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香港 #24
人なんて身勝手なもの。どれだけ好きだと言ってくれる人がいても、親切にされても、時間をかけられても、その人を恋愛対象にできないとなるとバッサリ切り捨ててしまうのに、誰かを好きになる時は、それがひどく一方的なものでも、たった数時間、いや数秒でも心がときめいてしまう。好きになってしまう。夢中になってしまう。それから・・・嘘つきになってしまう。
そんな事を考えながら、朝、シャワーを浴び、ローズの香りのシャンプーで髪を丁寧に洗った。日本を発つ時、チェストに置いていった白いレースの下着をおろした。鼻歌を歌いたいのをぐっと我慢し、ひたすら普通の振りをして、薄目のお化粧をした。
私一人の勘違いでも、私はそこに飛び込むつもりをした。
それから、祖母と少し遅い目の朝食をとり、言った。
日本にいる間に仕事関係の人に会う様、急に香港から連絡が来たのだと。
今夜はかなり遅くなりそうなので、ホテルに泊まるから私の事は心配しないで、早い目に戸締まりをして床について欲しいと。
祖母は、仕事大変そうだけど頑張ってとだけ言ってくれた。
待ち合わせの20分前にホテルに着くと既にアンディーが待ってくれていて、すぐに部屋に案内された。そこには、いつも彼と仕事をしているというスタッフがいて、私は、スタイリストのまゆさん、ヘアーメイクアーティストのアンさんの二人に紹介されるやいなや、驚いている間もなくドレッサーの前に座らされた。
アンさんにプロのヘアー、メイクを施され、まゆさんが選んでくれたドレスに着替えさせてもらうと、初めて見る私の全く知らない私に大変身した。
起きている事一つ一つの全てがまるで夢を見ている様で、鏡の前で歓喜の声を上げている私の前に、ハイヒール片手にアンディがやって来た。
「パーフェクト。思った通りだ。さあ撮影を始めよう」
満面の笑みの彼はそう言うと跪き、持ってきたヒールを自ら私に履かせてくれた。
アンディは、今度はNikonのカメラを手にすると、前触れもなくすぐにシャッターを切り始めた。心の準備も何もできていない私は、はじめぎこちない笑顔しか作れず、どうしていいのか全く分からなかった。しかし、彼から発せられる沢山の甘い言葉が、私を次第に有頂天にさせはじめた。徐々に慣れてくると面白みを感じて自分でも初めてと思えないくらい自然に笑顔でポーズをとり出した。
私はすっかり彼の魔法にかかってしまっていたのだ。