香港 #40
「私は優亜さんとアンディ、貴方たち二人を祝福します。幸せになって欲しと心から願います。でも貴女のご家族はきっと・・・・」
アンディも、やっとこの複雑な状況が見えて来た様で、最高の笑顔は消えていた。
「私の息子、王俊明は美英と結婚して一人息子、羊英をもうけました。私達は四人一緒に仲睦まじく暮らしていたのですが、いつの頃からか俊明は他所に何人か女を作っては遊び歩くようなり、そのせいで美英と離婚してしまったんです。
当時、私は何もできなくて、本当に申し訳なかったと思っています。美英と子供を一緒に帰国させてあげられなかったのがずっと心残りで・・・。
一年後に俊明は再婚し、私、俊明夫婦、そして孫の羊英の四人でここに引っ越し新たな生活を始めました。三年後に、貴幸(アンディ)が生まれたのですが、この子の母親は家事をあまり好まず、外で仕事熱心だったこともあり、羊英も貴幸も、私が育てたようなものなんです。
それと・・・、できるなら言わずにいたかったけど、きっといつかわかってしまうから、本当の事を言わなきゃね。
アンディの・・・この子の母親は、貴女のお母さんを苦しめた張本人です」
おばあさまの話に、アンディも驚きのあまり目を丸くした。
「だから、貴女のご家族はきっと貴方たち二人の結婚を喜んではくれないでしょう。そして、貴女も、もう平気でいられないのでは?
ごめんなさい優亜さん。私の馬鹿息子のせいで」
おばあさまは泣いていた。
私の気持ちは複雑だった。
母を苦しめた女の子供がアンディ。そして、母の最初の夫の、子供?
ピンとこなかった。この広い地球の中で、そんな事ってあるの?
アンディとはずっとずっと以前からそんな風に繋がっていたの?
そして、私の混乱の原因は母の事だけじゃなかった。
おばあさまの話に出てきた、母が産んだ子供の事。
私の異父兄弟であり、アンディにとっては異母兄弟。
ひとつだけ胸を撫でおろしたのは、私とアンディに血の繋がりが全くなかった事。でも、兄と言う存在を通して私達は繋がっていたの?
母が亡くなった後、祖母から初めて母の歴史を知らされたあの日、特に、母が離婚して香港から戻る際に置いてきた子供がいる事や、私の父とは母の浮気が原因で別れた事などを知ったが、初めて聞いた話の内容が私にはあまりにも衝撃的過ぎて、頭が全く回らなかった。だから、兄がいるなら会いたい。そう思うまでにも、時間がかかってしまった。
いつかは兄を探し出し、会いに行くのは、母が私に残した宿題の様な気がして、兄の事を祖母に聞こうとしてみたが、詳しくは語りたくなかったのか、言葉をとても濁していた。それで私はさらに根掘り葉掘り聞けず、口をつぐんでしまった。
それでも、諦めたわけじゃなかった。時間をおいて、また時間をかけて、いずれは祖母から徐々に聞き出すつもりでいたが、その人、すなわち私の兄が、突然見つかるなんて。
頭の中も心の中も、ぐちゃぐちゃに掻き回されたみたいで、事態をよく飲み込めなかった。
「ごめんなさい。今日の所は帰ります」
席を立ち、深々と頭を下げた。
一人慌てて家を出ると、あとからアンディが追いかけてきた。
「お願いです。今日は一人にして下さい」
そう言って、その場を後にした。
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