❼いろんなどら焼き
「何をしてもいいと思う」
さくらは一瞬雅を見て、また本に目を落とす。
「私はまだ友達以外の「好き」の感情を抱いたことがないけれど、何歳で何をしたって周りが迷惑じゃなければいいんじゃないかと思う。でも、授業で習ったけれど、戦争中は思考や興味も制限するよう教育されてたから、制限の外の行為をしたら白い目で見られた。その名残があるのね。きっとそのうち、偏見はやめようって風潮になるんじゃないかしら。でも、この世にはたっくさんの世界があるってことが理解できるようになってからも、しばらくはどうしても個人個人に嫌悪感が残るかもしれない」
雅は突然たくさん話し始めたさくらに驚いた顔をした後、眉毛を下げて少し笑った。
「雅さんがもし自分以外の世界を気にして、躊躇ってるなら勿体ない。この世界はまだ数十年続くよ。もしかしたら完全になくなるのは無理かも」
雅はさくらの頭をゆっくりと撫でた。
「さくらちゃんはとっても頭が良い。きっと素敵な小説も私よりいくつも書けるわ。そしてとってもチャーミングで何より優しい。素敵な人と巡り会うと思う」
さくらは頬を染めてニコッとしながら言った。
「私、あんこって好きじゃなかったけど、このどら焼き、美味しい!きっとお店の数、いーっぱい、いろんなどら焼きがあるんだね」