【双子妊娠を告げられるとき】 興奮と衝撃、楽しみ、そして不安
初めて双子と告げられた日のこと
私が初めて双子の妊娠を告げられたのは、近所の産婦人科でした。
妊娠を望んでいた私は、近くに住む親友と義姉が出産した、お祝い膳が豪華なことで有名な産婦人科に子宮頸がん検診を理由に偵察に行き、その雰囲気を気に入り、妊娠したらそこで出産するつもりでした。
機械のように正確だった生理が遅れ、市販の検査薬で陽性だったため、受診し、妊娠がわかりました。心音の確認のために翌週受診するように言われました(そのときは知りませんでしたがこの時点では妊娠確定ではなく、先生は「おめでとうございます」とはいいませんでした)。
先生は30代後半の関西弁のサバサバした女医さん。1週間後、そわそわして居ても立ってもいられない夫と一緒に受診し、ドキドキしながら診察台にあがりました。
先生の「はい、心音確認できました。おめでとうございます」という声にホッとしました。
すると「あ!ちょっと待ってください。⚪︎⚪︎さん!ちょっとご主人呼んだ方がいいかも!」と先生が叫んだのです。
転がるようにエコー画面に駆け寄った夫と私に、先生が「あははは!双子です!ほら、二人いる!」と笑いながら明るい声で告げたのです。
双子を告げられた瞬間の気持ち
ー興奮と衝撃、喜びそして不安ー
双子だと告げられた瞬間の私は「え?うそ」「双子?マジで??」「なんで私?!」とペラペラと言葉が出てくる一方で、気持ちは
何かに当選してしまったような興奮、
思いがけない事故に出逢ったような衝撃、
双子って面白いかもしれないという喜び、そして
描いていた出産とは遥かに異なるであろう未来への不安でした。
だけど目の前のエコー画面には確かに2つの白い光。双子なんだろうけれど頭がうまく回らない。
だってね、みなさん、妊娠検査薬で陽性になったとき、双子かもしれないって思います?
私は受診までの1週間、生まれてくる赤ちゃんと自分の姿をずっと想像して過ごしていました。
そのときの赤ちゃんはもちろん1人。
ずっと思い描いていたのは「まずは」1人の赤ちゃんを授かりたいということだったのです。
乳幼児精神医学者のダニエル・スターンは出産準備をする妊婦は、心の中に「想像上の赤ちゃん」を作ると言っています。
出産時に「想像上の赤ちゃん」と「現実の赤ちゃん」が対面を果たした後も、「想像上の赤ちゃん」は「現実の赤ちゃん」とともに母親の中で生き続けるのだそうです。
私はまさにこの「告知」のときに「想像上の赤ちゃん」と「現実の赤ちゃん」が初対面を果たしたのだと思います。
この私の胸の内のカオスは誰にも語ることなく、自分の心の中にしまっておくことにしました。
夫や両親、義母は驚きながらも双子の妊娠を「よかったね!」とまずは喜んでくれたのですから。
当事者の私が双子妊娠をすぐには受け入れられていないこと、衝撃を受けていること、そして不安を感じていることは、ひとまずは自分の中に真空パックしてしまっておくことにしました。
双子妊娠の現実
ードクターはリスクから説明するー
私が感情に浸っていられなかったのは、双子妊娠を告げた直後の先生のクールな医学的説明と事務的な対処も一つの原因です。
エコー画面をじっと眺めてから先生は双子の種類について図をみせながら説明してくれました。
双子の妊娠には3種類あります。
①DD双胎:絨毛が2つで羊膜が2つの2絨毛膜2羊膜双胎
②MD双胎:絨毛が1つで羊膜が2つの1絨毛膜2羊膜双胎
③MM双胎:絨毛が1つで羊膜が1つの1絨毛膜1羊膜双胎
絨毛の数=胎盤の数/羊膜の数=胎児が成長する部屋の数
①→②→③の順にリスクが高くなります。
私は胎盤1つを共有し、羊膜が2つの②MD双胎だったのですが、この時点では胎盤が1つであるということしか分からず、②MD双胎、あるいは③MM双胎の可能性がありました。
先生からはこの時既に、胎盤が1つの赤ちゃんは、共有している血管の血流の偏りにより、2人の間で望まない輸血状態が発生し、血液を過剰に受けてしまう受血児、過剰に供給してしまう供血児の双方に負担がかかり、成長に偏りが生じてしまう双胎間輸血症候群(TTTS)のリスクがあることを告げられました。
(その時はなぜ輸血症候群と名前がついてるのか、ピンときていませんでしたが)
高齢出産でもあるので、TTTSの治療方法である胎盤レーザー手術(胎児鏡下胎盤吻合血管レーザー凝固術。不適切な輸血状態を起こしている共有の血管を切る)が受けられるNICUのある病院へ転院することを勧められました。
わずか2回の受診で「もうここでは診察はできません」と告げられ、明るい先生とサヨナラしたのでした。
この妊娠の「ご懐妊おめでとうモード」から、多胎妊娠出産のリスクについて淡々と告げられる「リスク回避の医療モード」への急激なスイッチは、かなり私を戸惑わせたことを覚えています。
そして今になって改めて思うこと。
それは「ドクターは常に最悪の事態についての情報を患者さんに伝えている(義務がある)」ということ。
これは、もう魚屋さんが新鮮な魚を店頭に出すこと、美容販売員が手先を常に清潔に綺麗にしておくことと同様に、職業上身に染み付いている義務、作法のようなものだということです。
それがわかるまで、妊娠中、健診でドクターの説明を受ける度に不安になっていました。
自分なりのお医者さんの話の聞き方のコツ
それから私はお医者さんの話をきくときには
「先生は職業上、リスクを説明する義務を果たしてくれているんだ。あくまで可能性の範囲で最悪の事態について話してるんだ」と心得て診察に臨みました。
あとはわからないことは躊躇わず質問すること。
なぜなら、先生方は結構、患者さんサイドの動揺には気づかないものだし、一度した説明をわかっているものだと思ってお話されていることも多いから。
精神的なストレスを感じすぎないように、自分なりのお医者さんの話の聞き方のコツを見つけて、身につけていくと楽になるなと思います。
双子妊娠の告知について思うこと
人にはそれぞれ思い描いていた妊娠STORYがあると思います。
双子を産む、育てるということは否応なしに人生が大きく変わることになります。
戸惑うのは自然な反応。
双子妊娠を告げられた女性の心は当然揺れ動いています。
でも、そんな時にやってくるのは揺れ動く心のケアではなく、医療モードのリスク説明であり、転院の決断を迫る情報だったりするのです。
双子妊娠をどう告げられたか、双子を産んだ友人や知り合いに聞いたことがあります。
あからさまに「あちゃー双子だねぇ」と渋い顔をしたお医者さんもいるらしい…。
「ここでは産めません」とすぐに言われてショックだったという人もいました。
私の場合、関西弁のサバサバした女医さんが「あははははは!」と豪快に笑ってくれました。
今思えば、私はその時、ちょっと「間」をもらえたのだと思います。
思わぬ事態に動揺する時間、戸惑う時間を与えてもらいました。
全国の産婦人科のお医者さん、看護師さんにお願いしたい。
誤解を恐れずに言うならば、
ドクターから双子妊娠を告げられることは、妊婦さんやその家族にとって病気の告白と同じくらい、人生にショッキングな衝撃を与える可能性があると言うこと。
だから多胎妊娠を告げるときには、妊婦さんに自由に反応する時間、空間を与えて欲しい。
リスクの説明は嫌でも頭に入ってきますから(笑)
さいごに
今は、コロナ禍の妊娠・出産で母親学級の中止や、入院中の面会禁止など、安全のために課せられる制限が多く、双子の妊婦さんの精神的な負担が大きくなっていると思います。
双子の妊娠を告知されてから、双子の親になる覚悟ができるまで(心身ともに受け入れることができるまで)、人それぞれ、時間がかかるもの。
双子の妊娠に戸惑い、動揺する自分を恥じたり、責めたりしないで欲しい。
私は双子の妊娠出産で、精神的に一番しんどかったのは、先が見通せず、不安になりやすく、何が起きてるなかわからない妊婦の時期でした。
私がいうのも烏滸がましいですが、
たっぷり時間をかけて双子の妊婦さんになって欲しいと思います。
そして、そのプロセスの最たるものが悪阻。。。
これは、また後でお話したいと思います。
引用文献:
母親になるということ 新しい「私の誕生」(2012)ダニエル・N・スターン他.創元社