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発言は撤回できないのだよ

僕はよく、失言する。

何を隠そう、僕こそがかの有名なエクストラ失言マンなのである。なんなのである?活字でさえスベれるなんて、僕にはボブスレーの才能があるに違いない。「活字ボブスレー」なる競技があれば、最低でも日本代表には選出される自信がある。否、活字ボブスレーだけでない。活字スキーだって活字スケートだって、「活字スベり」競技ならばメダル総なめである。なんなのである?

上記のような論調を見れば明らかであるが、僕にはきっと思慮が足りないのである。今だって、思いつくままにつらつらと言葉を並べているのである。

活字であれば、紡いでから僕のコントロール外に出ていくまで、かなりの猶予がある。例えばこうやって記事を書くときも、公開する前に推敲し、「あっ、こんな表現は誰かを傷つけるかもしれない…!」とか「なにを言っているのかわからん。書き直しだ!」とか、他の誰の目にも触れることなく、思慮を重ねる余裕がある。

しかし、会話の場では話が違う。僕の肺と喉と舌と歯、それらが生み出した空気の震えは、紡いでしまえば直ちに相手に届く。言ってしまってから「しまった…!」と思って、相手の鼓膜が震える前に音波の波形を変え、相手が聞く瞬間までに発言を修正するなんて離れ業は、少なくとも僕にはできない。

活字ですらなーんも考えずにスベっている僕なんだから、会話において失言しないはずがないのである。

ミラクル失言マスターの僕ともなれば、失言してしまった際の対処法をある程度はわきまえている。対処法は、失言の種類によって少し変わる。

①本音が口をついて出てしまった場合
→こればっかりは弁明の余地はない。素直にそう考える根拠を示し、謝罪に徹すべし。

②言い方を間違えて誤解を生んだ場合
→なるべく早く弁明の措置をとる。誤解を解くことができるか否かは経験上、信用に依存している。つまり日々の行いが物を言うのである。解けなかったら謝罪に徹すべし。

③思ってもないことを言ってしまった場合
→ツンデレキャラでない限り、早急に訂正すべし。速さが肝心である。理由は後述。

さて、僕の短い人生経験では、最善の手段はこんなところだろう。で、ここからが今日の本題なんです。

失言したときに、上記以外の対処法をなさる方々がおります。僕よりも人生経験豊富な方々。でも僕は彼らの対処法に、些かの疑問を抱いておるのです。その対処法が、これだぁ…1,2,3(伝われ同世代)

「発言を撤回いたします。」


発言を撤回するってどういうこと…?

いや、日本語の意味はわかる。言ったことを、やっぱやめました!ってことである。ほうほう。それではさっきの①〜③について、この対処法を当てはめてみよう。

①本音が口をついて出てしまった場合
→「発言を撤回いたします」

【講評】
解決することは何もない。相手は先刻、彼の口から本音を聞いたのである。「撤回する」の発言の有無に関わらず彼がそのような考えを持ったことは否定できない。

②言い方を間違えて誤解を生んだ場合
→「発言を撤回いたします」

【講評】
解決することは何もない。誤解を生んだのであれば、それを解くための説明を、迅速かつ丁寧に行うことが最優先事項である。それを怠り「撤回する」の発言をすることは、相手からすれば①の場合と同様である。

③思ってもないことを言ってしまった場合
→「発言を撤回いたします」

【講評】
当該発言の直後、他者に指摘される前に「撤回する」ことができれば、一定の効果が期待できる。それでもその後に十分な弁明が求められるだろう。他者に指摘されてはじめて「撤回する」発言をした場合は解決することは何もない。他者に指摘されるまで自ら訂正しないこと、それはすなわち、①本音であるか、②誤解を生んだかのどちらかだからである。こうなってしまえば、①の場合は救いがなく、②の場合は根気強く弁明する必要がある。

以上のように、僕の考え得る限り、「発言を撤回いたします」は、思ってもないことを言ってしまった場合、さらに、自ら失言を自覚し自ら訂正した場合にのみ有効だと思われる。しかし、実際に「発言を撤回いたします」って言う人たちは、誰かに指摘されて、なんなら多くの人の反感を買ってしまった後にこれを言うのである。火に油もいいところである。

そもそも、「発言を撤回する」という行為自体、実質を伴わない。だって冒頭でも言ったけど、発した音声は作為なくすぐに相手に伝わり、一度伝わってしまえば最後、聞いた人間全員の記憶を吹っ飛ばす以外に、発言を撤回する方法なんてないのである。

否、一つだけ、方法がある。それは、相手に頼み込んで「発言を撤回させてもらう」ことである。彼の発言を記憶したのは、それを聞いた相手である。しっかりと弁明を受けて納得し、「仕方ないなあ、今回はなかったことにしてやるよ。」となれば、撤回成功である。

だとすれば、「発言を撤回いたします。」じゃなくて、「発言を撤回させてください。どうかお願いします。」である。自分ひとりの意向で発言が撤回できるという思い込み、なんとも傲慢極まりないものである。身の程知らずにも程があるのである。恥を知れ。なのである。

多くの人が、「発言を撤回いたします。」に対してなんとも言えぬ屈辱感を覚えるのは、きっとそれが、聞き手である我々の納得を得ぬまま、許しを得ぬまま、勝手に発言を撤回したと宣言し、実際は撤回などできていないのに、「反省して発言を撤回したんだからもういいだろう。」という態度をとるからだろう。

とどのつまり、「発言を撤回いたします。」は、失言してしまった際の対処法としては、最低最悪なのである。

もはや些かの疑問で済む主張ではなくなってしまったが、今のところ、僕のこの発言は全くもって「失言」などではないと思われるのである。

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