withコロナ時代の観光業のあり方について考える
新型コロナウイルスの影響で、観光業が大打撃を受けています。
とはいえ、自粛生活のストレスが溜まっている人も多く、花見やGWを満喫できなかった分、「コロナが落ち着いたら旅行に行きたい」という方もいらっしゃるかと思います。
では、観光業の側はそういう人が来てくれるよう誘客を頑張れば、いつかは落ち込んだ業績が回復するのでしょうか?
私は「否」だと思っています。
ド短期の目線で言えば、長い休校期間の分の授業時間を確保するため、夏休みを短縮する自治体が圧倒的多数です。
学齢期のお子さんがいるご家庭では、3密を避けて旅行……となると、時期も移動手段もこれまで同様には考えづらく、観光業が夏休みに期待を寄せるのは厳しい状況と思われます。
人々の生活様式やリズム、価値観も変わり、前年までの流れには乗れない状況です。
また、日本の観光業で力を入れてきたインバウンド(訪日外国人旅行客)も、すぐには回復しづらそうです。
これまでとは違うニーズの喚起や、収益の得方が必要になり、マインドを変える必要があります。
私は2018年からの2年間、金沢の一棟貸しの宿で複業で働き、そこでのプロジェクト経験から、病気や障害の有無にかかわらず旅行しやすい社会を作りたいと思い、Try Angleという法人を立ち上げました。
これから、様々な観光業の方に、医療的ケア児者の方の旅行受け入れを前向きに取り組んでいただくために活動をしていこうとしていた矢先に、今回の新型コロナウイルスの感染拡大が起こりました。
私も、今後観光業の方と関わっていく上で、今回の状況を受け、この先の観光業はどうあるとよいのか、考えを深めたいと思っています。
そこで、今回は2冊の本を通して、withコロナ時代の観光業のあり方について考えてみました。
量から質への転換期に
まず1冊目は、『地域引力を生み出す 観光ブランドの教科書 』著:岩崎邦彦 です。
この本の主軸は「”誘致・誘客”から、”引力のある地域の想像”に発想を切り替えよう」「”観光客数の増加”から”地域引力の向上”に発想を切り替えよう」といったところなのですが、今回紹介したいのは、この部分です。
〇量から質のシフトは難しい(p.210)
「我々の地域は、観光客数が少ないから、まずは、観光客数を増やす”量の観光”だ」
観光関連の方に「質の観光」の重要性を指摘すると、このように反論する人がいる。
だがこの発想は危険だろう。
「量の観光」と「質の観光」は、マーケティングの発送も、顧客ターゲットも大きく異なる。「量の観光」を途中で、「質の観光」に転換するのは困難だ。
文章は、大型クルーズ船の誘致やインバウンドの団体旅行客に頼って『量の観光』で稼げても、地域の経済は潤わない、観光客の満足度とともに地域経済が豊かに、地域の人々が幸せになる『質の観光』にシフトする必要がある、といった論につながっていきます。
『質の観光』にシフトしていくことは、2年ばかりですが観光業に関わったり、新幹線開業後の観光バブルに沸く街に住んでいる身として、強く同意する部分でした。
金沢は新幹線開業から5年が経過しても、観光客の増加を見込んでホテルの建設ラッシュが続いていました。今回のコロナの影響で、ようやくそのラッシュが止まりそうです。
新幹線開業以降、金沢においては観光客の量を減らす、ということは、これまでやろうと思ってもできないことでした。それは、ある程度観光地として成長した土地はどこも同じではないでしょうか。
その地域で災害が起こったり、交通機関がダウンする、あるいは観光客を惹きつけていた場所がなくなる、といったことでしか起こらない事象かと思います。
もしそんなことがあったとしても、影響は一時的・局所的なもので、復興キャンペーンや地域間連携などで誘客を促すことで、なんとか回復させようとするのがこれまでの手法ではないでしょうか。
しかし、今回の新型コロナウイルスの影響は長期間で、全世界的なものです。
観光業で苦しんでいるのは日本だけではなく、世界各地の観光名所も同様です。
観光客の数をBeforeコロナの時代と比較して嘆くより、地域とそこに住み、働く人の幸福のために質を上げていく方が、現実的かと思います。
※北陸については、2019年10月の台風19号による北陸新幹線の車両基地水没&運行本数の減少などがあり、観光業のキャンセルが相次ぐ、といったことがありました。
あの時も『量の観光』が一時的にストップしましたが、今回はこの時の比ではないくらいの事態です。
観光客と共に、まちをアップデートする感覚を持つ
2冊目に紹介したいのが、『オーバーツーリズム: 観光に消費されないまちのつくり方』著:高坂 晶子 です。
1冊目の本から、オーバーツーリズムについて興味を持ち、読み始めたこの本。
ここではオーバーツーリズムについて、国連世界観光機関が定める”環境容量”のコンセプトを用いて下記のように書かれています。
オーバーツーリズムとは、この「『環境容量』を超えて、観光客あるいは観光関連の事業者が、自然や景観、伝統的建築物などの観光資源を過剰に利用する(overuse)する」ことを指す。(p.24)
この本では国内外の観光地(バルセロナ、ハワイ、ガラパゴス諸島、京都、鎌倉など)のオーバーツーリズム現象と、その対策が紹介されています。
この本で興味深い記述だったのは、オーバーツーリズムへの対策として記載されていた、『レスポンシブル・ツーリズム(責任ある観光)』の部分です。
レスポンシブル・ツーリズムにおける観光客は、一方的にもてなされる立場ではなく、応分の責務や役割を担う存在である。観光地の自然・社会環境、住民(特に原住民)の生活・文化等に対して敬意を払ったり、保全に寄与する人物像が想定される(p.240)
また、観光業が地域にもたらすメリットを感じにくい状況があることにも触れています。
観光業が地域で活発になることで、公共交通機関や施設の維持管理がなされるのは、地元住民にもメリットがあります。この点において、地元住民が観光客に対して受容力を高めることもオーバーツーリズムへの対応策として書かれていました。
これまで、観光客と地元住民といえば、
・「もてなされる側」と「もてなす側」
・「お金を出す人」と「お金を受け取る人」
と、対極的な関係性で描かれやすかったと思います。
しかし、「レスポンシブルツーリズム」や、「観光客への受容力」といった考えの元では、そうした対極の立場ではなく、
・観光客は「一時的でもその町の住民になる」、
・地元住民は「もてなすだけではなく、観光客と共に地域のブランドを作っていく」
という気持ちを持つことが、その地域の観光ブランド力を高めていくことにつながると感じました。
観光客が殺到し、日常の生活の穏やかさや心地よさが失われかかっていた地元の人にとっては、「観光客がいない今がちょうどよい。外から誰かが来るのは感染リスクがあるから嫌だ」とすら感じているかもしれません。
でも、観光を通して生活している方もいるわけで、どうやって受け入れを再開していくのか、その議論は地元住民と共に考えていくべきではないでしょうか。
そして、その議論をするときは、「観光業の振興」といった側面ではなく、「観光業を通して、地元の人をどうやって幸せにするのか」といったまちづくりの視点も必要かと思います。
改めて、観光を通してどんなまちを作りたいのか、考えるとき
ということで、2冊の本から、私としては、これからの観光業のあり方を考えるとき、下記2つが重要だと考えています。
・新型コロナ対策を「量の観光」から「質の観光」へシフトしていくチャンスとする
・観光施策を考えるときは、地元の人が幸せになるための観点を取り入れる
他に観光業に携わる方々が、どのように考えているのか、ぜひ意見も聞いてみたいです。
私が今年の3月まで複業先としてお世話になっていた一棟貸しの宿・旅音では、期間限定のプランを販売して、地元に住む方に向けた取り組みを始めました。
食事を提供していた旅館は、テイクアウトのお弁当を作ったり。
個室を多く持つホテルやゲストハウスは、シェルターやコワーキングスペースとして部屋を販売したりしています。
改めて、外から来る人ではなく、地元に住む人に対して何ができるのか、みなさんとっても頭をひねって頑張っていらっしゃるときだと思います。
新型コロナウイルスの流行状況や、ワクチンなどの開発状況によって、世の中のニーズは目まぐるしく変化していくと思いますが、そこで事業を展開する限り、地元の人の存在抜きには収益が成り立たないという状況は続くでしょう。
私もTry Angleの活動を通して、各地で踏ん張る観光業の方々に何をお伝えし、どう役に立っていくのか、頭をひねって考え、手を動かし続けたいと思います。
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