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やっぱり、旅が必要

 日常をはずれて時々へんなことをしたがるのは、ほんのささいな毒のせいかもしれない。あるいはそれを人間らしさと呼ぶのかもしれないけど――ちいさなテントを和室に張り、カンテラを灯した。だって仕方ない、キャンプに行けなかったのだから。

 雨に閉じ込められる週末だった。耳を澄ませば、潮騒の音に聞こえる(ということにする)。本棚から一冊を選べず、あれもこれもつまみ読みする。バスチアン少年は自分だけの本に出会って、『はてしない物語』を旅した。これは私のことだと感じる本は、大人になるとふえたり、減ったりしている。

 ホットサンドイッチをつくる。ぎゅっとプレスして焦げ目をつけたパンの中から、あつあつのチーズがとろけるのがおいしい。材料はスーパーで揃えてあるけど、海辺の隠れ家だから「これだけしかない」設定。ハムは三枚にしよう。五枚だとちょっと、多いかな。

 ガスコンロの火に四角いフライパンをくべると、さびれた波止の湿っぽい風が、頬をなでていくような気がした。ホットサンドは最初3分、裏返して2分くらい。蓋を開けて、様子をみながら焼き上げていく。パンがきつね色に焦げる時は、ほんといい香りがする。「さむい」とかなんとか言いながら食べる朝食が恋しい。

 旅行中の妹から電話があった。
 ホットサンドつくってみた、と言うと妹はすぐに察している。
「何をしてるの?」
「家でキャンプを」
「そうきたか」と、妹は笑った。

 さて、ホットサンドメーカーを片付けてテントを畳むと、どこかでスイッチがパチンと切替わって、季節が変わったような感じがした。今年初めてのニットに袖を通して、パソコンの前に座る。和室…じゃなくて港で一晩を過ごしたから、上のほうの背骨がポキポキと鳴る。

 ほんの微量の毒が私たちを加速させる。「自分を変えろ」と、手垢のついた言葉をポストイットに書いて、パソコンに貼ってみたってなんにも変わらないことを私たちは知っている。私たちを変えるのは自分の中に入れた不良だ。外が雨でも、おもしろい遊びをする旅人。

 どんな旅だって旅は旅で、人生にはやっぱり、旅が必要。それと、とっておきの一冊さえあれば、人生の地図はどこまでも広がってゆくのだと思う。「本って、閉じてある時、どうなっているんだろうな?」バスチアン少年はそんなことを言ってたっけ。私たちも自分自身の本を持ってる。だから毎日開こう。

 そして、次は、ほんとうの旅に出ようっと。



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 いつも読んで下さってありがとうございます:)旅に出たい、と思いすぎなのかもしれないです。スーツケースを、なんとなく出しているし。


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西平麻依
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