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【デュエプレ】シンプル故の美しさ
はじめに
シンプルに書かれたテキストならではの美しさを持つカード達がある。一目で能力の概要と強さが伝わるテキストには、力強く生々しい魅力があるものだ。
一方で、複雑な制約だったりダラダラとした補足能力が加えられたカードは、カードパワー調整の跡が見えすぎることで人工的な印象を与えることもある。
ゲームのインフレに従ってカードのテキストも複雑難解になっていく傾向がある中で、改めて「シンプル故の美しさ」を評価したい。
もちろん実際は、シンプルなカードであっても緻密に調整が施されているのだろうが、その痕跡を感じさせないからこそ美しいのだ。
※本記事で美しいとか美しくないとか述べているものは全て、筆者の極めて主観的な感性によるものである。
シンプルさが際立つカード達
シンプル故の美しさを放つカードは沢山あるが、特にそれが際立つと筆者が思うカードを4枚ほどピックアップして紹介する。
当たり前だが、ゲームの初期プールにはシンプルなカードが多い。具体的には、6弾(転生編に相当)あたりまではコモン~スーパーレアを通してかなりシンプルなものが殆どを占める印象だ。
しかし、本記事は「昔は良かった」みたいなことを主題にする気はない。どちらかというと、時代が進んでカードの平均的な複雑化が進んでいった中から光るものをピックアップしていこうと思う。
シンプルなカード① シータ・トゥレイト
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このカードのテキストは特別短くはないが、「突然変異的に発生し、サバイバー能力を浸食・拡散させる」「味方からだけでなく大地からもサバイバー能力を吸収して成長する」という世界観を感じさせる能力をシンプルにまとめあげている。
「すべて」という言葉を大胆に使いながら、余分な要素でカードパワーを細かく調整した痕跡が全くないのが気持ちいい。もしこれに「召喚時に山札からサバイバーを探索してマナに置く」とか「マナにサバイバーが3枚以上あれば」みたいな調整テキストが加わった瞬間にこのカードの美しさは崩壊する。
さらにシールドトリガーという、コストによるカードパワー調整を無意味なものにしかねない能力がついている。普通、雑な効果条件と範囲を持ち、コストによる調整も効かないカードは強すぎるか弱すぎるかのどちらかになりそうなものだが、このカードは当時の環境中でAランク程度の丁度良い強さに収まっていた。この点も含めて、曲芸のような美しさを感じる。
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実際には、同時収録されるサバイバーのレパートリーによってこのカードの強さは細かく調整されていたと言える。周辺パーツに調整を全面的に委ねることで本体の美しさを残した、開発陣のセンスが垣間見える。
シンプルなカード② 悪魔神王バルカディアス
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闇以外をすべて破壊するバロムと、光以外の呪文を封じるアルカディアスが合体したらどうなる?
→闇も光も全部ぶっ壊すし、闇も光も全部封じる!!
これほどまでに、一目で能力のコンセプトと強力さが伝わるカードはない。
バロムとアルカディアスの時代に遊んでいたがしばらくゲームから離れていたプレイヤーが、気まぐれにパックを購入し、このカードが出てきたら飛び上がって興奮するだろう。これが同じ時期の他のSRだったら「当たったのは嬉しいけど、これ強いの?何書いてるかよくわからん」となりかねない。
このカードは超次元呪文全盛期(呪文封じが刺さる時期)に、時空の不滅ギャラクシーという好相性のカードと同時収録されたことで当時環境で大活躍していた。しかし環境とか関係なく、この全体除去+呪文封じというわかりやすく強力な能力は、常に出せば勝ちそうなオーラを放っている。
とにかく、デュエプレを全然追っていなくとも、このカードには誰もが見とれてしまうだろう。
シンプルなカード③ 神聖麒 シューゲイザー
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これもバルカディアスと同様に、直近のデュエプレを追っていようがなかろうが、一目見ただけで「何か起こせそう」という予感を呼び起こすカードだ。無色によるデッキ構築制限の緩さ(実際は無色だからこその構築の窮屈さはあるのだが)、コスト5以下という驚くべき効果範囲の広さ、そして文字のデカさと読みやすさ。
初めてこのカードを視界に入れた刹那10秒後には、いくつかの出し先候補が頭の中に渦巻き始めるだろう。とりあえず当時のプレイヤーであればヨーデルワイスやチャーマジュン。昔のプレイヤーであればスカイソードや汽車男を思い浮かべるだろうか。
筆者も、このカードの初見時のインパクトは忘れられない。それがミッドレンジビートなのかコントロールなのかも予想できないが、とにかく何かとんでもないデッキが生み出されるポテンシャルを感じ、大いに興奮したものだ。
(後に、サインシュゲという激強デッキがプレイヤーの手で発見された。タカラトミーの松浦さん曰くそのデッキは開発陣の事前想定内だったらしいというのを誰かから聞いたが。あくまで伝聞の伝聞である。)
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シンプルなカード④ 轟く侵略 レッドゾーン
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このカードのシンプルさが際立つ理由には、自身のテキスト量の少なさもさることながら、時代背景が大きく関係している。
このカードが登場する前は、しばらくドラグハートというギミックがプッシュされていた。そしてそのドラグハートは、はっきり言って異常に難解なものだった。
「出たときに何か起こるか」・「装備してるだけ/場にあるだけで何か起こるか」・「クリーチャーの攻撃時に何か起こるか」・「その攻撃クリーチャーの条件は何か」・「龍解の条件は何か」・「龍解のタイミングはいつか」などを全て把握していないと使いこなせず、ターン中のアクション回数も多く、とにかくゲームを極端に複雑なものにしていた。
そんな中で新しく登場した「侵略」ギミックの筆頭として、レッドゾーンは誕生した。手札に特定のカードセットが揃っていればそれを投げつけるだけでゲームが進行するという性質は、それまで複雑化していたゲーム性を一気にシンプルなものに塗り替えた。自身の能力も「早期に出せるトリプルブレイカー」「出た時に障害物を吹っ飛ばす」という単純明快なものである。
侵略ギミックおよびレッドゾーンは、難解なゲームについていけず辟易としていた多くのプレイヤーをそのシンプルさによって救済したのだと思う。歴史上語らずにはいられない「シンプルなカード」である。
(おまけ)惜しいカード達
概ねシンプルだが、余計なテキストがついているせいで美しさを損なっている…と歯がゆくなるカードがある。いくつか簡単に紹介したい。
惜しいカード① ボルメテウス・サファイア・ドラゴン
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パワーアタッカーが余計。素でパワー12000とかなら見栄えが完璧だった。
先出しに対して後出しが上から踏めるための調整とか、攻撃時14000でちょうどボルメテウスホワイトドラゴンの2倍になるとか理由はわからなくもないが、SA・TB・焼却の3つだけが列挙されている方が力強さがあっただろう。
でも多分、パワーアタッカーがついているフレーバー上の理由に納得できた時、自分の中のこの違和感は消えると思う。
惜しいカード② 暴走龍 5000GT
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そのサイキックメタは何?「仲間の死を怒りに変え、暴走して弱き存在を消滅させる」という時代に捕らわれないイカしたフレーバー性と、それを過不足なく表現していたであろうテキストが、ついでにねじ込まれた必然性のないサイキックメタによって台無しである。
例えばもしこれがサムライ最強の時期だったら、クロスギアを破壊・封殺する効果として登場していただろう。たまたま環境でサイキックが強い時期に生まれたからこういう調整になっているのだ。
環境バランスがそれで良くなるのは結構だが、カード単体の美しさとしてはやはり5000以下だけを対象にしていてほしかった。
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以上