作家がハラスメントにあっても仕事を続ける方法


妙な騒ぎになったら消すかもしれません。
同業者やフリーランス、クリエイター、出版界、世の働く全ての人、熱狂しやすい人にこんなこともあるんだなあと知ってほしいだけなので。


作家人生の中で一度だけハラスメントにあって仕事がぽしゃったことがある。

誤解してほしくないので、始めに書いておくけど、自分はその出版社から一度も本を出したことがないし、生涯出せなくなった。それはここにちゃんと書いておく。勝手にあの人じゃないか?みたいなことはやめてね。
基本編集者は、ハラスメントにすごく敏感になっている時代で、それぞれみなさん苦労しているので、行き過ぎた受け取り方もしないでほしい。

自分はその件をどうしてあまり人に話せなかったのが最近よくわかってきた。

まずはこの件で一つ負い目がある。絵師さんを巻き込んでしまったからだ。はやくわたしが降りればよかったのに、ここまで書いた以上は本にしたいという気持ちで、なかなか踏ん切りがつかなかった。いまだに申し訳ない気持ちでいっぱいだ。

さらにその会社や先方と仕事をしている人をまきこんでしまうんじゃないかという恐れもあった。
そうなると同業者の友人を失ってしまう。

それとこういうことを書いたり話したりすると面倒くさい人と思われて仕事が来なくなる可能性がある。だから泣き寝入りが多いってことがよくわかった。

あと、一人で苦しみすぎて完全に頭の中がおかしな方向に進んでいた。
だれかに話してもわかってもらえないとか、責められるとか、かなりまずい発想になっていた。
今だから、わかる。
自分で自分を責め続けていた。もうそれに疲れ切った。

そして、なんといっても、先方に恨まれたら怖かった。だれかに話そうとすると、何かされるんじゃないかとおかしな想像をしてしまうのは当時をふりかえれば仕方がないことだ。

でもでもでも、一番デカいのは著書の熱狂的ファンが担当編集者になったことからことがはじまり、まるでわたしを支えてくれた「お願い!フェアリー」シリーズが、突然、自分を攻撃しにきたみたいな苦しみがあり、もう本当に苦しみもだえていたことだ。
ヘンな例えだが、この数年間、特に問題も事件を起こさず生きて来た自分を自分でほめたいぐらいだ。

事と次第を簡単に説明すると、ある編集者から依頼が来た。
自分の作品をすごくよく読んでいてくれて始めは助かるなー協力しあってがんばろーえいえいおーとやりとりをしていたが、何回目かの打ち合わせの時に妙なことを語りだした。

「自分の奥さんは自分が彼女の論文を直して認められたから今があるんですよ。なのに自分になんの感謝もしていない」

それはわたしの作品を手直しできるという意味なのかどうなのかはぜんぜんわからないけど、用心しないといけない人物だと気づいた。
ちょうどそのころわたしはデビューから続けていたロングシリーズが終わり、新しい場所を開拓しないとこれから先きびしいなと感じていた。
あまり細かいことを気にしていても仕方がない。
打ち合わせだと雑談が入ることもあるから、メールでやりとりしようと気持ちを切り替えた。
本当は、ここでやめようと別の方向に切り替えるべきだったが、後悔なんて何の役にも立たない。

そして、そこから、メールや季節のご挨拶はがきにおかしな数行が書かれるようになった。
先方としては励ましや応援のつもりのようだが、今の時代全部アウトなものである。
「いつでもうかがいます」にはおそれいった。
わたしの持病をきずかっているいい編集者気取りなのが不気味だった。
とうとう、原稿に赤字で「死にたい」と入って来た。
主人公が思いつめている描写があるのだが「死にたい」と入れろって意味だろう。
児童書の編集者でそんな指摘をする人はまずいない。
その四文字を入れずに近い状態にあることをわからせ、そのあとの救いを書くのが小説だ。

メールで簡単に今までのことを注意した。
するとものすごく長いメールが返された。
謝罪とあなたの作品のファンだということ、そして最後に「別の会社に持っていってもいい」だった。
作家の苦労を何も知らず、ただ、ただ、会社にバレるのをさけたいようだった。
同時に、おそらく、この人の人生はこの繰り返しなんじゃないかと思えた。
自分がよかれと思ったことがだれかを苦しめているだけで、そのたびにだれかに泣きついてやりすごしている。

わたしは悩みに悩んだ。
原稿はほぼできて、イラストレーターさんも決まっている。
ラフも発注したようだ。
そして先方は根本的なところは変わらないだろうが当分は静かにしているだろう。
だったら、とりあえず、一冊形にしてみて、そこで区切りをつけたくなった。
まあ、これも自分の判断ミスだ。

そして、だんだん、むこうからの連絡がいい加減になってきた。時間が経ったころに原稿についてのなおしのメールが来た。
急に軽々しい文体で、「まあ、イケメンは~モテる男は~」と急に自分はいかにもかっこいい人を気取ってきた。
その瞬間、よくわからないが、背中に力が入らなくなった。

で、同業者に相談して編集長に電話した。
編集長はわたしの話にだんだん、暗くなっていった。
数日後、折り返しの電話があって、
「自分の会社はせまい所帯で編集者の数も少ないので、変わりはいないので出版はできない。ただ多少の原稿料ははらいます。申し訳ないです。本人からは二度と連絡、接近ははしないよう注意しました」
そして最後にこういった。
「なんで、こんな悲しいことが起きたんでしょうね?」

こっちが聞きたいし、そんなせまい所帯なら、部下の管理をしてほしかった。
あとから聞いた話だが、その人は最近入社したらしく、社内でその人がどういう人なのかなだれもわかっていない。
わかっていないのに、好きに行動させていたらしい。
そして、おそらくだが、編集長に泣きついたのが見えた。
なんでも泣きつけば許されるんだろうな。

世間では評判がいい編集長でも、ハラスメント対応なんて何もできてないなってことがわかった。自分がまともな人ほど、ハラスメントがわかっていない。

思い出したくもないので、封印していた。

だが、最近、年月が経ったからか同業者数人に愚痴った。みんなとても自分に温かかった。
そしてハッとさせられた。

わたしが周囲に話さないと、第二第三のつらい思いをする作家が出てくるかもしれない。

そう気づいたらだいぶ吹っ切れた。

この数年、自分を責めすぎて視野がせまくなっていた。

最近読んだ吉本ばななさんの著者にこう書かれていた。
「被害者になるのは簡単だ」

被害を認めるのはとてもつらいことだが、認めたあとに、前を進もうと思ったら、自分と周囲をきちんと見渡さないといけない。

追伸。ここから先は、この記事を発表したあとに補足。

書くかどうか迷っていたが、編集長から電話がかかってきてから数か月後。
時々このことを愚痴らせてもらっていた友人が言った。
「その困った編集者のSNSを見たら、あなたに不気味な文章を送っている間、奥さん妊娠中だったみたい。ゾッとした。そんな人と本を一冊でも出したらどうなったかわからないよ」

もはやホラーでしかない……。

このことは結局、編集長が作家と編集者から言い分を聞いただけで第三者はだれもいない。
自分の会社を守る事しか考えていない編集長が第三者になれるわけがない。

ちなみに、わたしは女性の編集者が男性クリエイターに自転車で追いかけられたことも聞いたことがある。

彼女はずっとヘンなことが続いていて、追いかけられてやっと会社に相談できたと言っていた。

道でだれかに襲われたら大声をあげられるけど、この手のトラブルは大声をあげるタイミングがむずかしいし、最悪……タイミングがない。

長い時間のあとやっと小さな声が出せた。

聞いてくださったみなさん、ありがとね。












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