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香港 #48
まもなくしてスタッフのスマートフォンに連絡が入り、私はブーケを手渡された。
今日は特別な場所での撮影になると説明され、連れて行かれたのはホテル内にあるチャペルの入り口だった。するとどこから現れたのか、アンディがカメラも持たず、凛々しいタキシード姿で私の右横にすっと立った。
私は全く状況が飲み込めていなかった。
「アンディ、カメラは?撮影は?」
「愛してる、優亜。これから僕たちの結婚式をあげよう」
彼の言葉が済むのと同時に木の重厚そうなドアが開けられた。
パイプオルガンの音色が流れだし、私は右手をとられ彼の左腕に組まされた。そして私はただあっけにとられたまま彼に導かれ、光る白い大理石の通路をゆっくり進んで行った。
着席していた家族五人がこちらを振り返り、笑顔で拍手をしてくれていた。
あまりに突然のビッグサプライズ。息が止まりそうだった。
神父様は、厳かな言葉をいくつも英語で述べられた。そして、耳にしたことのあるあの誓いの言葉。「病める時も健やかなる時も・・・・・」のくだりが聞こえた。
”Do you promise to love her, comfort her, honor and keep her for better or worse, for richer or poorer, in sickness and health, and forsaking all others, be faithful only to her, for as long as you both shall live?"
"I do."
"Do you promise to love him, comfort him, honor and keep him for better or worse, for richer or poorer, in sickness and health and forsaking all others, be faithful only to him so long as you both shall live?"
"I do"
二人の答えは勿論同じだった。
その後、指輪の交換、誓いのキスという風に、いつかどこかで見たドラマの様に全てが滞りなく進んで行ったが、私はまだそれが現実なのかどうかよくわからず、まるで夢でも見ている様にふわふわした気分のままだった。
客席を振り返ると、祖母二人、兄、妹、そして義父みんなが大きな拍手で私達を祝福してくれていた。その姿に、涙がポロポロ零れ落ちた。
合縁奇縁。私とアンディは定められた二人。
私、お母さんの分まで生きて、彼と幸せになるから。そして、次の世代に必ずこの命を繋げていくから。どうか見守っていてね。
私は、その場にいない母に向かって心の中で呟いた。
「優亜、愛してる」
「アンディ、私も愛してる」
「幸せになろう」
彼は、私を強く抱きしめた。
チャペルを出ると、宙に舞う、虹色に輝く幾千ものバブルシャワーに包まれた。
ーFIN-