
イネイブラーとペイオフ②
Magic: The Gatheringに熱中していた頃の文章です。
――――――――――――――――――――――――――――
"前回の記事からだいぶ時間が経ってしまったんだけど、完結させないのも心残りなので、続き。
前回の記事では
enabler イネイブラー:payoffに辿り着く手段
payoff ペイオフ:結果的に得られる有利な状況やプレイされる強力なカード
のこと。
と定義しておいて、具体例に緑トロンを出した。
トロンランドがイネイブラーで、カーンとかワムコとかがペイオフ。
分かりやすくするためにトロンを具体例に出したが、あの時一番念頭にあったのはイゼットフェニックス。ちょうど全盛期だった(今も十分強いけど)。
イゼフェニを倒すにはどうすればいいのか。考えているうちにイネイブラーとペイオフという言葉に出会って、この二つの概念がこのデッキを分析するのにちょうど良いのでは、と思って記事を立ち上げるに至った。
では、イゼフェニにこの二つの概念を適用するとどうなるか。
イネイブラー:大量の1マナスペル、特に《信仰無き物あさり》
ペイオフ:《弧光のフェニックス》、《氷の中の存在》
イゼフェニがトーナメントを支配して「いよいよ物あさりが禁止か」と言われていた時に、環境の他のデッキがどうやってイゼフェニを倒そうとしていたか。
対策の仕方は二つの概念に従って二方向あった。
イネイブラーを対策=スペル封じ:《虚空の杯》/《減衰球》/《スレイベンの守護者、サリア》etc
ペイオフを対策=各種墓地対策、除去:《虚空の力線》/《安らかなる眠り》/《外科的摘出》/《流刑への道》etc
青白コンのメインデッキに《外科的摘出》が入り始めたのはこの頃からじゃなかったろうか(記憶違いだったらごめんなさい)。同時に、メインデッキの《スレイベンの守護者、サリア》を3枚から4枚に増量した5色人間のリストが増えた。
5色人間の場合は、既にしてメインデッキに対策カードとも言える《スレイベンの守護者、サリア》が入っていたから、そこまで極端に悪いとは言えない。ちゃんとプレイすればきちんと勝ち筋はある。
ただし、人によってサイドから追加するカードにばらつきがあった。
サイドから《虚空の杯》を入れる人もいれば、《先頭に立つもの、アナフェンザ》を追加する人もいた。《外科的摘出》で《弧光のフェニックス》を抜き去ろうとした人も。
しかし友達と練習したり大会で当たるなかで、負け筋として一番多かったのは《氷の中の存在》を裏返されてどうにも出来ずに負け、というものだった。《弧光のフェニックス》が複数体、早いターンに出てきて負け、というパターンもなくはなかったが、その頻度は高くなく、たいてい問題は《氷の中の存在》だった。
だから、これに対処するために、僕は《四肢切断》をサイドに増やしたり、最終的にはメインに積んでみたりした(意外とうまくいった)。
これはさっきの話でいくと、イネイブラーではなくて《氷の中の存在》というペイオフへの攻撃に当たる。結局、5色人間なら、《スレイベンの守護者、サリア》があるものの、それだけでは足りず、《四肢切断》というもう一方向からのアプローチが必要だった、ということだ。
ここから帰納するに、もし何か対策したいデッキがあって、そのデッキがこの二つの概念で上手く分析できそうなら、自分のデッキで相対するときに、イネイブラー/ペイオフのどちらを攻撃すれば勝ちにつながりやすいかを考えれば、サイドボーディングや調整のヒントになると言えるかもしれない。ここまでが、結論その1。
さらに言うなら、イネイブラー/ペイオフへの攻撃が、自然に自分のデッキにフィットするものかどうかも重要かもしれない。要するに、対策カードを無理なくデッキに組み込めるかどうか。
イゼフェニ全盛期の頃に、グリクシスシャドウが増えたことを覚えているだろうか。グリシャは自然にイゼフェニ対策をデッキの中に組み込めるデッキだったことが大きいと言えるからだと僕は思う。
このデッキがイゼフェニ対策として取っていたのは、主に《致命的な一押し》と《外科的摘出》だ。《致命的な一押し》は簡単に《氷の中の存在》に対処することができたし、《外科的摘出》はファイレクシアマナで唱えることで自分のライフを削って後続の《死の影》を出しやすくしながら《弧光のフェニックス》を抜き去ることができた。どちらもシャドウのデッキを歪めることなく積めた。それが、この頃シャドウがたくさん出てきた理由だったんじゃないかと思う。
こういうふうに、対策がデッキに自然となじむようなものでないと、元々のデッキのやりたいことを阻害しかねないし、サイド後にデッキが弱くなる、なんてことも起こってしまいそうだ。それは避けたい。こういう場合はどうしたらいいだろう。
イネイブラー/ペイオフなぞ関係なく、無視する。か、相手を減速させるに留めて、あくまで自分のデッキの勝ち手段を貫き通す。速度勝ちする、とか、そういうことになりそうだ。もしくは、自分もそのデッキを使ってしまう、とか。
イゼフェニ全盛期から話は変わって、今で言うとDeck to beatというと、間違いなく《甦る死滅都市、ホガーク》を使ったデッキだろうが、このデッキはどうだろう。イネイブラー/ペイオフで分析できるだろうか。
結論、できる。間違いなく。……見たまんまイネイブラー/ペイオフ構造を持ってるし。
イネイブラー=墓地肥やし:《信仰無き物あさり》/《縫い師への供給者》/《サテュロスの道探し》etc
ペイオフ=《甦る死滅都市、ホガーク》/《復讐蔦》
ではどこを攻撃すべきだろうか。
7月26日~28日にMythic ChampionshipⅣが開催されたが、多くのプレイヤーは(おそらく)イネイブラーを攻撃することにしたようだった。
『2019ミシックチャンピオンシップⅣ(バルセロナ) 初日メタゲームブレイクダウン』
(https://mtg-jp.com/coverage/2019MC4/article/0032734/)
《虚空の力線》、総採用枚数、なんと836枚……。メイン採用73枚ってマジ……?
《虚空の力線》を、デッキを歪めることなく採用することはほぼ不可能だ。
歪めることなく、というのは、つまり、《虚空の力線》をデッキのプランに沿うものとして採用するのは無理だってこと。
「~のデッキなら、後引きした分は《信仰無き物あさり》で捨てられる」という人もいる。しかし、言い換えればそれは「《信仰無き物あさり》で捨てないと、後引きした分は邪魔だ」ということ。要するに、デッキがメインに据えてることには関係ない。
《虚空の力線》がメインに据えてることの邪魔になろうと知ったこっちゃない。相手のホガークを弱体化させられればそれでよい、というわけだ。それほど強いデッキだということ。
ペイオフを攻撃するにも無理がある、ということだったのだろうか。
ここまでくると、相手のイネイブラー/ペイオフに干渉しに行くのではなしに、自分のデッキのプランを遂行すれば勝てるようなデッキを選ぶべきなのかもしれない。もしくはホガークを使うか。これが結論2。
「もし近いうちに大事なモダンのイベントがあるなら、僕のアドバイスは、君自身でホガークを使うか、ホガークに元々強い戦略を選ぶようにしよう、ということだ」(Reid Duke)
『Why I Played Hogaak Instead of Jund at Mythic Championship IV』
(https://www.channelfireball.com/articles/why-i-played-hogaak-instead-of-jund-at-mythic-championship-iv/)
禁止見え見えのデッキ、今から組むのもねぇ……。"
2019/8/6