地域別の技術系コミュニティイベントの推移と傾向
前回:新型コロナウイルスで技術系コミュニティイベントはどう変わったか
次回予定:技術系コミュニティの基本的なデータ
今回は Connpass 上のイベントデータから地域ごとのイベント件数とその推移を紹介します。
仕事上、地域の技術コミュニティの盛り上げ施策などを考えることもあるのですが、施策の基礎となる地域毎の客観的なデータがあまりなかったので今回集計してみた次第です。
以下、データを見るにあたっての基本的な注意点です。
・明らかにテストと分かるデータは省いています
・イベントの開催地は「会場」情報から識別しています
・イベントの開催地が分からない場合もイベントタイトルやグループ名称、本文中の記載で開催地が判明する場合は地域を特定しています
・複数の地域で開催するイベントなどは「その他」に分類しています
・オンライン開催のイベントは地域データに含めていません
まとめ
2012年1月から2020年7月までのすべてのオフラインイベントのうち、東京都での開催がおよそ 64% と圧倒的に多く、続いて大阪府 8%、愛知県 4%での開催が多いという順当な結果です。
ただし、東京都でイベントが開催される割合は徐々に減少しています。大阪府や愛知県を中心に地域の技術コミュニティが活性化している様子が伺えます。
人口を考慮したイベント開催の割合では、宮城県、沖縄県、島根県が健闘してます。
関東では千葉県、埼玉県が人口を考慮したイベント開催の割合が少ない傾向が見られます。これは千葉県、埼玉県の住民は東京都で開催されるイベントに参加しているためと思われます。一方、同じような条件の神奈川県ではイベント開催が活発です。この違いは各県のIT系企業数に依るのかもしれません。
都道府県のイベント開催件数
上は 2012年1月から2020年7月末までに Connpass に登録されたオフラインイベントの都道府県毎の総数です。
地区毎にまとめていますが、東京都のみ関東地方から省いています。これは東京都でのイベント開催件数があまりに多いため、地区毎の比較が困難になるからです。
ざっと見てみると、東京都だけで全イベントの 64% が開催されています。圧倒的ですね。
東京都に続いてイベント開催が多い都道府県は大阪府 8.5%、愛知県 4.2%、福岡県 3.7% です。順当に大都市が強い傾向となっています。
上の表はさきほどの表を地区毎にまとめたものです。
近畿地方は大阪府以外の京都府、兵庫県でのイベント開催数が多く、地区単位で見ても東京を含む関東地方に次ぐ値となっています。
この表をグラフにしたものが以下です。東京都の突出ぶりが良くわかります。
人口を考慮した都道府県のイベント開催割合
今回の記事で興味深い結果はおそらくこの項目でしょう。
都道府県毎のイベント開催数を上で紹介しましたが、そもそも都道府県毎の人口はかなり異なります。
そこで、総務省「人口統計」の2017年のデータをもとに、人口 / イベント数で割った表を作成してみました。都道府県毎の技術系コミュニティの盛り上がりを可視化することを目的とした表です。
※人口の単位は千人です。
上の表だけでは分かりづらいので割合が多い順に並べてみたものが以下です。
東京都が1位、大阪府が2位であることはイベント数から想像できましたが3位以下は興味深い結果となっています。
盛り上がりランキング(仮称)の3位は宮城県。
これは東日本大震災以降、いくつかの企業が宮城県の技術コミュニティを支援してきた結果が表れたと言えるかもしれません。すべてのデータを目視チェックしてはいませんが、宮城県では仙台市に続いて石巻市でのイベント開催が多かったと記憶してます。被災の中心地の1つでもあった石巻の活況を示すデータは感慨深いものがあります。
4位は沖縄県でした。
IT企業を多く誘致していることでエンジニアの数が多いこと、地理的に他地域へのイベントに行きづらいことなどが要因かもしれません。
また、全国的な技術系コミュニティで沖縄県でのイベント開催を行う例も多いようです。
6位はなんと島根県です。
意外でもあり、納得もできる結果です。人口は685千人と下から2番目の少なさですが、それに比して多くの技術系イベントが開催されてます。
内容を見てみると Ruby 関連のイベントの多さが際立ちますが、それ以外のイベントもあり、島根県が取り組んでいるIT企業の誘致の成果が出た形になっています。
一方、想像以上に順位が低かったのは千葉県の44位です。
東京のベットタウンとして人口はそれなりに多い千葉県ですが、技術系コミュニティのイベント数は島根県とだいたい同じです。
千葉に住んでいる方は基本的には東京都で開催されるイベントに参加する、ということかと思いますが、同じような条件である神奈川県は14位です。
この違いはIT系企業の数や理系大学の数が要因かもしれません。
都道府県のイベント数の推移
最後に都道府県毎のイベント数の年での推移を紹介します。
※2020年については7月までの数値なので他の年と比べると著しく低いです。他の年と比較したい場合は前回の記事をご覧ください。1-7月期で比較したデータを掲載しています。
基本的に右肩上がりなので件数だけでは分かりづらいかと思います。そこで各年ごとの都道府県毎の割合を記した表を作成しました。
数値だけでは分かりづらいかと思いますが、よく見ると東京都の割合が2015年をピークに減少しています。グラフで見ると以下です。
平均するとおよそ 64%ですが2019年には 61%となり、2020年には54%に急落しています。
では変わりにどこが伸びているかといえば、大都市を持つ都道府県のようです。以下は神奈川県、愛知県、大阪府、福岡県の割合の推移グラフです。
大阪府や愛知県が堅調に割合を増やしていることが分かります。グラフ外では沖縄県も堅調に割合を増やしているようです。
今回のデータでは東京都の圧倒的な強さが示されていますが、傾向としては東京都以外の都道府県での盛り上がりが増しており、徐々にではあるが地域コミュニティが充実している、と考えて良さそうです。
2020年の傾向と仮説
さて、上のグラフでは2020年の東京都の割合が急落していました。2017年から低下傾向とはいえ、2020年の低下率は顕著です。
(2017年も前年比で同じ程度下がっているので、そこまで特異な値ではないですが…)
前回のデータが示すように2020年が新型コロナウイルスの影響でイベント数そのものが減り、開催しているイベントの5割以上がオンラインでの開催となっています。
これは仮説ではありますが、東京都の技術系コミュニティは他地域よりも早くオンライン化したため会場住所をベースとした割合で減少率が多くなっているのかもしれません。
この仮説をどのように検証するかは今後の課題ですが、オンライン化によって東京都をベースとした技術系コミュニティのイベント割合が増え、せっかく進んでいた地域の盛り上がりに水を差す形になっている可能性もあります。
今回集計したデータは2020年の7月までと年半ば。新型コロナウイルスによる緊急事態宣言が出てからは4カ月。まだ推移を分析するには十分な期間は経っていません。今後は上の仮説が合っているか否かを注視していきたいと思います。