量産型ディープ

俗に言う量産型ディープ産駒というのはどのようにして生まれるようになったかを考えてみましょう。

※今回の内容は、オフラインでも仲良くして頂いている はっちぃさん から教わった内容が多分に含まれています。どこまでが教わった部分でどこからが自分の考察になっているかがあまりはっきりしないので、特に区別せずに書きます。


予備知識として、ミオスタチン遺伝子情報について軽く説明をします。詳しく知りたければ、googleとかで調べれば論文みたいなのが出てくるはずです。

今回のお話に関わる部分だけをざっくり言うと、ミオスタチン遺伝子情報には、短距離型に向かうC型と長距離型に向かうT型があり、これの組み合わせで得意な距離が大体決まってくるというものです。組み合わせは3パターンでCC型、CT型、TT型です。C型とT型に優性/潜性(今は優性/劣性とは言わなくなったらしいですね。それに合わせておきます)はありません。メンデルの遺伝の法則の解説は義務教育の範囲として省かせて頂きます。
ミオスタチン遺伝子情報による距離適性決定には、未だに疑問を持っている層もいるようです。ミオスタチン遺伝子情報はあくまで筋肉量に関わる情報で、競走馬の距離適性は他にも色々な要素(気性、心肺機能、後天的ではありますが育成の仕方などがあるでしょうか)があり、これだけで一意的に決まるというわけではありません。ですが、ある程度実証され、恐らく既に実用化されている理論を、感覚の部分だけで拒否反応を示すのは時代遅れも甚だしいです。ここについての議論はしません。

父と母のミオスタチン遺伝子情報のパターンは3×3で9パターンです。ちょっと煩雑になりますが、後にするお話と繋げやすくするために場合分けしてみます。

1.父CC、母CC
これは簡単で、子はCCしか出ません。
2.父CC、母CT
3/4の確率でCC、1/4の確率でCTが出ます。
3.父CC、母TT
100%の確率でCTが出ます。父や母の型をそのまま下ろしてくることは無いので、CCもTTも出ません。
4.父CT、母CC
3/4の確率でCC、1/4の確率でCTが出ます。2の父と母父を入れ替えただけです。
5.父CT、母CT
1/4の確率でCC、2/4の確率でCT、1/4の確率でTTが出ます。最も多様性のあるパターンです。
6.父CT、母TT
1/4の確率でCT、3/4の確率でTTが出ます。
7.父TT、母CC
100%の確率でCTが出ます。3の逆です。
8.父TT、母CT
1/4の確率でCT、3/4の確率でTTが出ます。
9.父TT、母TT
100%の確率でTTが出ます。1と似てます。

この中で、出てくる子がどの型になるか制御しやすいのはどのパターンでしょうか?
すぐおわかりですよね?1,3,7,9です。共通するのは、父、母いずれにもCTが入っていないことです。まず、特定の型を出したいのであれば、CT型というのは邪魔なわけです。

大規模に生産をし、多くの頭数を育成しているノーザンファームでは、恐らくですが、個々に合わせた育成、というのは難しくなってきているのだと思われます。そこで、特定の型を生産し、それに合わせた育成をすることで、効率的な馬作りを行っているのではないかと推測しています。これが量産体制の一つの肝ではないかと考えています。
次に、どの型を作るのが効率的でしょうか?これは一目瞭然ですよね。CC型種牡馬からでもTT型種牡馬からでも作ることができるCT型を作りに行くというのがアプローチしやすいはずです。CC型種牡馬にはTT型の牝馬、TT型種牡馬にはCC型の牝馬をあてがうことで、確実にCT型の子を量産する。これが、ノーザンファームの配合の基本になっていると思われます。

ここで、具体的な馬のお話に移ります。
短距離馬から長距離馬まで様々なタイプを出した大種牡馬サンデーサイレンスは恐らく(というか間違いなく)CT型です。サンデーサイレンスはその多様性を以て大種牡馬へとのし上がり、種牡馬の父として血を広めた……というのは今回の議題から逸れるのでここまでにしておきます。
で、その子のディープインパクトはTT型であると推測されます。競走成績や、短距離型の子をほとんど出していないことから類推できます。これもほぼ間違いなく、以後はこれを前提としてお話します。
そして、前の段落より、これはノーザンファームの量産体制に適した型であったわけです。
ディープインパクトがTT型であれば、CT型の量産のためには、CC型の牝馬を掛け合わせればよいわけです。走るディープ産駒の母は大体短距離系が多いと思いませんか?これは恐らくそういうことです。ディープ産駒が印象ほど距離をこなさず、マイラーみたいなのを数多く出しているのは、そういう牝馬を多く種付けられているからです。
逆に、CC型と推測されるロードカナロアも、CT型量産には適した種牡馬と言えるでしょう。TT型の牝馬につければCT型を確実に排出することができ、同様の育成をすれば量産体制のシステムに入れるというわけです。


実はここからが問題で、私の勝手な推測ですが、ノーザンファームは、量産型ディープ産駒はディープの後継足りえないと考えているのではないでしょうか?
何故なら、上の場合分けの通り、CT型では子の型を制御できず、量産の基軸になれないからです。これはいずれ発生するであろうロードカナロアの後継問題でもあります。ロードカナロアからは恐らくCC型のダノンスマッシュが既に出ているから問題なさそうではありますが。
量産で出来た子は量産の後継にはなれない。というのは、走らせる用と繁殖(後継)用は別に作らないといけないということです。そこで、ノーザンファームがディープの後継を誰で考えてるかを想像してみたのですが……今一つ見えてこないんですよね。まず前提として、TT型であること。これでかなり絞られます。次に、そこそこ現役で活躍したこと。流石にそれなりに能力を見せていないことには後継に据えづらいでしょう。この二つを満たす馬を探すと……サトノダイヤモンドは惜しいと思います。条件はだいたい満たしていそうですが、昨年とかで種付けしてる牝馬を見るに、あまり力を入れてるようには思えないんですよねぇ。他ではフィエールマンは体質弱そうで除外、キズナはまずTTかどうかが微妙(生産者サイドは掴んでいるとは思いますが)となると……まだ現役ですがワールドプレミアあたりは可能性がありそうです。コントレイル?あれは他所の生産ですが、ゴリゴリの量産型ディープの配合でしょう。実績こそ十分ですが、恐らくノーザンファームはコントレイルを後継とは考えていないと思いますよ。