【動きを学習する -コンテクスチュアルトレーニング-】質疑応答
2020年に実施したセミナーの動画を公開します。 【動きを学習する -コンテクスチュアルトレーニング-】PITTOCKROOMオンラインイベント Frans Bosch著 Strength training and Coordination: An integrative Approach は2020年1月1日に「コンテクスチュアルトレーニングー運動学習・運動制御理論に基づくトレーニングとリハビリテーション」として翻訳・出版されました。 当時、難解な内容で理解が難しい部分も多い書籍でした。そこで開催されたオンラインセミナーの動画となります。
セミナー時間内で回答しきれなかった回答を以下にまとめます。
Q. サッカーのキックの局面でのアトラクターは何と考えますか?
A. 研究や論文で明確に示されているものではありませんが,「ボールに触れる足の点」「軸足の着地とボールインパクトのタイミング」この2つはアトラクターとなるのではないかと思っています.
Q. サッカー選手のボールなしでの走り方と、陸上短距離選手の走り方で最も異なる点はどこだと思いますか?
A. サッカー選手と陸上選手の走りを3次元的に分析した研究では,以下のように言われています.
「前額面上ではサッカー選手は陸上選手に比べて股関節が内転し骨盤が下制,膝関節が内反していることが示された.また,矢状面上では支持期前半においてサッカー選手は陸上選手よりも股関節及び膝関節が屈曲しており,足関節が背屈していた.これらの結果は,サッカー選手のスプリント動作の特徴が,繰り返しの専門的な競技動作に影響を受けていることを示唆するものである.」
奥平柾道,山田魁人,九鬼靖太,太田和希,吉田拓矢,前村公彦,谷川聡.(2019)サッカー選手の三次元的なスプリント動作の特徴:陸上競技選手との比較から.スプリント研究28(5):5-16.
Q. ドリブルにおけるアトラクターは何があるとお考えですか?
A. 膝関節の屈曲維持,シザース動作(遊脚が後方に流れないこと)はアトラクターとなると思います.
Q. サッカー選手に対しヒップロックを導入するにあたって、何を期待して実施していますか?
A. 一般的に言われているようなものです.「股関節や鼠蹊部の保護」「接地時のエネルギーロスの抑制」などです.
Q. ヒップロックは骨盤の前額面の動き以外の着眼点はありますか?
A. 基本的に前額面上の動きでチェックする方法を使いますが,支持脚側の股関節筋群の共収縮が必要なので,支持脚側も見ています.
Q. 「走る」と「ドリブル」と「キック」の動作に類似性はありますか?私はあると考えています。なのでヒップロックはアトラクターだと考えます。
A. シザース動作(はさみ込み動作)は類似していると思います.ヒップロック以外にも,基本的に脚が後方に流れると遅くなります.スプリントでは,支持脚の接地時に遊脚が支持脚を追い越していることが大事と言われています.
Q. ドリブルでの走りがボールなしの走りに負の転移を起こす可能性はありますか?
A. 上記でサッカー選手と陸上選手の走りを比較した文献を引用していますが,サッカー専門のトレーニングが動きに影響を与えている可能性はあります.陸上選手として考えると「負の転移」かもしれませんが,サッカー選手としては「負」とは限らないかもしれません.
Q. noteに載せていた動画でフラクチュエーターとアトラクターは2次元ではなく3次元的と仰っていましたが詳しくお伺いしたいです。
A. あの言葉のニュアンスは,動きの学習は非常に複雑ということです.ホワイトボードでは2次元でしか表現できないので,相転移は右か左にしか起こりませんが(質的な変化は2つのみ),前後にも起こるということです(質の変化はもっと複雑).
Q. アトラクターを考える時って、局面を考慮しないのでしょうか?例えば密集でのドリブルとオープンフィールドでのドリブルでは別物だと思うのですが。
A. 「抜くドリブル」なのか「運ぶドリブル」なのかということだと思います.それぞれ目的が違うと思うので,必要とされる要素は異なると考えられます.
Q. サッカーにおいてインターナルフォーカスが有効だと考えられるシチュエーションはありますか?
A. これは,「選手に応じて」だと思います.結局は選手が動きを学習してくれて,サッカーのパフォーマンスが高まれば良いので,選手にあった手段を用いるべきだと思います.
Q. アトラクターはある程度意図的にトレーニングに組み込むもので、フラクチュエーターはコーチの意図というよりは、選手が受け取った刺激を引き出しとして蓄積する、という認識でよいのでしょうか?
A. コーチとしては,アトラクターを深めるために,フラクチュエーターとなる部分を変化させるイメージです.
Q. お腹に入れるトレーニングは動作の類似性、動作の目的ともに競技動作からずれている、かなりのインターナルフォーカスになっていると思うのですが、これは競技動作に転移するのでしょうか。
A. 僕が紹介したものは確かにそのようなアプローチです.立位でお腹に入れる感覚を掴むための初期のエクササイズとして用いているのですが,他に良いものが見つけられていないという現状です.何か良いものがあれば教えていただきたいです.
Q. 呼吸は原始動作なので最終的には無意識下で行えるようにするという認識で宜しいでしょうか?
A. その通りです.
Q. 呼吸自体が原始反射のため、状況に応じて胸式呼吸や腹式呼吸が選択されるからトレーニングで一元化するのは必要なのか?
という議論を聞いたことがあるのですが、いかがでしょうか??
A. 「この呼吸法が大事!」というわけではなく,お腹に入れる感覚を掴むために呼吸法を用いるという認識です.僕の経験ではこの部分を意識させると感覚を掴みやすい印象です.