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「新感染半島 ファイナル・ステージ」感想

2021年公開

監督:ヨン・サンホ(新感染ファイナル・エクスプレス)

時間:1時間56分


1,あらすじ

感染爆発が半島を崩壊させてから4年後、家族を守れなかった元軍人のジョンソクは、亡命先の香港で廃人のような暮らしを送っていた。そんな彼のもとに、ロックダウンされた半島に戻り、大金を積んだトラックを見つけ、3日以内に帰還するという仕事が舞い込む。だが、潜入に成功したジョンソクのチームを待っていたのは、さらに増殖した感染者たちと、この世の地獄を楽しむ狂気の民兵集団631部隊。両者に追い詰められたジョンソクを助けてくれたのは、母ミンジョンと二人の娘の家族だった。大金を奪えばこの国を出られるという最後の希望にかけて、手を結ぶことにした彼らの決死の作戦とは──?

引用:新感染半島ファイナル・ステージ公式


2,感想(ネタバレ全開注意)



良くも悪くも他のゾンビ映画で見たことがあるような展開が多かった。


自己犠牲や主人公の成長というのは前作「新感染ファイナル・エクスプレス」でも見られた展開である。この部分に関しては特別、新たに作品を作る意味は感じ取れなった。


また、大金をめぐる戦い、631部隊のいかれたサバイバルや妨害行為、地獄からの解放のために自己中心的な行動をとるソ大尉、手柄を横取りするならず者グループ、地獄の中なんとか暮らしを続けるミンジョンの家族など、ゾンビサバイバル映画でありながら、どこかゾンビサバイバルが脇役になってしまっているように感じられた。


前作を見た観賞者が気になっていた「その後の半島はどうなっていたのか?」に対するアンサーも、重要な部分は冒頭20分くらいで「崩壊しました」で終わっていることから弱くなってしまっているように思った。


このように、ツッコミどころが多々見られた作品だが、そんな中でも前作との違いがみられ、全体としては新しく作品を作った意味がなんとなくではありながら見いだせた。


前作から4年後という設定から時間軸は共有しているがが、まず前提として、本作は続編ではなく、「新感染」の名を借りて世界観を共にした全く別の作品であることに留意されたい。


前作から4年後という設定をパラレルワールド風にとらえても面白いだろう。


(この例えでどれくらいの人が納得するかについてはわからないが)、ディズニーで例えると「カーズ」から「プレーンズ」を作った感覚に近い。


空間的に言えば、前作は新幹線や駅構内、列車というような「狭い空間」での戦いをメインに置き、一直線でありゾンビの切迫を妨害するものがないコースで展開される「鬼ごっこ」。ゾンビの足の速さと乗り物の速さ双方のスピード感を狭い空間で演出し、また、そこからさらに閉じ込められたという深刻な状況とゾンビに捕まったら終わりという緊迫感を足して、スクリーンが観賞者と作品を隔ててさえいなければ眼前でゾンビサバイバルが繰り広げられているかのような臨場感が演出されていた。


そんな前作に対し今作は封鎖された半島全体、非常に広い空間でのゾンビサバイバルを主としている。制作陣が空間の特性をしっかり把握していたのだろう、今作の一番のみどころはクライマックスのカーアクションではないだろうか。


ジョンソクのグループ、631部隊、ゾンビの三つ巴で繰り広げる逃走・追跡/アクション劇。立地や条件を活かしながら華麗かつ荒々しいドライビングスキルで敵を振り切っていくシーンは疾走感や爽快感が満載だった。(この後、若干胸糞シーンが入るのでこの感情はすぐになくなるのだが…)


主人公についても明確に違いが出されており、前作が一般人に対して今作は元軍人、ゾンビに対抗する武器とスキルを持ち合わせたとても強いキャラクターである。ここでの大きな違いは、前作は情報不足やデマなど、全体像を把握しきれず、自らの不安を消すという心情が勝って混乱してしまうミクロな視点からゾンビサバイバルを描いた。

本作は軍人、第一線で戦い、救助する立場であった者のストーリーが描かれる。


冒頭のシーン、車は定員いっぱい、そのような状況でミンジョンの家族を助ければ車が急激にスピードを落としてしまったり、故障したりして全員ゾンビに倒されていたかもしれない。

船の中で、子どもと姉を置いて、チョルミンを引き留めていなければ全員死んでいたかもしれない。


ジョンソクがとった行動は私から見ると合理的で正しい選択のように思われる。


それから4年後を舞台とした本作のメインストーリーでこの究極の決断に対して出た答えは「常識がなんだ、まずは理想をもとめて努力しろ」

わかりやすくいえば、「一人しか助けられないなら二人助かるように全力を尽くせ」という動機論に落ち着いた。


物語的にはミンジョンの家族が全員助かったハッピーエンドだったが、このメッセージだと「努力すれば共に沈んでもよい」というようにも思われる。


深読みのしすぎかもしれないが、過剰な動機論の正当化は時に危険思想になりうるのではないか。主人公が軍人という設定も、そのメッセージを美化するためのようにも見えてならない。動機論と結果論について、本作に感じた違和感から考えるきっかけをもらった。


ここまで、前作と今作の違いをテーマにして感想を記してきた。


最後に、本作の物語展開、設定面での一番の見どころは冒頭であると私は考える。


この部分のみ、本作を前作の続編という立ち位置に区分して感じたことをまとめる。前作で、多くの人が命を犠牲にしたことで救われたスワンとソンギョン。本作での登場はないが、冒頭で前作で安全地と信じられていたプサンが実は安全ではなかったことが明かされる。


本作自体の感想ではないのかもしれないし、真実は不明だが、私はこのセリフからスワンとソンギョンは「死亡した」とジャッジし、時にはどうにもならない時がある。社会や運命に理不尽を付きつけられることもある。


少しだが、このコロナ禍に通ずるものがあり、このタイミングで劇場公開した意義のようにも感じた。

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