夢であり、家族やその先の私が出会えない未来の家系へ「こういう生き方をしていた人がいた」と残すこともあります。でも何より、最初に「おもしろい」と言ってくれた人のためにーーーーそして、その先にいるまだ見ぬ読者のために。
12年後、すべての作品が揃ったときに、この本を誰かが開いたとき、そこにある物語たちが心のどこかに残り続けるなら、それが私にとっての最高の物語の結末かもしれません。
一年に一つ、十二の物語を紡ぐ作家かんすい