「測定&見える化」で競技力は上がる!スポーツセンシング社の取り組み 〜特集:スポーツテック最前線①
全国の大学研究機関からプロ野球球団、さまざまな競技の代表チームなどが使うアプリケーションやセンサーの研究・企画・製造・販売を行う福岡のベンチャー企業、株式会社スポーツセンシング(以下、スポーツセンシング社)。
「あらゆるスポーツの競技力向上をお手伝いする」というミッションを掲げるが、具体的にはどういった形でスポーツの世界に貢献(contribute)しているのか。同社の代表である澤田泰輔さんに聞いた。
測ること、見える化すること
「スポーツの現場って、他分野に比べたらツール・サービスが全然足りないんです。身近な筋トレを例にあげても、いまだに“成果の見える化”ができていないですよね。努力してトレーニングをしているけれど、それが正しいのか、具体的にどれほどの成果が出て身に付いているかも分からない」
そうした状況をテクノロジーの力で解決しようとしているのが同社だ。
具体的な事例としてまず見せてもらったのが、スポーツセンシング社が製作している「DSP無線センサー」。
左からそれぞれ、心臓の電気・体の動き・筋肉の電気を測るセンサー
この小さなセンサーを体につけることで、体や筋肉の動きを測ることができるという。
「研究やトレーニングの際に、肌に直接テーピングなどで固定して使います。例えば、怪我の治療中に落ちてしまった筋肉をトレーニングで戻すリハビリ。患者さんは定期的にリハビリをするので、その都度計測することで筋肉量の変化を確認できます。まさにダイエットの時の体重計のようなイメージですね。
スポーツとリハビリの違いって、要は運動が激しいか激しくないかだけなので、スポーツのトレーニングの現場でも同じような考え方で活用しています」
これまでは続けていくことでしか効果を感じることができなかったリハビリやトレーニング。しかし、成果を正確に計測し、それを数値として見える化することができれば、モチベーションの向上にも繋がるというわけだ。
まず目指したのは大学での導入
さらに澤田さんは、競技力を向上させるためには、「計測→分析→フィードバック→トレーニング」のサイクルをより早く回す必要があると考えている。
「測って分析した内容を選手たちにフィードバックしてあげて、また次のトレーニングや試合をして……というサイクルをスムーズに回していくことで競技力は上がっていく。
これはごくごく当たり前のことではあるのですが、大体のスポーツやリバビリの現場ではよく分からないけれどやみくもにトレーニングし続ける、という状況も多いですね」
「計測→分析→フィードバック→トレーニング」のサイクルを回すためにもまずは測ることが重要だ。今でこそ計測機器などの導入が進んできてはいるが、それでもデータを記録することが当たり前と考える海外に比べ、日本にはまだ計測するという文化が根付いていない。なぜ日本ではまだ根付いていないのだろうか。その理由のひとつが「価格」だった。
「僕らがこのビジネスを始めた時、この無線センサーを手に入れるには海外から輸入するしかなくて、センサー1個が100万円とか、ものすごく高かったんです。
でも研究機器が高価だという理由でその分野の研究が進まないというのはおかしな話ですよね。弊社ではまず大学での導入が進むよう、経費として消耗品扱いになる10万円以下の価格を目標としました。
われわれの製品の中ではいまだに10万円を超える商品はほどんとなく、日本の中で大きな価格破壊はできたかなと思っています」
「効率的」ではなかったスポーツ界を変えていく
さらにスポーツセンシング社ではセンサー以外にさまざまなツールの開発をしている。
例えば、試合の映像に重ねて点数を表示することができる、テロッパーのアプリケーション。
従来使われてきたテレビ放送用の機材だと1競技で200〜300万円と高額な上、専門のオペレーターがいないと使いこなせなかったため、気軽に導入できるようなものではなかった。
「映像を撮って流すだけでは、今この瞬間に何点取っているかも、試合相手が誰なのかも、いつの映像なのかも分からない。
結果、せっかく撮った映像は活用されにくいものになり、活用されずに無駄になってしまっていることもしばしば。そういうことは減らしていかなければならないんです」
他にも映像を扱うアプリだけでも、印をつけた箇所からワンタッチ再生ができ、対戦相手の分析メモを残せる機能を持たせたものや、リアルタイムで撮った映像を指定した秒数分遅れて再生するものなど、スポーツの技術向上のために開発された製品を多く販売している。
「みんな上手くなりたい気持ちはあるのに、どういうものを使えばいいか、何があるのかさえ分からない。
今まで、スポーツ界には効率的という概念があんまりなかった分、テクノロジーでできることはまだまだたくさんあります」
指定した秒数分遅れて再生されることで、撮影の直後にフォームの確認ができるアプリ
センサーを「着る」!?
そんなスポーツセンシングが今、開発しているのが「着ることができるセンサー」だ。
冒頭で紹介したセンサーを選手が試合中に取り付けることを考えたときに、どうしても問題になるのは、その取り付け方法。小さいセンサーとはいえ、アスリートの体に付けたまま試合をすることは現実的ではない。
「センサーの装着の問題をクリアしようと思ったらもう着衣しかないんです。でも自分たちには衣料は作れないし、繊維技術は手に入らない。そこで、2018年に産業用の繊維素材・製品を展開する帝人フロンティア株式会社さんと一緒に合弁会社をつくらせていただきました」
現在、その第一弾として心拍数を測るウエアを開発中。着心地がよく、締め付けない素材で作られた心拍ウエアは、すでにさまざまな代表チームが着用を試しているという。
「衣類の繊維自体がセンサーの役割をするので、トレーニングや試合でも着られるようになります。
このように技術は進んでいくし、それを使いこなしてくれる人も増やさなきゃいけない。今はまだその段階に入ったばかりなので、本当に高度なトレーニングや指導の実現まで持っていくためにはもうひと努力必要かなと思っています」
日々記録が更新されるスポーツの世界。これからの選手の躍進の裏にはテクノロジーの力は欠かせないものになっていくだろう。
これからさらに盛り上がりを見せるスポーツ界の進化と、それを支えるスポーツセンシング の活躍に今後も目が離せない。