変わるスポーツ観戦と体験 〜特集:スポーツテック最前線③〜
スポーツ×テクノロジーの今を紹介してきた「特集:スポーツテック最前線」
前の記事「プロ野球のIT化を牽引する『ソフトバンクホークス』強さの裏側 」、「『測定&見える化』で競技力は上がる!スポーツセンシング社の取り組み」では、スポーツの第一線を支えるツールを作る現場や使われる場所に着目したが、スポーツ×テクノロジーはアスリートに向けられたものばかりではない。
多くの人がより身近にスポーツに触れるであろう「観戦」においても、最先端の技術は使われているのだ。
観戦において注目されているテクノロジーは大きく以下の3つがある。
・自宅でのスポーツ観戦を進化させたVR
・スタジアム観戦をより深めるAR
・スタジアム自体へのテクノロジーの導入
今回のこの記事では、「テクノロジーの力で変わるスポーツ観戦と体験」をこの3つに分けて紹介していく。
スタジアム観戦のような臨場感を自宅で味わえるVR
多くの人にとって、もっとも身近なスポーツとの接点となるであろう応援や観戦。スポーツ観戦といえば、実際に目の前で繰り広げられる試合の臨場感や熱気を感じながら楽しめるライブでの観戦が一番だ。とはいえ、現実的にはどんなに熱心なスポーツファンであっても観たい試合の全てに足を運ぶことは難しい。
そこで今期待されているのが、自宅にいながらもスタジアムで観戦しているような臨場感が味わえるVR観戦だ。
“VR(バーチャル・リアリティ)”とは「仮想現実」のことで、現実の空間とは全く違う場所にいるような体験ができる技術である。主にスマートグラスと呼ばれるゴーグルをかけて鑑賞するVR動画では、まるで映像の中の空間に入り込んだような新しい映像体験ができるのだ。
自宅にいながらにして迫力満点のスタジアムの気分が味わえるVRを使った観戦サービスは、すでにさまざまなスポーツで導入が開始されている。
参照:「これぞ5Gの楽しみ方!“没入感”満載のVRスポーツ観戦」
上記で紹介されているJリーグ観戦のサービスでは、VRの技術に加えピッチサイドの360度カメラ・全体を映す俯瞰カメラ・ゴール裏など、全8台のカメラから中継することで、シーンやゲーム展開に応じて自由に視点を切り替えながらの観戦が可能。
特にスタジアム全体でゲームが繰り広げられるサッカー観戦では、決まったアングルで観るテレビ中継とは全く違う体験ができるだろう。
参照:「VRでスポーツ観戦 ソフトバンクがスマホアプリ「LiVR」提供開始」
スマホアプリ「LiVR」では2019年に行われたプロ野球公式戦のうち、ヤフオクドームで開催される64試合全てをライブVR配信した。もうすでにVRは特別なものではなく、テレビで野球中継を観るのと同じような気軽さで楽しめる時代が来ていると言える。
現場までのアクセスやチケットの有無を気にすることなく、自宅にいながらも臨場感溢れる観戦ができるVR。もちろんサッカー・野球以外にも多くの競技で導入が進んでいる。さまざまな理由でスタジアムに足を運ぶことのできない人にとっても本格的なスポーツ観戦を楽しめるうれしいサービスだ。
ARで、ライブでのスポーツ観戦をより楽しむ
もちろん、スポーツ観戦の一番の醍醐味である、スタジアム観戦も進化している。
目の前で繰り広げられる選手たちの熱戦を目に焼き付け、周りのファンと共に声援を送るライブでのスポーツ観戦。テレビ中継ではこの感動や興奮は体験できないだろう。
だが、テレビ中継と比べたときのデメリットもある。席によっては重要なシーンが見られなかったり、遠くからの観戦だと試合の細やかな流れがわからなかったりする点だ。
そんな、スタジアム観戦と中継のいいとこ取りができるのが“AR(オーグメンテッド・リアリティ)”観戦。ARとは一般的に「拡張現実」と訳され、実在する風景にバーチャルの視覚情報を重ねて表示することで、目の前にある世界を“仮想的に拡張する”というもの。
要するに目の前で繰り広げられるプレーの上に今必要な情報を重ねて表示することができるのだ。ARの技術を使ったサービスはさまざまな会場で導入のための実験がされている。
参照:「サッカー日本代表戦をARで! スタジアム観戦の楽しみ方」
試合中のピッチに専用のタブレットをかざし操作すれば、リアルタイムで好きな視点からプレーを観ることができ、さらにボタン一つで選手の情報、スタッツ情報も見ることができるという。
参照:「熱気あふれる競技会場に、5GとARでリアルタイム情報を映し出す」
さまざまな競技場の取り組みの中でも、特に画期的なのは水泳競技会場への導入だ。
水の中に一旦入ってしまえば、誰がどこにいるかも、勝敗の行方もわかりにくい水泳競技。AR上では一目で勝負の行方がわかるので、観戦中のドキドキや盛り上がりも増すだろう。
こうした技術を導入するスタジアムが増えることで、「試合の見どころを何一つ見逃したくない!」という熱心なファンも、選手についての深い知識がないライトなファンもいままで以上にライブでのスポーツ観戦を楽しめるようになるはずだ。
スタジアム自体にもキャッシュレス化!
観戦だけではなく、スタジアム自体の仕組みにもテクノロジーの力は応用されている。
参照:「パナソニックとぴあ、チケット電子化でキャッシュレス決済などのスマートスタジアム実証実験」
チケットの電子化は、紙や印刷のコストダウンはもちろん、ゴミの削減や偽造防止の効果もある。入場時のチケット確認も機械化し、その分のスタッフを持ち物の検査などに回すことで安全面の強化にもつながるだろう。
観客の視点から考えても、発券の手間や手数料をカットできることや、会場まで到着したところで家にチケットを置いてきたことに気づく、といった残念なミスをする可能性が減るというのは大きなメリットだ。
ほかにも同時にチケットを取ったが別々に会場に向かう仲間に本人分のチケットを配分できる機能や、スタジアムの案内画面にチケットをかざすと座席が表示されるサービスも開始されている。
会場での悩みを電子チケットだからこそできる方法で解決すれば、スタジアム観戦はより無駄なく快適に、安心して楽しめるようになるに違いない。
盛り上がりを見せるe-Sportsやテクノスポーツ
今回取り上げる「観戦」ではないものの、ここで紹介しておきたいのが、近年のe-Sportsの盛り上がりだ。
e-Sportsとは、複数のプレイヤーで対戦されるコンピュータゲームをスポーツ・競技として捉えた名称。
参照:「今さら聞けない『eスポーツとは何か』? ゲームがオリンピック種目になり得るワケ」
国内では遊びや娯楽の一種として捕らえられ、スポーツとは遠い存在と思われがちなゲームだが、欧米をはじめ海外ではれっきとしたスポーツとして盛り上がっている。
さらにもう一つ注目したいのが、「テクノスポーツ」だ。
e-Sportsと混同されがちだがこちらは実際のスポーツにおけるボールや器具がAR画面上の架空のものに置き換わるようなイメージ。
上記のサイトから見ることのできる動画で繰り広げられる試合は、まるでSF映画のCGのよう。漫画や映画の世界で見ていたような勝負はもうすでに現実となっているのだ。
こうしたテクノロジーの力は、従来のスポーツのイメージをも覆すような新しいジャンルを生み出している。スポーツの幅を広げることで、今までスポーツに興味がなかった人をも巻き込み、これからも進化を続けていくだろう。
テクノロジーで生み出される、プレイや観戦の新しい形
もちろん紹介したものはほんの一部でしかないが、テクノロジーはスポーツというジャンルだけでもこれだけさまざまな用途で使われている。
実用化に向けて準備が進められている新時代移動通信の5Gが普及すれば、VRやARをより簡単に扱うことができるようになり、これからのスポーツ体験やスポーツ観戦は大きく変わることが予想される。
2020年はスポーツに触れ合うチャンスが増え、今回紹介したような新しい技術を身近に感じられる機会も多くなるはずだ。これからも、選手の活躍や観戦を支えているテクノロジーの進化に注目したい。