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香港 #44
アンディは、私の目覚めに狂喜した。
「優亜が僕の元に戻ってきてくれた、もうそれだけで十分だ。
どんなに君が大切か身に染みたんだ」
と掛け布団の上から私に覆いかぶさったから、私は彼の背中を左手でさすった。
彼が言うには、一時は私との永遠の別れを覚悟しなければならない程、私は非常に危険な状態に陥っていたらしい。しかし、当の私は勿論何も覚えていなかった。ただ、私の中には、母と再会して得た満ち足りた記憶と、アンディと共に幸せに生きていくという、以前よりもさらに強い決意が刻まれており、そして、兄の事もシンディも恨まないとの思いが生まれていた。
背中をポンポンと叩き、少し苦しいと伝えると、慌ててアンディが、やっと私から離れて元のスツールにかけてくれた。
「ねぇ、さっきから気になってたんだけど。その顔の傷やあざ、一体どうしたの?」
私は、アンディの顔に優しく触れた。
「君が眠り続けている間に、何故こんな事になってしまったのか、兄貴が大方の話を打ち明けてくれた。でも、その話を聞いた僕が激怒して先に手を出してしまった。それで、兄弟で人生初の殴り合いになって大喧嘩をしたんだ」
と彼がバツが悪そうに教えてくれた。
「君は、僕の一目惚れの人。そして、兄貴にとってもそうだったんだね。
それに僕たちの父さんは、君のお母さんに一目惚れだったそうだよ。
親子揃って・・・・・笑うしかないな」と、彼は苦笑いした。
「今回の事で、僕達と同じ様に兄貴もひどく傷ついてるんだ。
君をとても傷つけてしまった事、深く反省していたよ。そして、君を弟である僕に奪われ、その君が妹だったと突然知った絶望感は言葉では言い表せなかった様だ。それから、まだあるんだ。君が妹だと知った事で、気づいたもう一つの大きな事実・・・兄貴の母さんが亡くなったって事。もう少し早くに探していればと、とても悔やんでた。兄貴はとても苦しんで、心も相当まいってる。
優亜、兄貴を許してもらえないだろうか?」
そう、アンディが頼む間もなく、私は答えた。
「許すも何も、私は怒っても恨んでもないから。
兄さん、きっと私の事を物凄く心配してくれてるはずだよね。
アンディ、ここに来てもらえるよう連絡してくれる?」
数時間後、兄さんが花束を持って現れ、私を見るなり大泣きした。
「優亜、生きていてくれて本当にありがとう。どんなことでもするから許して下さい。本当にごめん」
と頭を垂れた。
「お兄ちゃん顔を上げて。お兄ちゃんがいてくれて・・・本当にありがとう。私の方こそ、ごめんなさい」
とても素直な気持ちで、兄の手をとった。
それからアンディの手もひっぱり、私と兄の手の上に重ねた。
「ありがとう、お兄ちゃん。ありがとう、アンディ」
もうなんのわだかまりもなくなっていた。
「アンディ、優亜は俺の妹だ。絶対泣かせるな」
「兄貴。約束する!」
三人で泣き笑いした。