
タイトルなんてない
先日、長野に行って来ました。
長野にはサークルの合宿で行ったことがあるだけで、1人で行ったのは初めてでした。
軽井沢駅で紙の切符を買って、ワンマン電車に乗り、数駅先の無人駅で降りました。
私の他に、その駅で降りたのは女性一人だけでした。
その人を真似て小さいポストに切符を入れ、壁のない駅の、柵でしきられただけの出口を出ました。
目の前には田園が、少し遠くには小さな山があるのか、木々が密集しているのが見えました。
線路沿いには小川が流れていて、川上のほうではささやかな滝から水しぶきが跳ねてきらきらとしていました。
川下のほうを見るとそれまで線路に沿っていた小川は突然大きく蛇行していくようでした。
空は晴れていて青く、遠くには少し平たい真っ白な入道雲が見えました。
近くの木製の電柱では蝉が大音量で鳴いていましたが、すぐ目の前を小さな赤トンボが通りすぎました。
水と草と土のにおいがします。
あんまり美しくて、涙がでそうでした。
私は、小川の岸辺から田んぼの間を抜け、少し遠くに見える、木々が繁った山道のような坂をのぼっていかなければいけません。
着ている服は太陽の熱を吸収して熱く、それでも東京よりも日差しは肌に優しくて、風も吹いていたので苦しくはありませんでした。
持ってきたペットボトルの水を半分くらいまで飲み、歩き始めました。
小川の岸辺には露草が咲いています。
ヒメジオンの花の周りを、2匹のモンシロチョウがじゃれるように飛んでいました。
蛇行した小川にかかる小さな橋を渡り、少し道に迷いそうになりながらも、田んぼの間の道を進んでいきました。
田んぼにはまだ青い実をぎっしりとつけた稲がまっすぐと伸びていました。
またそこを小さな赤トンボが飛んでいきます。
赤トンボだけでなく、シオカラトンボが飛んでいくのも見えました。
トンボは前にしか進めません。
田んぼを抜けると、山道のような坂の、ふもとにつきました。
ひたすら、坂をのぼっていきました。
黒いパンプス越しに、道には小石が多く、でこぼこしているのが足の裏に伝わってきました。
出がけに新しい靴で行こうか一瞬悩んだけれど、普段仕事で使っている、履き慣れたほうを選んで正解だった、とか、そんなことを考えていました。
途中、少し離れたところの田んぼで、おじいさんが何か作業をしているのが見えました。
それ以外、人の姿は見えません。
そのあと私は、木々が繁るほうへと、坂をのぼり、のぼって、少し歩き、ひらけた道路に出て、押し釦式の信号の釦を押し、横断歩道を渡って、また少し歩いて、建物を見つけて、名前の書かれた看板を見つけて。
この話はこれでおしまいです。