№189【2分で読める】日々の暮らしにクスっとエッセイ『たぶん初めて聞いたそのセリフ』

ある日、玄関の呼び鈴が鳴ったので出てみると、宅配業者さんだった。
「お荷物届けに来ました。サインくださーい」
定型文を言った後、こう続けた。
「箱が変形していたので、中身を今すぐ確認してもらってもいいですか」

おっ！　たぶん初めて聞いたそのセリフ。

意外な展開だったのでちょっぴり戸惑っていると、宅配業者さんがほんの少しだけ急かすようにもう1回こう言った。
「箱が凹んでいるようです。中身が壊れていないか気になるんで、今開けて見てもらってもいいですか」

うそーん。今ですか？　ここでですか？

いや、そもそも変なものを買ったわけじゃないし、人に見せられないようなものではないけれども、今？　ここで？

でもこのまま開けなければ、宅配のお兄さんも困るよね？　えいっ、と開けてみると箱の中はプルプルしているだけでダメージゼロの寒天の袋がみっちりと詰まっていた。

そのとき、ワタクシハッとした。
中身が寒天ぎっしりって、いかにも、ダイエットしていますって感じじゃーん！　しかも季節感ゼロ。ダンナの物を受け取るだけなのに、なぜワタクシがこの状況・・・、モヤっとした。

ところが宅配のお兄さん、狭い玄関先にも関わらず中身を見ないよう、何かを確認するフリをしながらただただ静かに待ってくれていることに気がついた。

ひょーっ！　お気遣い痛み入ります～。
「中身大丈夫でした」
とお礼を述べた後、サインと一緒にモヤモヤも持って帰ってもらった。

あんなに平然と見ないふりできるプロだったら安心。
逆にビックリ箱でもなく、ぎっしり詰まった札束でもなく、マリオのキノコが飛び出してくるでもない、なんの当たり障りもないお届け物だったことに悔いが残った。
ちぇっ。