マンションの殺人
8/7未明、鈴木義雄(35)がマンションの自室である505号室で死んでいるとの通報を受け、僕は先輩と捜査に当たることになった。
司法解剖、鑑識の調査より、外部からの侵入の形跡がないことなどから、自殺ではないことは間違いなく、死亡推定時刻は8/5の14:00~14:30ぐらいであろうという結論を得た。
それほど大きいマンションではないことから、先輩がマンションの住人からの聞き込み、僕は管理人の女性からの聞き込みを手分けして行おうという先輩の提案により、僕は管理人室へと向かった。
管理人は非常に気さくな人物で、自己紹介をするや否やこちらから何かを聞こうとする前から多くのことを話してくれた。
やれ最近腰痛がひどいから職場が隣なのは助かるとか、やれ管理人なんて大してやることがないから掃除して時間を潰してるといったどうでもいいことから、
・お昼頃から住人がばらばらと出ていったが、13時以降になって戻ってきた人物は住人・外部の人間を含めていなかった
・マンションの2階より上には、管理人室の前と1階のオートロック付き自動ドアを通らないといけない構造になっている
・通報したのは自分で、他の住人から変な臭いがするということで505号室を開けたら死体となっていた鈴木氏を発見した
といった、非常に重要な情報も聞くことができた。いや、大半は世間話だったのだが、省略させてもらった。先輩からは、「聞き込みは相手が話しやすい雰囲気を作るものだ」と薫陶を受けていたので、自由に話してくるなら自由に話してもらおうと思ったが、これは功罪あったように思う。話を聞けたのは良かったが、大きな時間の無駄でもあった。
僕が管理人室を出ると、先輩は上手く日陰を探した感じの位置で待っていた。
「えらい遅かったじゃないか。ミイラになるかと思ったぞ」
似合わないかわいい絵柄のタオルで汗を拭っていた。
「先輩の教えのせいですよ」
僕の表情は非常に疲れたものになっていただろう。
「???まあ、なんだ。話は聞けたのか?」
「聞けたというか聞け過ぎたぐらいですよ。先輩がマンション中回ってるのと管理人の話が同じぐらいなんだから察してくださいよ」
「もしかして無駄話されただけじゃないだろうな?」
「一応必要そうなことも聞けてますよ。そちらはどうでした?」
「収穫はあった。テープレコーダーには残してあるから、署に戻ったら……いや、もう遅いか、明日一緒に聞いてくれ」
ということで、明日の集合を打ち合わせたのだが……
次の日、先輩を待っていると、一通のメールが来た。メールに曰く、
「すまん、インフルエンザらしくてしばらく行けなくなった。とりあえず一人で捜査を進めてくれ。無理そうだったら警部に助けを乞え。俺からの頼みだと言えば渋々付き合ってくれるはずだ」
先輩らしい無骨なメール内容だった。
とりあえず先輩が残したテープレコーダーを一通り聞いたが、一人でやるのはさっさと諦めて、警部にメールを見せることにした。
「どうする?一人でやってみるか?」
「いえ、協力お願いします」
「だよな。お前ならそういうかと思ったよ」
僕のことをどう思ってるのか聞きたくなったがやめておいた。それよりも、警部と先輩に何があるかの方が気になった。思い出せたら先輩に聞いてみようと思った。
「で、どこまで捜査はどこまで進めてるんだ?」
「管理人と住人に聞き込みを終えたところまでです。僕が管理人、先輩が住人に聞き込みをしていて、先輩からテープレコーダーは預かっています」
加えて、管理人の話もかいつまんで説明した。
「ふむ……じゃあ、とりあえずテープレコーダー聞いてみるか」
「そうですね。僕は一度聞いているので、疑問点があれば」
『まずは201号室から』
先輩の声だ。
「ん?ちょっと待ってくれ。1階は?」
「あ、このマンション一階には居住スペース無いんですよ。1階は管理人室とエントランスと自転車置き場だけで、部屋は2階からです」
「ほう、そうなのか」
「ええ。行ってみればわかりますよ」
「まあ続きを聞くか」
『警察の者です。鈴木氏の事件についてお話を伺いたくて参りました。部屋番と名前からお願いします』(このくだりは次以降省略します)
『201号室の遠藤健二といいます』
『事件の日はどんなことを?』
『あの日はこのマンションの男連中は近くの公園でボール遊びしてたんですよ。僕はそれに参加してました』
『ほう。それは何時からで?』
『集合じたいは14時からの予定だったんですけど、何だかんだで大体みんな13:30ぐらいには集まってましたね』
『誰かいなかったとかはわかりますか?』
『うーん、そこまでは……そういうのだったら、502号室の西川さんに聞くのが確実と思いますよ。企画したのあの人ですから』
『ふむ、そうですか。ありがとうございます』
「これか、管理人が”住人がまばらに出ていった”理由は」
「恐らくそうだと思います。この後出てきますが、女性陣は女性陣で外で集まっていたらしいですよ」
「ということは、マンションにはほとんど誰もいなかったということになるのか」
「そうなりますね。では続きを」
『202号室の高橋今日子です。事件の日は……あ、そうですわ。女性の住人みんなと一緒に近くの喫茶店に行ってましたよ』
『それは何時ぐらいからですか?』
『13時集合でしたよ。遅れてきた人はいなかったと思います。解散したのは16時ぐらいだったはずですよ』
『みんなって全員ですか?』
『ええ、全員いた……と思いますけど本当にそうだったかまでは……済みませんね、曖昧で』
『いえいえ、まだまだ他の方々にもお話を聞くつもりなので、多少曖昧であろうとお話頂けて助かってますよ』
『そうなんですか?』
『ええ、数々の証言を積み上げて状況を完成させるので、一つ一つが曖昧であろうと、情報の重なりで裏付けられていくのですよ。なので、気付いたことがあったら些細なことでも話して頂けると有り難いです』
『あ、なら、何かあったらお伝えしますね』
「あ、これよく先輩に言われます」
「うん、人柄が表れるよなこういうところは。お前も見習えよ」
「昨日それで5時間話聞かされましたけどね」
警部は苦笑いしかしてくれなかった。
『203号室の中村忍です。事件の日は……出かけてましたよ。あ、済みません。急いでいるので詳しく話をするならまたの機会でいいですか?』
出がけだったようで、足音高く去っていったようだった。
「ま、そういう人もいるわな」
「こういうのはしょうがないですもんねぇ。先輩も無理に引き止めずに一周するのを優先したようですね」
『205号室の平井つかさです』
「204号室が飛んだが空き部屋か?」
「ここは各階4号室は無いです」
「あぁ、縁起担ぎでそういうところがあるが……ここはそうなのか」
「はい、なので空き部屋では無いです」
『8/5ですか?その日ってみんなでボール遊びに行った日じゃないですか。私も行きましたよ』
『そうですか。その際に何か気付いたことはありますか?』
『うーん……わからないですねぇ……』
『何かあったらご連絡ください』
「ここは何の変哲もないな」
「ですね。5号室までなので、次は3階です」
『301号室の小川沙也加です。事件の日は、みんなと喫茶店に行ってましたわ。みんなで行ったけど、結局は隣の森さんとばかり話してましたね』
『仲が良いんですか?』
『ええ、こちらに来る前からの友達なんですよ』
「ふむ、302号室の住人との裏が取れれば、302号室の住人のアリバイも強固に成立するな」
「そうなんですが……」
「何かあるのか?」
「いえ、302号室の森千春は不在だったようで、証言は取れなかったようです。名前は、表札から確認したとのことです」
「惜しいな。完全に消せる可能性があったが」
「まあ、後で裏付け調査すれば問題ないでしょう。あ、303号室は空き部屋なので、次は305号室です」
『305号室の松山千尋です。事件の日って……みんなで喫茶店に行った日ですよね。ええ、私も行きましたよ』
『その際に何か変わったことは?』
『私は午前中に用事があって、ギリギリに着いたのでその前に何かあったのならわからないです。定刻からお茶しだしてからは……特に誰か出ていったとかはなかったと思いますよ』
『……もしかしてトイレから抜け出すとかは可能だったりしませんか?』
『無理ですよ。私も一回行きましたけど、喫茶店のトイレに窓なんて無いですから』
おかしそうに笑っていた。
『いやはや、失礼』
『誰が来たとか来てなかったなら、502号室の西川さんに聞いてみては?』
『ありがとうございます。そこはまだ聞けていないので、詳しくお話を聞けるかもしれませんね』
「502号室の西川?ここまでの様子だと、男連中はボール遊び、女連中は喫茶店に行っていたみたいだが、この者が両方の企画をしてたのか?」
「ああ、ここは夫婦で住んでいるんですよ。夫がボール遊び、妻が喫茶店へのまとめをしていたようです」
「そういうことか。じゃあこの502号室の西川夫妻がカギを握ってそうだな」
「ええ。最悪ここだけでも良いぐらいで……ってのは後にしましょうか。これで3階は終わったので……次は4階ですね」
『401号室の田中樹です。事件の日ですか?みんなの集まりに私も参加するつもりだったんですけど、急に仕事が入って行けなくなっちゃったんですよ。一応取りまとめの西川さんには連絡はしましたよ』
『つまり別行動、と』
『え?もしかして疑われちゃうんですかね?』
『いえいえ、これだけで容疑者ということにはならないですよ。仕事の方に問い合わせて裏付けが取れれば十分アリバイになりますので』
『ああ良かった』
心底安心したような声だった。
「で、裏付けは取ったのか?」
「まだです。僕もさっき聞いたところですから」
「そりゃそうか。まあ難しい調査では無さそうだな」
「ですね。次は405号室です」
「402と403は空き部屋か?」
「いえ、たまたまそこの二人は405号室に遊びに行っていたようで、まとめて聞き込みができたようです」
「ほう、手間が省けたんだな」
『405号室の高野剛です』
『402号室の坂本毅です』
『403号室の石原剛士です。俺達揃ってつよしなんですよ』
『それもあってすぐ仲良くなったんですよ』
『あ、事件の日ですよね?三人で12時ぐらいに出て、近所のラーメン屋で昼飯食ってから、その足でボール遊びする公園に行きましたよ』
『ふむ、その裏付けが取れればアリバイは完成です』
『あ、じゃあ行ったラーメン屋の場所教えておきますよ』
『ありがとうございます』
「あ、このラーメン屋もまだです」
「まだ聞いてないだろ」
「まあ、この三人で口裏合わせてってことは……無いんじゃないですかね」
「どうしてそう思う?」
「この中の誰かが、ということになると、互いに監視し合っている状態になるから犯行自体が難しいでしょうし、三人での犯行なら、もっといくらでも上手くやれるでしょう」
「いや、それはわからんぞ?三人がお前ならできるかもしれんが、この三人の知能次第では、それほど良い方法が思い浮かぶかどうかはわからない」
「三人寄れば文殊の知恵って言いますし、そうじゃなくても三人のマンパワーなら結構なことが出来ますよ」
「まあ言われてみればそうだな。それに、他の人物から彼ら三人の所在が証言されれば問題は無いか」
「ですね、では5階が最上階です」
『501号室の佐藤薫です。私は事件の前日……でしたっけ?の8/3ぐらいから体調を崩していて、8/4から8/6の間ほとんどずっとベッドから起き上がることができなかったんです』
『ふむ、それはお大事に。もう大丈夫なんですか?』
『大丈夫というほどでもないのですけど、一応起き上がれるようにはなりました』
『ふむ……それを証明できる人はいますか?』
『4日と6日には私が目を覚ましている時に管理人さんが来て食料品を置いていってくれたのは覚えているんですが、5日は誰にも会ってはいないです。起きていた時間の方が短かったから当たり前なんですが……もしかして、疑われてしまうのでしょうか?』
『現時点では疑いを外すことはできない、とだけは申し上げておきます』
『そんな!私はやっていません!鈴木さんとは仲が良くて、殺しなんて……信じてください!』
「……」
「言わんとする事はわかりますが、一旦最後までいきますよ?」
「そうだな、次は重要になりそうな西川夫妻の502号室だな?」
「はい。ここまでを踏まえて重点的に聞き込んでもらえたようので、少し長くなりますよ」
『502号室の、私は西川友一と、妻の奈々江です』
『お二方が事件当日にみんなで集まる企画を立てた……』
息を飲む音がした。
『失礼、順序が逆ですね。企画を立てた日に事件が起きたんでしたね』
『ええ、そうです。ここのみんな仲良しで、これまでにも集まって何かをするようなことはあったんです。今回は男女分かれていましたが、それこそ全員で集まって遊びに行ったこともありましたよ』
基本的には夫の方が話すことにしたようだ。
『ほうほう、近所付き合いがあるのはいいことです』
『あ、それより今回のことでしたよね。私の方は……いやあ、お恥ずかしいことに10分ぐらいで暑さでダウンしてしまって。たしか二人ほど来なくて、連絡してはいたんですが、誰に連絡取ったんだったかな……少し朦朧としていたのであまり覚えていないんですよ』
『それは残念。まあ来なかった人は他の人の証言からもわかるでしょうからお気になさらず。最近暑かったし仕方ないですよ』
『情けないねえ。こっちは……直前に田中さんから「仕事で行けません!ごめん!」ってすごい剣幕で電話が来て、それ以外は全員来ましたよ』
『おや?202号室の高橋さんは「全員来ていた」と言っていましたが?』
『事前に連絡があったからですよ。それ以外の全員が揃ったので、定刻に「みんな揃った」と言ったんですよ。それで全員が来たと認識したんだと思います』
『ふむ、そういうことでしたか』
『ええ、なので女性全員にアリバイがあることになると思いますよ』
『ええ、そういうことになりますね。現時点で断定することはできませんが、裏付けが取れれば証明はされると言えるでしょう』
証言を疑っているわけではないことを意識させるような言い回しを心がけているようだった。
『まあ来なかった男性については一旦こちらで調べておきますが、そちらの方でも何か思い出したらいつでもお願いしますね』
「……で、誰が来てなかったのかはわかったのか?」
「それもまだです」
「何もかもまだじゃないか」
「まあ、テープレコーダー聞いてすぐ来ましたから」
少しイライラしているようだった。
「で、503号室は空き部屋なので、これで終わりです」
「お前はこれを聞いてから来たんだったよな?」
「ええ、そうですね」
「こんなもんどう考えても501号室の佐藤が犯人だろうが!こんな証言をどう信じろって言うんだ!」
「……警部、これ知ってます?」
小型の機械をポケットから出した。
「……ん?あぁ、どこかで見た気はするが……何だ?」
「最近開発された新型の嘘発見器です。どういう原理かはわかりませんが、言葉に嘘があると反応するらしいんですよ」
「ほほう、それは便利そうだな。で、それがどうしたんだ?」
警部の話の途中でピピッと電子音がした。
「ん?携帯か?出てもいいぞ」
「いえ、これ嘘発見器の反応ですね。さては警部、これ疑ってますね?」
「いや、そんなことはないぞ?」
またピピッと電子音が鳴る。
「なるほど、警部は本気でこの嘘発見器の機能を疑っているってわけですね」
「まあな。こんなもんでどうなるんだ?とは思ったが」
「そういうのを発見できる機械、というわけですね。で、先輩これを聞き込みの時に使ってたらしいんですが……」
「お聞きの通り、一度も嘘発見器の電子音鳴らなかったですよね?つまり、ここまでの証言で嘘を言ってる者は誰もいなかったんですよ。勿論どう考えても怪しい501号室の佐藤もです。あの者があれだけ犯行を否定して鳴らなかったということは、犯人では無いということでしょう」
「なんだと!?」
「とりあえずお前はここまでの証言の裏付けを取れ。それが終わったらまた一緒に考えようか」
「はい、ある程度行くところとか連絡するところは決まってるので、すぐ済むと思いますよ」
なら裏付け取ってから来いと言われそうだったのでさっさと退散することにした。
女性の住人が集まったという喫茶店、三人組が行ったというラーメン屋、401号室の田中の会社に連絡を取ってみたが、彼らは問題なくいたということだった。
続いて302号室の森の部屋に向かってみたが、またも不在だった。仲が良いと言っていた隣の小川に尋ねてみると、今は旅行中とのことだった。電話してもらって聞き込みをしてみると、「喫茶店では小川さんとばかり話していた」という、小川と同じような証言が得られた。口裏を合わせているとも考えられなくもないが、そもそも西川夫人の証言により、この二人も来ていることは明らかだと考えると、疑う意味は無いようにも思われた。
あと、西川氏の言っていた”来なかった二人”を考えてみることにした。が、これは死亡していた鈴木と体調不良で外に出なかったと言っていた佐藤だろう。名前だけしか聞かなかったので佐藤の性別どっちだろう?と思ってはいたが、連絡なく来なかった女性がいなかったという情報を組み合わせると恐らく男性だろう。一応後で確認はするが、今の所はそう考えておこう。
次の日、これらの情報をまとめて警部に持っていくと、警部は渋い顔をした。
「それはわかったが……これだと容疑者がいなくなるぞ」
「そうなんですよねぇ……」
顔を見合わせるしか無かった。
「にしてもこれじゃラチが開かん。現場百遍とも言うし、マンション行ってみるか」
「お供しますよ」
「当然だ。そういえば私は行ったことはなかったな」
「百遍どころじゃなかったですね」
マンションに行くと、管理人室から管理人が顔を出して迎えてくれた。
「どうしました?何か調べることでも?」
出る前と同じように顔を見合わせる。
「そういえば何を調べたかったんですか?」
「何も考えてなかったな……まあとにかく色々見てみたい」
「見回るならご一緒しましょうか?」
「あ、じゃあよろしくお願いします」
管理人を伴ってマンションを回ることになった。
特に目的もなく廊下を歩き回っていると、警部が空き部屋の前で足を止めた。
「もしかして空き部屋に誰かが潜んでいたりはしないかな?」
管理人が顔を青くした。
「まさか……でも万が一ということもありますし、全ての空き部屋チェックしてみますか?」
「そうだな、特に調べることも考えてなかったし、やってみようか」
管理人がマスターキーを持ってきてくれて、空き部屋となっている303号室と503号室を開けたが、誰かが隠れている様子も誰かが隠れていた跡も見受けられなかった。
「ふう……誰もいないようですね。もし誰かいたら私の責任問題になるところでした」
「そっちの安心ですか」
「いたら重要参考人でしょうけど、こちらからしたら不審者がいないことに越したことはないですから」
「まあそれもそうですか」
「アテが外れたか……まあしょうがないか。最後に事件のあった部屋を見ようか。あ、管理人さんはもう大丈夫ですよ。適当に調べて適当に帰りますから」
管理人を帰して、二人で事件現場を調べたが、鑑識が調べた後ということで、侵入した形跡など怪しいものは見当たらなかった。
「うーん、外部犯は確実に無さそうですね」
「そりゃ5階だからな。どこかよじ登ったりしたら目立つだろう」
「ということは内部犯、ですか」
「しかし聞き込みの結果から、内部犯にも怪しいやつはいないことになるぞ」
「そうなんですよねぇ……もう一度住人に聞き込みしてみます?」
「聞くことがあって初めて聞き込みをするものだ。知りたいことがわからないのに聞き込みしても答える側も困るだけだぞ」
「ですよねぇ……」
「まあ一旦署に帰るか」
マンションを出る時も入るときと同様管理人が窓から顔を出して挨拶してきた。
「どうでした?何かわかりました?」
「いえ、何も。でも絶対何とかしてみせますよ」
僕が空元気を出していると、警部の表情が変わった。
「帰るぞ。取ってくるものがある」
「え?何をです?」
足早に車に乗り込む警部に尋ねた。
「逮捕状だよ」
車に乗ってから静かに答えた。
さて、警部は誰の逮捕状を作ろうとしているのでしょうか?