現代を生きる人に向けてのエンタメ
「MIU404」最終回見終わってとても良い気持ちのまま、配信で劇団かもめんたるの公演を見て、両作品に共通する部分を感じたのでここに書きます。
「MIU404」のラストで、「ウイルスによってオリンピックが中止になった世界」が描かれていました。具体的に「コロナ」というワードが出ていたわけではなかったのですが、「みんなマスクをしている」「”密”、”ディスタンス”というワードが出た」という部分から、「現代の現実を描いている」という事は間違いないと思います。
また、劇団かもめんたるでも、「疫病によって人類が滅びた」という設定や、物語の軸に「人間とヒューマノイドの間にある”差別”」というものがあり、これも「現代の現実にある問題から生まれた」と言えます。(作・演出をしたう大さんも自身のnoteで「コロナと黒人差別のニュースがあった6月に書いて、その二つに影響された」と書いています)
描き方は違えど、どちらも「この時代だからこそ生まれたもの」という考え方ができると思います。
今の時代を切り取っているエンタメ作品は、今見るからこそ意味があると言えます。
例えば、前述の「MIU404」のラストは「コロナによって、色々な事情があってオリンピックが中止になった」という事を丁寧に描写しているわけではありません。リアルタイムで視聴する人にとっては、現実とリンクする内容なので、そこまで説明する必要が無いからです。
ですが、例えばこのドラマがアーカイブされ100年後に生きる人がこのシーンを見たらどうでしょうか。
「え?なんでみんなマスクしてるの?なんで中止になったの?」
と思うのではないでしょうか?(そもそも100年後にマスクや車と言うものが存在しているかどうかがわかりませんが・・・)
我々にとっての「江戸時代の大規模な飢饉」と同じぐらいの感覚で、「コロナウイルス」が100年後、歴史の教科書に書かれるのは間違いないと思います。
例えば、我々が江戸時代のドラマ(江戸時代のドラマ?)を見て、重要なシーンで「この時代に大規模な飢饉があった、という事を知らなければ理解できない演出」があったら、僕は「不親切だな」と感じると思います。
僕はエンタメ作品は「時代背景や特定の知識が無くても、どんな人でも楽しむことが出来る」方が良い(それぞれの感受性や好みとは別の意味で)と考えていて、その点からすると上記2作品はあまり良くないと言えます。
ただ、冒頭にも書いた通り、「MIU404」も劇団かもめんたるの公演も本当に素晴らしく、特に「MIU404」は毎週とても楽しみにしていて最後までずっと夢中になって視聴していました。
なぜ楽しむことが出来たかと言うと、ストーリーや人物描写に加え、「現代を描いている」という事がとても大きいと思います。
我々が生きている時代の問題を、鮮やかにエンタメとして昇華している事に「これは自分の物語だ」と感じたのだと思います。
僕の持論と明らかに矛盾していること書きました。矛盾しすぎて気づいていない人もいるかもしれませんが、「エンタメで時代背景を描くのは良くない」と書いた直後に「この2作品は現代の背景を描いているから良い」と書きました。
でもどちらも本心です。
僕の前述の持論は「昔の作品に触れて感じた事」でした。自分が生きていない時代だったから、その作品を100%楽しめない事にネガティブな感情を持っていたのだと思います。
ただ、現代を描いていて、自分が理解できたとなると手のひらを返して称賛をしている。なんて現金な奴だと思いますが、「面白い」という感情に嘘はつけません。
過去の人も現代の人も「(その時代の)今を生きる人」に向けて作品を作っていました。100%楽しむためには、リアルタイムで触れる事が何より重要だと思います。
そして僕はそれがとても好きだという事に気づきました。
芸人をやっていて一番楽しいのはライブに出ている時です。
その瞬間は「このライブ映像がアーカイブされて100年後の人も同じように笑ってくれるのかな」なんて事は一瞬も考えません。
その時は目の前にいる人を、自分自身を、楽しませる事しか考えていない。あまりにも「今を生きる人」しか対象にしていません。
いつか、ここで笑った事を忘れてしまうかもしれないし、「あれ何だったんだ」と思うかもしれないけど、その瞬間、楽しんだことだけは嘘じゃない。
人生は「今」の積み重ねでできているのだから、その「今」をできるだけ楽しんで生きていきたいと強く思いました。
「現代を生きる人を楽しませるもの」というものは、そのために存在しているのだと思います。今だからこそ楽しめるものは、絶対に今のうちに楽しんでいきたいです。
思えば、かつて読んでいた少年ジャンプの連載で一番楽しみだったのが「太蔵もて王サーガ」の、他の連載作品のパロディを読むことでした。
2週間ほど前に描かれた「テニスの王子様」のリョーマVS金太郎のラストをパロディしたオチに本当に大爆笑しました。これは単行本だけ読んでいたらここまで笑っていなかったと思います。
「今を楽しむ」とはこういう事です。