直木賞受賞作『熱源』リトアニア生まれのポーランド人の物語【川越宗一】
第162回直木賞受賞作『熱源』
樺太(サハリン)が故郷のアイヌの人々の物語です。リトアニア生まれのポーランド人の物語でもあります。
著者は川越宗一さんで、直木賞初ノミネートで受賞しました。これって凄いことですよね。
川越宗一さんは『熱源』が2作目となり、1作目は『天地に燦たり』この作品は、豊臣秀吉の朝鮮出兵により揺れる東アジアを、日本、朝鮮、琉球の三つの視点から描いています。第25回松本清張賞受賞作です。
2作とも歴史小説ですが、川越宗一さんの得意分野なんでしょうね。
『熱源』は評価も高いですし、売れ行きも申し分ありません。(発行部数約14万部)
評価が高い一方で、作品内容についての議論もあるようです。『熱源』は史実を基にしていますが、小説であるためフィクションを含みます。あとで詳しく書きますが、フィクションの部分で議論が起こっています。
デリケートな内容も含まれていますので、議論が起こるのは仕方がないところかもしれませんね。
それから『熱源』のもう一つの特徴は、実在する人物が主人公となっていることです。歴史小説ですから当然と言えば当然かも。
もちろんミステリーの要素も含まれていますので、歴史ファンだけではなく、ミステリーファンも楽しめると思います。
※実在する人物に関しても、あとで詳しく書きます。
さて『熱源』の書評を書いて行きましょう。まずはあらすじを掲載しておきます。
リトアニア生まれのポーランド人
ロシアの強烈な同化政策により母語であるポーランド語を話すことも許されなかった彼は、皇帝の暗殺計画に巻き込まれ、苦役囚として樺太に送られる。
日本人にされそうになったアイヌと、ロシア人にされそうになったポーランド人。
文明を押し付けられ、それによってアイデンティティを揺るがされた経験を持つ二人が、樺太で出会い、自らが守り継ぎたいものの正体に辿り着く。
金田一京助がその半生を「あいぬ物語」としてまとめた山辺安之助の生涯を軸に描かれた、読者の心に「熱」を残さずにはおかない書き下ろし歴史大作。
『熱源』の主人公の1人「ブロニスワフ・ピウスツキ」さんは、実在の人物です。リトアニア生まれのポーランド人で、文化人類学者、社会主義活動家です。
1866年、リトアニアはロシア帝国に属していました。そしてポーランドも「ポーランド立憲王国」といって、実質的な支配権はロシア帝国にあったんです。
ブロニスワフ・ピウスツキさんは、そんな時代に没落したポーランド貴族の子として生まれます。
1887年、ブロニスワフ・ピウスツキさんは、ロシア皇帝アレクサンドル3世暗殺計画に加担。懲役15年の判決を受け、サハリン(樺太)へ流刑となりました。
この流刑が彼の人生を変えることになるんです。
ブロニスワフ・ピウスツキさんは、樺太(サハリン)でアイヌ人と交流するようになり、アイヌ人であるチュフサンマさんと結婚。そしてアイヌ研究に没頭します。
しかし1918年、パリでセーヌ川に身を投げて亡くなりました(諸説あり)。遺書は無かったために動機は不明です。
簡単にブロニスワフ・ピウスツキさんの半生を書きました。『熱源』では、さらに詳しく書かれていますので本編を読んでくださいね。
樺太(サハリン)のアイヌ人
『熱源』のもう一人の主人公「ヤヨマネクフ」さん。日本名は山辺安之助(やまべやすのすけ)さんといいます。この方も実在の人物です。
南極探検隊に樺太犬の犬ぞり担当として参加。樺太アイヌの指導者でもあります。
ヤヨマネクフさんのことを多く書いてしまうと、『熱源』のネタバレに繋がってしまいますので詳しくは書けませんが、彼は樺太アイヌにとって大きな存在であったことは間違いありません。
ヤヨマネクフさんが語ったことを、アイヌ語研究者の金田一京助さんが筆記した『あいぬ物語』は、ヤヨマネクフさんの半生が書かれています。
また『あいぬ物語』は『熱源』のモデルになった本でもあるんですよ。
『熱源』のフィクションをめぐる議論
『熱源』は歴史を忠実に再現したフィクション(小説)です。もちろん小説ですから、著者の川越宗一さんが物語を盛り上げるために作ったフィクションも存在します。
そのフィクションの部分が議論となっています。
北海道大学の井上紘一名誉教授は、以下のように指摘しています。
井上紘一名誉教授の仰ることは当然です。しかし、歴史小説は論文ではないのでフィクションは入ります。
これからの歴史小説に一石を投じる作品だったんではないでしょうか?
難しい問題提起でしたね。
まとめ
今回は『熱源』の書評を書いてみました。
樺太(サハリン)のアイヌ人、ヤヨマネクフさん。そしてリトアニア生まれのポーランド人、ブロニスワフ・ピウスツキさん。2人の主人公を中心にした物語です。
超話題作なので、映画化も時間の問題だと思います。もちろん、文庫本化も近いはず。フィクションに対する議論もありますが、歴史に残る名作であることは間違いないでしょう。
最後までお読みいただきありがとうございました。