この学校の近くで不審者が出ました

予期せぬ早起きをした。
いつもは昼過ぎに起きるのだが、たまに8時頃に目が覚めて寝付けなくなってしまう時がある。
せっかくなので散歩をする事にした。
「朝起きて空腹の状態でブラックコーヒーを飲んで歩くと痩せる」と聞いたことがあり、いつか実行したいと思っていたのだ。
「朝起きて」がまずできないので諦めていたのだけど、これはチャンスだ。
近くの自販機で缶コーヒーを買い(楽天Payが使える自販機が近くにある事が一番嬉しい)、いつもの散歩コースを歩き始めた。

住宅街を歩いている時に、足早に同じ方向に向かう学生の姿が目についた。
そうか、いつもは夜に散歩しているから気が付かなかったけど、ここは通学路なのか。
大通りに学校があるので、たまに学生とすれ違う事はあるけど「今、まさに学校に向かう」学生と同じ道を歩く事はあまり無かった。
だからと言って別に気にする事は無く、目についたものをメモしながら(”カラスがゴミ捨て場のネット越しにゴミを突こうとして、うまくいっていなかった。悔しいだろう。”など)歩いていた。

学校の近くまで来たら、先生らしき女性が学生に声をかけていた。
「おはよう」「おはよう」
夜には見られない風景なので面白いな、と思っていたらその先生がわたしの方を見た。
何も言わなかった。
そして、また学生に向かって声をかける。

その瞬間、わたしは先生から「あなたはウチの生徒ではありません。なので声をかけません」という無言の圧力を感じた。
当たり前だ。
わたしは学生ではないし、先生が挨拶をしてきたらわたしもビックリして無視をしてしまう。

しかし、その圧力により自分がこの道では異質な存在だという事を自覚した。
平日の朝8時に缶コーヒーを片手に通学路をぶらぶら歩ている成人男性は、普通に怖い。
このままだと不審者だと思われる可能性もある。
少しでも良く見せようと来ているシャツのボタンを一番上まで留めた。
その時に気づいた。
「きちんとした格好をしている不審者の方が怖くないか?」

服がボロボロで目も虚ろで歩いている人は一目で怪しいと思うが、きちんとした格好でコーヒーを片手に歩いている人も、それはそれで得体が知れない。
どうしようと思っていたら、スーツ姿の男性が横切った。
あの人は明らかに不審者ではない。
自分もスーツを着ていれば、大丈夫だったのだろうか?
私服姿の男性も横切った。
あの人は、自分と同じような格好をしているのに、不審者感が全く無い。
その差はどこにあるのだろうか。

歩きながら考え「荷物を持っているかどうか」という結論に達した。
この時間に荷物を持って歩いている人の大多数は、職場という目的地がありそこに向かって移動している。
しかし私は手ぶらで(缶コーヒーはもう捨てていた)、当てもなく歩いている。
一見しただけでわたしが芸人で、たまに文章を書いていて、職場は家か劇場だと分かる人はいないだろう。
一見して分からない人はほぼ不審だ。

学校の目の前まで来てしまった。
右を見ても左を見ても学生が歩いてくる。
こんなものは気の持ちようなのだから「わたしは不審者ではない」という顔をして、堂々と大通りを歩けばいいのだが、怖くなったわたしは遠回りをして細い路地に飛び込んだ。

そのまま、学生が通らないであろうルートを歩き続け(一度、完全に通学路に迷い込んでしまったが)始業ベルが鳴る学校を完全に通り越した。

交差点にはわたしと同年代か年上の人しかいなかった。
目的があっても無くても関係ない。
誰もわたしを不審者とは思わない。

嬉しくなって、そこからまた少し歩いて公園まで行った。
わたしは31歳になっていた。




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谷口つばさ
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