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香港 #46

30分程、時が過ぎた。
どんな話が行われたのかはわからない。でも、おばあさまに呼ばれて階下に行くと、祖母の表情は先程の険しいものとはうってかわり、いつもの柔らかい優しいものに戻っていた。


「優亜、さっきはごめんね・・・」
「うううん。私の方こそ悲しませて、本当にごめんなさい」
と私はすぐに謝る。
「アンディ、優亜の事をどうぞ宜しくお願いしますね。二人とも、おめでとう」
私が一番聞きたかった言葉を聞けた瞬間だった。そして私とアンディは喜びのあまり声を上げ抱き合った。すぐ側で兄とおばあさまが、満面の笑みで手を叩き「おめでとう」と言ってくれた。



二つの目的を無事クリアし、三人は予約したホテルへ向かった。
私は家に留まり、祖母と二人で水入らずの夜を過ごした。

私は祖母に知ってもらいたくて、香港に行ってから私に起きた様々な出来事やアンディと出会ったいきさつなど、聞かせなくない事、心配をかける事をうまく省いた上で、熱く、祖母に一つ一つ丁寧に伝える努力をした。
祖母は、饒舌になった私に面くらいながらも、それらを全部残らず聞いてくれた後、ポツリポツリと私に気持ちを伝えてくれた。


「まさか、俊明の息子と出会うなんて思ってもみなかったよ・・・なのに、結婚なんてもうあまりにもショックが大きすぎて、混乱して、とても取り乱してしまったけど・・・アンディとは偶然日本で会う以前にも、香港で出会ってたんだね。きっとご縁で結ばれていた人なんだろうね・・・・・。
どんなご縁であれ、人は決められた縁を紡ぐのが人生なんだろうと思ったよ。それから、お兄ちゃんに繋がって・・・再会出来た事が、本当に心の底から嬉しかった・・・三人いる私の大切な孫の一人。もう会えないとずっと以前に諦めてた孫だから、尚更ね」
祖母は、目を細めた。
それから、兄とアンディの歩き方が俊明の歩き方とよく似ていて、びっくりしたよと微笑んだ。


一息ついた所で、皆で母のお墓参りに行く事が今回の帰国のもう一つの目的だと話すと、祖母は美英が喜ぶに違いないと涙ぐんだ。
満中陰法要では、祖母が何かと世話を焼いていた様だが、母のお骨は結局最後の夫である家の先祖代々の墓に入ったので、祖母が向こうに連絡をまず入れて、段取りすると約束してくれた。



話がすぐについたという事で、二日後、決められた時間に五人で母の墓参りに行くと母の最後の夫と妹の未亜が来ていた。

父親の違う兄、私、そして妹。私たち三人は母を介して繋がっていた。
そして、母の最初の夫の息子で、私の夫になるアンディと祖母二人に、母の最後の夫。微妙に繋がっている七人が一緒に、それぞれの思いを胸に母の墓前に参った。
兄は、また会いたかったのにと泣き、おばあさまは、申し訳なかったと詫びていた。そして私とアンディは結婚することを報告した。

墓前で兄とアンディは、未亜にお兄ちゃんだと思ってこれからは接してくれたらいいと言い、母の最後の夫は私に、未亜の姉として未亜と仲良くして欲しいと頼んできた。そして、もし困った時や何かあれば、自分の事を父だと思って相談してくれたら、どんなに嬉しい事かと言ってくれた。

私達は、血が繋がってたり、半分だけだったり、全く繋がってなかったり。でも、そんな事は関係なく "One Family" として、これから支えたり支えられたりしながら生きたいという気持ちに、全員が共鳴した。

お墓参りを終え、私達はそれぞれとても晴れやかな気持ちになった。
私は、母がすぐ近くで笑っている気がした。

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