科学と旅 第一回:物質の三態と流氷ダイビング
みなさん、こんにちは! 新企画として『科学と旅』というエッセイの連載を開始したいと思います。
『科学と旅』は現在僕が勤めている会社のweb社内報で絶賛(?)連載中の記事でございます。web社内報で連載記事を担当していることをちょっとした話題の一つとして友人たちに何気なく話してみたところ、ぜひ読んでみたいという声を多数頂きました。そこで会社と交渉したところ、社内用語などが使われている部分を修正することや会社のロゴ等を使用しないことを条件に公開が許可されました。
毎月一回の更新で、最低一年間は頑張りたいと思います。応援、よろしくお願い致します。
科学パート
物質の三態とは?
今回のテーマは物質の三態です。なんだかいきなり難しそうな単語が出てきたと思われるかもしれませんが、物質の三態とは、私たちが普段生活しているときの気温と気圧のもとで、物質が取り得る三つの状態のことです。勘のいい方はもう分かったのではないでしょうか? そうです、固体、液体、気体のことですね。
では、それぞれの状態についてもう少しだけ詳しくみていきましょう! 固体は物質を構成する粒子(原子や分子)がギッチリ詰まっていて振動はしているものの、身動きが取れない状態。液体は粒子が少し動けるようになって、お互いの位置を入れ替えることはできるけど、完全に離れ離れにはなっていない状態。気体はそれぞれの粒子が自由に動き回れる状態。図に表すとこんな感じです。
上の図から想像できるように、同じ物質だと固体>液体>気体の順で密度が大きくなります。つまり、固体は液体に沈むということです。ここで「あれっ!?」思った方、多いと思います。氷って水に浮いてますよね!
水の特異な性質
水(H2O)は水素(H)二つ、酸素(O)一つからできていることはよく知られていますが、実は下の図のように折れ線型の分子構造をしています。
しかも、酸素がマイナスの電気、水素がプラスの電気を帯びた状態になっているんです。なので、固体になろうと水分子が集まってきても、互いの電気が反発しあってギッチリと詰まることができません。なんとか、互いの反発が小さくなるように集まるのですが、隙間の多い構造になってしまい、氷は液体の水よりも密度が小さくなるんです。ちなみに、水の密度が最も大きくなるのは4 ℃の時だそうです。
旅パート
北半球で流氷が見ることができる最南端
上の写真は知床で撮影したものです。北海道のオホーツク海沿岸は北半球で流氷が見ることができる最南端と言われています。
ロシアのアムール川河口でできた流氷の赤ちゃんは冷たい海流に乗って南下しながら、徐々に大きく成長していきます。その後、早いものは1月の下旬に日本に到達します。例年2月中旬~3月上旬観測のピークになるそうです。
もし、氷の密度が他の物質と同様に液体よりも大きかったならば、海底から凍っていくことになります。氷が海流に乗って日本まで流れ着くこともないでしょう。まさに流氷は固体が液体に浮くという水の特異な性質のおかげで見ることができる絶景と言えます。 しかし、近年は地球温暖化の影響のためか、流氷の量が少なくなったり、見ることができる期間が短くなってきているようです。いつもでも流氷がなくならないことを願ってやみません。地球温暖化の解決に貢献できるよう、私たち一人ひとりが今できることを頑張っていきたいですね!
流氷に下に潜る⁉
さて、せっかく知床まで来たのだから、流氷をただ見るだけではおもしろくないなと思っている方におススメのアクティビティがあります。知床ではダイビングのライセンスがあればなんと流氷の下を潜ることができるんです! もしかしたら、流氷の天使クリオネに会えるかもしれません。
ちなみに、僕らのグループが潜っている間にクリオネが現れてくれたんですよ! なのに、みんながカメラを構える中、僕は顔につけているマスクがずれてしまったためにマスク内に進入してきた海水を除去するのに悪戦苦闘していてクリオネちゃんのお顔は拝めませんでした。悔しい! いつかリベンジしたいです。
流氷の上を歩いてみよう
ダイビングの合間には流氷の上を散策できます。「流氷に乗っても沈まないのかな……」と不安になった方のために、今回のテーマからはそれますが、流氷に働く浮力の計算をしてみようと思います!
アルキメデスの原理というのを聞いたことがあるでしょうか? 簡単に説明すると、物体に働く浮力は、その物体が押しのけた液体の重量に等しくなります。0 ℃の氷の密度が0.917 g/cm3に対して海水の密度は1.03 g/cm3です。つまり、1 cm3の氷は1.03 gの海水を押し除けるので1.03 gfの浮力を受けます。氷の大きさが2 cm3、3 cm3と2倍、3倍になると、押し除ける海水の体積も2倍、3倍となります。それに伴って、浮力も2倍、3倍になるので、氷がどんなに大きくなっても水に沈むことがありません。
実際には流氷全体が海中にあるのではなく、一部が海面に出ています。これは海面下の流氷に働く浮力と流氷全体に働く重力が釣り合った状態になっているということです。
海面下の流氷に働く浮力 = 流氷全体に働く重力
海面下の流氷の体積 × 海水の密度 = 流氷全体の体積 × 氷の密度
海面下の流氷の体積 = 流氷全体の体積 × 氷の密度 ÷ 海水の密度
海面下の流氷の体積 = 流氷全体の体積 × 0.917 ÷ 1.03
海面下の流氷の体積 = 流氷全体の体積 × 0.890
上記計算から、流氷全体の体積の89%が海面下にあることになります。まさに氷山の一角! 流氷に人が乗る場合、海面に出ている11%の流氷が海面下に沈んだ場合に働く浮力よりも流氷に乗る人に働く重力が小さければ良いわけです。仮に60 kg(60000 g)の人が流氷に乗るとしてみます。
流氷に乗る人に働く重力 < 海面上の流氷が沈んだ場合に働く浮力
60000 < 海面上の流氷の体積 × 海水の密度
60000 < 海面上の流氷の体積 × 1.03
60000 ÷ 1.03 < 海面上の流氷の体積
約58252 < 海面上の流氷の体積
海面上の流氷の体積が58252 cm3よりも大きければ、乗っても大丈夫です。58252 cm3と言われてもピンと来ないと思うので、立方体に換算してみると一辺の長さが38.8 cmになります。一辺の大きさが40 cmのサイコロが海面に出ていれば、乗っても沈まないということですね!
北海道は夏の観光が人気ですが、寒い時期にあえて寒いところへ行くのもおもしろいと思いました。みなさまもぜひ流氷を見に冬の北海道を訪れてみてはいかがでしょうか? その時に、物質の三態について思い出していただけると嬉しいです。
参考文献
“なぜ融点や沸点は物質によって違うのか?”. sci-pursuit.com. 2023
https://sci-pursuit.com/chem/change_of_state-1.html
(参照:2023/4/18)
“物質の状態変化、三態について身近な例を用いてわかりやすく解説!”. Lab BRAINS. 2023
https://lab-brains.as-1.co.jp/enjoy-learn/2023/02/41766/
(参照:2023/4/18)
Nbita_60. “【高校化学】氷が水に浮く理由は?水素結合や密度を絡めて簡単に解説!”. 化学の偏差値が10アップするブログ. 2022
https://nobita-60-chemistry.hatenablog.com/entry/2022/01/25/213000
(参照:2023/4/18)
平野晃康. “第8回:水素結合と水の性質”. 医学部受験を決めたら私立・国立大学医学部に入ろう!ドットコム. 2016
https://www.sidaiigakubu.com/examination-measure/chemistry/08/
(参照:2023/4/18)
“【北海道】一生に一度は見たい!流氷の時期や見られる場所をご紹介【網走・紋別・知床】”. PREZO. 2023
https://prezo.jp/column/2094#header3
(参照:2023/4/17)
科学技術・学術審議会 資源調査分科会. “地球上の生命を育む水のすばらしさの更なる認識と新たな発見を目指して”. 文部科学省. 2002. https://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/gijyutu/gijyutu0/shiryo/attach/1331533.htm,
(参照:2023/4/17)
小林映章. “水の話 ~化学の鉄人小林映章が「水」を斬る!~”. コンクリート・プロダクツ・ネットワーク. 2001.
https://www.con-pro.net/readings/water/
(参照:2023/4/18)
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