香港 #22
アンディは公園近くのホテルのコーヒーショップへ私を連れて行った。
お店の入り口で、
「すみませんが、先に席に行ってて下さい」
と言われ、私は一人ウェイトレスに案内され奥にある窓際の見晴らしの良い席についた。彼女から革張りのメニューを渡され、私は、紅茶の種類にだけ目を通すと、彼が来てからオーダーしたい旨を伝えたが、
「アンディ様のお飲み物はいつも決まった物でございますので、お客様のご注文をお伺い致します」
と笑顔で返された。
お待たせして申し訳ないと少し急ぎ足で近づいてきて席についた彼は、若く見えるのに紳士的な様子で
「あらためまして、アンディです」
と手を差し出した。それで私もあらためて優亜だと名乗り、手を差し出し握手した。それから、彼は、自分が香港人でカメラマンをしていて、時々日本に撮影に来ているのだと自己紹介の様に話を始めたのだが、日本語を話すのが少々辛そうに感じたので英語でどうぞと言うと、言葉が次から次へと溢れだした。実際、彼は会話の上手な人で、しかも声のトーンがとても柔らかい私好みの物でかなり心地良かった事も手伝い、私は初対面にもかかわらず身を乗り出して彼の話に聞き入った。
ウェイトレスが近づいてきたのにも気づかないでいた私は、お待たせ致しましたと言う声で、慌ててテーブルの上で組んでいた両手をはずし、腕を下におろした。
私にニルギリティーを、彼にはダブルエスプレッソを運んできた彼女は、真っ赤な苺が沢山飾られた生クリームたっぷりなケーキも一緒に私の目の前に置いた。
注文していないそれにとても驚いたが、「うゎぁ、大好物」とおもわず本音が出そうになった。しかし場所をわきまえて瞬間的に言葉をぐっと飲みこんだ。女子ならほぼ甘い物には目がない。そして私は特に苺に目がなかったのだ。ケーキを見た私の顔はきっとにやにやしていたと思う。急に我に返り、ケーキから彼の方へと目を移すと、
「僕のほんの気持ちです。さぁ、どうぞ。」
と彼は、はにかんだ。
私は喉が渇いていたので、早速お茶を頂こうと指でティーカップを持ち上げ唇に近づけようとしていた。しかし、彼がかけていた眼鏡を左手ではずしそっとテーブルに置き、私に真っすぐ向き直った瞬間、私は慌ててカップを両手で包み込みソーサーに戻した。
「えっ・・・あのぉ・・・もしかして、私たち前にどこかでお会いしていませんか?」
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