診断士1次情シス免除のために応用情報取ればという主張の無責任さを問いたい
中小企業診断士試験 1次試験受験生のみなさまお疲れ様でした!悲喜交々とは思いますが、それぞれ気持ちを切り替えていきましょう。
さて、例年この時期になるとSNSでこういうことを言う人が現れます。
『近年の経営情報システムは難化しており、傾向も読みづらい。免除のために応用情報技術者を取るのがよい』
この主張について、みなさんはどう思われますか?
私は明確にこの主張には反対です。
既に応用情報を持っている or 情報系に明るい人のポジショントークか、一種のジョーク的な発言だと受け取るべきでしょう。ほとんどの人は真に受けないでしょうが、本気で検討してしまう人がいるといけないので、いかに無責任な主張なのか、それなりの字数を割いて書いてみたいと思います。
応用情報技術者だって難関資格です
以下のどれか2つ以上にあてはまる方は、免除狙いで応用情報技術者試験(AP)の勉強をしてもよいと思います。
仕事がIT系で、勉強したことが実務に生きる
もともと応用情報技術者資格も取るつもりだった
今後ITストラテジストなど高度資格も目指すつもりがある
資格マニアである
中小企業診断士資格の取得を急いでいない
そうではなく、あくまで「中小企業診断士取得を目的とする」のであれば、そのために応用情報技術者試験の勉強をするのは、どう考えても遠回りですし、タイパも悪すぎると思うのです。
「財務・会計が苦手だから日商簿記2級を取る」という方も多いです。これについては良いと思います。2次試験にも活きますし。
大きな違いは、日商簿記はテストセンターで随時受験ができるが、応用情報技術者試験は年に2回の会場受験しかないという点です。
「年に一度の診断士試験の不確実性を下げたい」という目的に対して、「年に2回しかない応用情報技術者試験で補う」というのは、たいしてリスクヘッジできてないでしょ。どう考えても。
応用情報と診断士の受験スケジュール
ここで具体的に、中小企業診断士試験と応用情報技術者試験の直近(令和6年度)のスケジュールを見てみましょう。
※以下、応用情報技術者試験:(AP) / 中小企業診断士1次試験:(診)
(AP)春期申込締め切り:2024年2月7日
(AP)春期試験日:2024年4月21日
(診)1次試験申込締め切り:2024年5月29日
(AP)春期合格証書発送日: 2024年7月22日
(AP)秋期申込締め切り:2024年7月31日
(診)1次試験日:2024年8月3日・4日
(診)1次合格発表:2024年9月3日
(AP)秋期試験日:2024年10月13日
(AP)秋期合格証書発送日: 2024年12月下旬以降
重要な点は、
診断士1次試験実施時にはもうAP秋期試験の申し込みは終わっている
AP春期試験の合格証書発送日には、もう診断士1次試験の申し込みは終わっている
という2点です。
仮に8月の診断士1次受験直後に「応用情報取るぞ!」と決めた場合、最短で令和7年度の春期試験をめざすことになります。もし春期試験に合格し、免除に必要な合格証書を受け取れるのは7月下旬。その年の診断士1次申し込みには全然間に合いません。申請できるのは最短で令和8年度になります。まる2年かかってます。
タイミングにもよりますが、最短である「AP秋期合格→翌年診断士1次」でも1年かかります。「最短で」ですよ?その間普通に診断士試験の勉強した方がよくないですか?
APは記述試験もあるんですよ
AP試験は午前・午後に分かれています。
詳しくはIPAの試験情報に記載があるため詳細は割愛しますが、午前がマークシート、午後が記述式です。
記述があるんです。診断士2次試験のように長文をがっつり書かされるようなものではなく、高校のテストみたいな数文字〜数十文字記述が大部分ですが、ちゃんとわからないと書けません。
内容は大問が以下の11問。うちセキュリティが必須で、残りの10問から4つその場で選択します。
診断士受験生なら1問は戦略系を選択するとして、あと3つどうしましょう?なんたらマネジメントというのがあるので、それにしようか…ということで問題を見てみましょう。
こんな感じの与件文と設問文が、大問ごとに5ページくらい続きます。
しかも、150分で5問解答。大問1つあたり30分。診断士2次試験と遜色ない速さで与件文・設問文を読み、どういう仕様のシステムを構築するプロジェクトなのか理解し、解答を記述する必要があります。
しかも、文中に専門用語がサラッと出てきます。IT経験が浅いと問題文に出てくる単語が分からないという方も多いかもしれません。そうでないにしても、記述試験は時間との戦いだというのは診断士試験と同じです。独自のタイムマネジメントを確立しておく必要があります。
合格率はだいたい20%ちょっとくらいです。
診断士1次試験の経営情報システムの科目合格率と比べてどうでしょう?
確かに過去3年程度の科目合格率を見ると20%を下回っています。難しいと言われた令和5年で10%くらい。これだけ見ると低いように感じますが、科目合格者数には「試験合格者」を含みません。正確な計算は難しいですが、同年の試験合格者数から前年の科目合格者数を引いた数で計算してみたら、だいたい30%近くまで上がりそうな感じもします。
そもそもですよ。応用情報技術者試験を突破できるくらいの知識があれば、免除しないで診断士1次試験を普通に受験したら得点源になるか、難しい年でも合格できると思うんですよね。少なくとも足を引っぱる科目にはなりづらい気がします。
なんだかんだで、手持ちの教材を信じるのが一番近道だと思う
反論として「IPAの試験は過去問の焼き直しが多く、診断士試験のような変化球が少ない」という点が想定されます。
これに対しては、たしかに科目単位で見るだけなら年度によっては6割を取るのが非常に難しいこともあります。令和5年度もそうですね。でも52点くらいまではテキスト・過去問の知識と現場対応でなんとかもぎ取って、あとは他科目との合計でやりくりすることができるのが診断士試験です。いくら変化球が多い年度だったとしても、一般的なテキストや過去問を徹底的にやっていれば足切り回避はできるはずなので、今使っている教材を信じて取り組んでください。
ちなみにIT系に従事する私が、診断士1次情シスの過去問10年分で唯一合格点を取れなかったのが平成28年度試験です。この年は全員に得点調整+4点が入り、さらに全体の合格基準まで「総点数の59%以上」に変更されています。本当にヤバい難易度のときは調整が入るので、変化球じゃない問題をできるだけ確実に取るという、基本姿勢を忘れないでほしいです。
総合格闘技的な中小企業診断士試験の難易度と比較すると少し霞んでしまうのかもしれませんが、応用情報技術者試験だって難関資格です。なんというか…軽口で「科目免除のために応用情報取ったら」って、応用情報技術者に対して失礼だと思います。完全に「パンがなければケーキを食べればいい」じゃないですか。マリー・アントワネットはそんなこと言ってないらしいですけど。
以上、なかば感情に任せて応用情報技術者をナメんなということを書きましたが、私は応用情報技術者資格を持っていません。受けたこともありません。過去問をただの1回やってみたことがある程度です。これだけ書き散らかしたからには、そのうちに自分も挑戦してみるべきかなと感じました。基本情報も持ってないですし、取っても実務にはあんまり関係ないですが…。
おまけ:AP午前問題をかじってみた感想
ということで、応用情報技術者試験の午前問題だけをちょっとかじってみました。IPA試験受験者御用達、過去問道場なら年度やジャンルを選択して手軽にチャレンジできます。
・・・どうでしょう?
診断士試験の問題集で見たことありそうな問題もあれば、結構難しい問題もあれば、全く意味がわからない問題もありますね。
診断士の経営情報システムと比べるとトレンド的な問題は少なく、似ているけれど出題傾向は全然違うなぁと感じました。シラバスがしっかり決まっているので、IPAの試験のほうが対策しやすいというのは一理あるかも。
・・・いやいや。やっぱりちゃんとやろうと思ったら大変ですよ。でも、自分の性格的に、基本情報技術者から順番に取っていきたくなってしまいます。
診断士1次受験生は、時間があれば午前試験の過去問道場だけ合間にやってみるという活用方法はアリかもしれません。
最後に。それぞれの資格には、目的や対象者像がちゃんと定められています。
趣旨を理解したうえで、1つ1つの試験に誠実に向き合いましょう。
※アイキャッチ画像は、Copilotに「教室で試験を受けている日本人女性のイラストを描いて」「試験は学校の試験ではなく資格試験なので、服装は制服ではなく私服にして」とお願いしたら出てきたものです。
いやいや、なんでそっち向いてるの!不正行為だよ!!