オーバーヒートと甘い夜
読んだり書いたり考え事をしたりしている時、いつも意識の中に「大人になる」ことへの恐れがあって、文章ににじみ出ているから、ひやひやしてしまう。
年齢的にはもうれっきとした大人なのに、まだ逃げられると思っているなんてと人には笑われそうだけれど。それに、大人って、逃げた先で捕まってなるものではない。
なりたかった大人になったような気がしない、なんて私は子どもっぽくつぶやいてしまうけれど、私はなにを怖がっているんだろう。責任を担うこと? 変容すること? 色褪せること?
20歳以上を大人とする。あるいは新しいスタイルで30歳成人式。以上。そんなふうに割り切ってしまえば引っ掛かりのないことを、納得できるまでぐるぐると考えてしまうのが私のめんどうくさいところだ。(そういうところ!)
「大人になる」という処理は、私の中で、何年、何十年、何百年遅れでゴトゴトと走っている。つっかえながら、時には死んだように止まりながら、あるいは、ありえないスピードを出そうとして、オーバーヒートしながら。
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誰かと会う予定もない金曜日の夜、ブックカフェに行く。おしゃべりの花が咲いたテーブルに囲まれて、ひとりでソファに沈んでいる。まわりをぐるりと見回して、私はたった今誰からも束縛されていない、自由な存在だと満足する。それから同時に、
「さみしい」。
と感じ入る。
夜は窓ガラスのすぐ向こう側に迫っていて、ヘッドライトから垂れた光が水に溶けるように流れていく。さみしさをみんなどうやって扱っているんだろうと、私はふしぎに思う。そしてこの空間と時間がとてつもなく愛おしくなる。
ぬるいコーヒーも本がエンディングに到達していないことも、たえまない人の気配も全身でしがみつきたくなるくらい愛しい。誰かの落としたマフィンのくずが、発せられなかった言葉みたいに床にちらばっている。
ピー、ギー、バックグラウンドで、大人の処理にまたエラーが発生中。
都会とも荒野ともつかない夜、人の背中から背中へ飛び移るように駅をめざす。甘く身勝手な、アンビバレントな感情を持て余したまま。みんな、どうして大人になるのが怖くないんだろう。あるいは、大人になったふりが上手だ。
頭の中はエラーでぐちゃぐちゃ、けれど明日は赤いネイルをぬろう。
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3月9日発売『でも、ふりかえれば甘ったるく』の裏表紙が公開されました!か、かわいい。イラストはニュージュゴンのeryさんによるもの。
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HPには、すこし長めの文章を書いていますので、よければこちらもどうぞ。ちょっとだけ私の甘い夜に、つきあってもいいなという気分であればぜひ。