『同志少女よ、敵を撃て』ウクライナ出身の狙撃手パヴリチェンコ
ウクライナ危機と呼ばれる状況になっている現在、『同志少女よ、敵を撃て』は微妙な内容。
複雑な気持ちで聴いていましたね…
とはいえ、物語の主題は独ソ戦(ドイツとソビエト連邦の戦い)です。そしてソビエト連邦(以下ソ連)には、女性狙撃手がいた。
女性狙撃手の中には、ウクライナ出身の女性もいたんです。その中に伝説の女性狙撃手「リュドミラ・パヴリチェンコ」も…
そして『同志少女よ、敵を撃て』の作中にも、パヴリチェンコさんは登場します。
いろいろな意味で興味深く、そして重たい内容の小説です。
歴史の重さ、そして戦争の愚かさを感じながら読んでほしい作品だと思います。
□あらすじ
□登場人物
セラフィマ:主人公
エカチェリーナ:セラフィマの母親
イリーナ:「第三十九独立小隊」の指揮官
シャルロッタ:「第三十九独立小隊」の隊員
アヤ:「第三十九独立小隊」の隊員で狙撃の天才
ヤーナ:「第三十九独立小隊」の隊員
オリガ:ウクライナ出身のコサックでNKVD(内務人民委員部)
ターニャ:「第三十九独立小隊」の女性看護兵
マクシム:第62軍第13師団、第12歩兵大隊長。
ハンス・イェーガー:ドイツ国防軍の狙撃兵
登場人物には書きませんでしたが、もちろん「リュドミラ・パヴリチェンコ」も登場します。
ウクライナ出身の狙撃手パヴリチェンコ
『同志少女よ、敵を撃て』には、ソ連赤軍史上最高の女性狙撃手「リュドミラ・パヴリチェンコ」が登場します。
伝説の女性狙撃手、そして「第三十九独立小隊」の指揮官である「イリーナ」の戦友という設定です。
このパヴリチェンコさんは、とんでもない狙撃手。確認された戦果は309名射殺…
まさに怪物、伝説の女性狙撃手だったんです。(もちろん本人は戦果を誇ってはいない)
パヴリチェンコさんの出身地は…ウクライナ。『同志少女よ、敵を撃て』は、著者の逢坂冬馬さんが考えもしないところでタイムリーになってしまったんです。
パヴリチェンコさんは戦線を離れた後、少佐に昇進します。その当時同盟国だったアメリカに派遣され、ソ連人として初めてフランクリン・ルーズヴェルト大統領と面会しました。
ソ連とウクライナは当時から微妙な関係でしたから、パヴリチェンコさんの心中はどうだったのでしょうか…
生まれた時代が時代だったため女性狙撃手になり、英雄に祭り上げられ、パヴリチェンコさんはどんな気持ちだったんでしょうか?女性として幸せだったんでしょうか?
戦争は絶対にやってはいけない。改めて感じてしまいます。
パヴリチェンコさんの回想録が本になっています。ぜひ読んでみてください。
ソ連の女性狙撃手
独ソ戦で活躍したソ連の女性狙撃手は、約2,000人いたと言われています。
戦争中、ソ連各地で蛮行を行ったとされるドイツ軍に報復したい。男性ばかりではなく、多くの女性も志願して赤軍入りしたそうです。
ソ連の女性兵士には「狙撃兵」が人気だったとか…
ドイツ兵たちからは「目に見えぬ恐怖」と言われていたそうです。
伝説の女性狙撃手は、パヴリチェンコさんだけではありません。
ローザ・シャーニナ
ローザ・シャーニナさんは、目標を2つ連続で射撃する名手だったそうです。
ソ連のヴォログダ県エディマ村で生まれました。
確認された戦果は54名射殺…
1945年1月28日、20歳で戦死したそうです。
ニーナ・ペトロワ
ニーナ・ペトロワさんは、独ソ戦開戦時46歳。最年長の女性狙撃手だったそうです。
自ら志願して赤軍に入隊。確認された戦果は122名射殺…
独ソ戦の勝利直前(1945年5月1日)、自動車事故で亡くなりました。
ドイツとソ連はなぜ争ったのか
ドイツとソ連はなぜ戦わなければならなかったのか?
アドルフ・ヒトラーが共産主義を嫌ったから…そんな単純な理由ではないと思います。
ドイツ第三帝国は、東方に植民地帝国が必要だったのです。
それも豊富な資源と農地を有する場所。いわゆる「生存圏」の確保がソ連侵攻の目的だったはず。
太平洋戦争時の大日本帝国における「日中戦争」に近い争いだと思います。
ドロ沼化…ナポレオンも苦しんだ「ロシアの冬」無敵のドイツ国防軍も苦しみました。
スターリングラード攻防戦
スターリングラードは、ドイツ国防軍にとって戦略上の要衝の地でした。さらに、時のソ連最高指導者ヨシフ・スターリンの名を冠した都市ですから、期せずして史上最大の市街戦に発展。両軍の動員兵力、犠牲者、経済的な損失もハンパじゃありません。
ドイツ軍と枢軸軍の死傷者は約85万人、ソ連赤軍は約120万人と言われています。いかに大規模な戦いだったのか…戦争は恐ろしいです。
ドイツ国防軍将校の手記が残っています。
独ソ戦全体での戦死者は、ドイツ軍が390万人以上、枢軸側同盟国(ルーマニア、ハンガリー、フィンランド、イタリア)が95万人以上、ソ連赤軍が1.128万人以上を戦死・行方不明で失いました。
太平洋戦争における日本の犠牲者の数が約310万人とされていますから、独ソ戦の凄まじさが分かります。
※日本の犠牲者には民間人の数が含まれていますが、独ソ戦の数字には民間人は含まれていません。
『同志少女よ、敵を撃て』をきっかけに
『同志少女よ、敵を撃て』タイミング的には最悪ですが、著者の逢坂冬馬さんにすればチャンスだと思います。
ウクライナ、そしてドイツとロシア(元ソ連)の物語。歴史ファンにアピールできればいいですね。
私は個人的に独ソ戦に興味があります。独ソ戦に関わる本やアニメが流行ってくれると嬉しいんですが…
『三国志』『キングダム』『ベルサイユのばら』などに続く物語が、独ソ戦にも出てきてほしいです。
もちろんウクライナ危機のことがありますから、万全の配慮が必要になります。
「リュドミラ・パヴリチェンコ」のアニメが見てみたいです。
まとめ
今回は『同志少女よ、敵を撃て』の書評を書きました。
ウクライナ危機の今、最悪のタイミングで本屋大賞を受賞。しかし、執筆しているときはウクライナ危機ではなかったので著者の逢坂冬馬さんは複雑でしょうね。
ドイツとソ連の人々が否応なく巻き込まれた「独ソ戦」。戦争の愚かさや、恐ろしさを改めて感じました。
「リュドミラ・パヴリチェンコ」彼女の人生には、輝かしさよりも悲壮感がありますよね。
ウクライナとロシアが平穏になることを心から祈り、記事を書き終えます。
最後まで読んでいただきありがとうございました。