香港 #25
数時間の撮影を終えると、スタッフの人達と一緒に夕食に街に出たが、そこは二時間ほどでお開きとなり、それぞれがアンディに「お疲れ様でした」と声をかけながら次に行きたい場所へと各々散らばって行った。残されたアンディは、何時もの事なんだと言い、それから、まだもう少し話がしたいから一緒に来てもらえないだろうかと尋ねてきた。私がこくり頷くと、彼はすぐにタクシーを止め、二人は一緒にホテルに戻り最上階のバーに行った。
アンディは、とても慣れた様子で18年物のグレンフィディックのダブルをストレートで、soda backも一緒にとオーダーした。私は少し迷ったあと、彼が勧めてくれたベリーニを頼んだ。
「いつもカウンター席で一人飲むんだけど、今夜、初めてこの窓際のソファーに座ったよ。君と一緒に来れてとても嬉しい」
彼はさらっと語ると、照れ隠しなのか外の景色に目を移した。
窓の向こうには煌めく街の灯りがあった。テーブルの上にはフラワー型のキャンドルの火が揺れていた。照明を落としたバーにはしっとりしたジャズが流れていた。夜と言うだけでも怪しい気持ちが芽生えるのに、私にとってはどれもが非日常で、それぞれが心に揺さぶりをかけてくる。そして昨日、一緒にお茶をしていた時や、今日の仕事中とはまた違って見える、静かに語るアンディはとてもダンディな様子で、私をドキドキさせるには十分すぎる素敵な男性だった。
もうだめ。私、この人が大好き!心の声が叫んでいた。
アンディはスコッチを飲み干すとソーダを一口飲んだ。
「今日撮影した写真を見せたいから、部屋に来ない?」
彼は、ごく自然に私を誘った。
それは、きっと口実に違いないと感じた。一夜限りかもしれないと覚悟した。だとしても、気持ちがどんどん高まっていた。
私はアンディーと一緒に居たい。その手で触れられたい。愛されたい。それはまさに本能と言うべきもので、その想いが自分でも信じられないほど溢れていて、止められなくなっていた。
そして私は、静かに頷いた。
二人は無言だった。
私には、たった18階から15階までのエレベーターがとても長く感じられた。そして、部屋までの絨毯が敷き詰められた広い廊下を、とても遠く感じながら、彼の少し後ろを歩いた。
アンディは、部屋の前でゴールド色のカードキーを翳し、ドアを開けた。私は彼に促されるまま中に入った。
部屋までついて来て今更ではあったが、どうしても軽い女だと思われるのが嫌で、突然彼に今日のお礼を次から次へと述べ出し、それから、時間が随分遅くなっているのをなかば強引な言い訳にして、
「ごめんなさい。やっぱり帰ります」
と言い放った。それは、わざとそういうフリをした部分も隠し持ちながら、私は今入って来たばかりのドアに向かっていった。
するとすぐさま、後ろからアンディが私の右腕を掴み、抱き寄せた。
彼は、とても強い眼差しで私を見つめると、
「どう言っても信じてもらえないかもしれないけど、君のこと大好きになってしまった。一緒に朝までいたい」
言い終わる間もなく突然唇を重ねてきた。そして、私は、抵抗できなかった。
アンディは私をベッドに押し倒すと、キスをしながら優しく私の洋服を1枚1枚脱がした。そして丁寧に長い愛撫を与えてくれたあと、私達は、未知の宇宙のどこかに、もしかしたら居るかもしれない一匹の動物みたいになった。彼と私は密に繫がっている。彼が私の中で生きている。こんな喜び、こんな気持ち良さ、生まれて初めてだと感じた。
私は今まで本当は何も知らなかったのだろう。
体の相性って、こういう事?
女であることの喜びって、こういう事?
これは夢?これは奇跡?
激しい快感の渦に巻き込まれながら、私達は三度も愛しあった。
そして、やっと深い眠りについた。
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