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香港 #12

香港で働きだしてからは残業が全くなかったので、仕事は定時に終わったのだが、とても長い一日だった気がした。なんとかラム先輩に見つからない様に一人で帰ろうとしたが逃げきれず、彼はすぐに私を捕まえた。それでも私も頑なに、今日だけは一人で帰らせて欲しいと頼み、私を掴んだ彼の手を静かにほどいた。それからようやく一人になれたが、全く真っすぐ帰宅する気分ではなかったので、今夜は特別に私にご褒美をあげようと、それを何にするか考えあぐねた。
暫くして、「ホテルのSPAでエステを受け、一流の広東料理を食べる!」そう決めるとバッグの中を手で探り、取り出したスマホで予約を入れた。



ホテルに着くと、ビクトリアハーバが見える部屋に通された。どれでも好きなオイルを選んでと言われ、ラベンダーとイランイランのアロマオイルをオーダーした。それからまずは、ピンク色したバラの花びらが贅沢に浮ぶジャグジーで、シャンパングラスを片手に入浴を始めた。少し空に茜色が差し、優しい風が吹いていた。
ーーなんて穏やかな愛すべき時間なんだろう。
心が開放されていった。

少し体が温まったところでジャグジーを出て、エステを受け始めると知らず知らずこわばっていた体から、力がすっと抜けていった。あまりの心地よさに眠ってしまい、開始から一時間後に、仰向けになるよう指示されるまでは熟睡して夢まで見ていた。夢の中で私は、一人で苺を摘んでいたかと思うと、次の瞬間には誰かと手を繋ぎ走っていた。でもその男性らしい人の顔は全く見えず、なぜ走っていたかもわからなかった。夢はいつだって大体脈絡が無くてなんだかよくわからない。でも、夢の中で私は心から笑っていた。そしてそれがとても記憶に残っていた。

エステですっかリラックスすると、今度はレストランに移動した。魚のスープ、お気に入りのエビや、牛肉料理を少し食べた後、最後にデザートで一番好きなサイマイロー(西米露)と呼ぶ タピオカが入ったココナッツミルクを注文した。美味しいものを食べるとエネルギーが体にみなぎるようだった。良く働き、良く食べ、良く遊ぶ。こうでなくっちゃ人生はつまらない。私はもっともっと楽しむのだと独り言を言った。

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