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酔いどれ男のさま酔い飲み歩記~第35回「少年時代に育った東京のまちで飲む」

「一人酒」、それは孤独な酒飲みのように聞こえるだろうが、実はそうでもない。私は一人酒という言葉を酒場で飲み歩く時に使っている。にぎやかな雰囲気に包まれれば、その店に居る人は全員、飲み仲間だ。

一人酒ができなくなって幾歳月・・・ついに再開の日を迎えた。が、本当の一人酒はこれからだ。さあ、体験談エッセイを書こう。タイトルは、酔いどれ男のさま酔い飲み歩記。第35回「少年時代に育った東京のまちで飲む」である。

はじめに

ゴールデンウイーク真っ只中、東京へ出かけた。目的は大相撲夏場所の観戦である。でも今回はそれだけが目的ではない。飲み歩きをするようになってから、いつかは行ってみたいと思っていたまちへと繰り出す機会を得たのだ。

そのまちの名は「椎名町」。都内在住や東京によほど詳しい人でなければ知らないだろう。でも、私にとっては特別なまち。その理由は、40年近く前にさかのぼる。酒の「さ」の字も知らなかった少年時代に住んでいたのが椎名町なのだ。

第二の故郷で、どんな一人酒が待ち受けているのだろうか。

椎名町一人酒の前夜祭~神田での酒場選びで大失敗

椎名町の話をする前に、その前夜に泊まった神田での飲み歩きについて触れておく。最初に入った某居酒屋のことを書いておかねばならない。

超目玉っぽい看板メニューにつられて来店。喉がカラカラだったので生ビールを頼み、手っ取り早い肴として枝豆、それともう一品を注文する。看板メニューはその後でいいやと思ったのだ。ところが・・・

生ビールが出てきたのは5分後(苦笑)

それだけならまだしも、付き出しは10分後、ただ皿に盛るだけの枝豆が20分後。とっくに生ビールは終わっている。しかも、もう一品は忘れられているのか出てこない。おいおい、これはいったいどういうことか。

店員を怒鳴りつけても気分が悪いだけ。超目玉につられて入ってしまった自分がバカだったと割り切るしかない。もう一品はキャンセルして、とっとと次の店へ行こう。
ちなみに店の名前は伏せておく。武士の情けと思ってくれ。

椎名町一人酒の前段~池袋「三兵酒店」で口開け

ここからが本題の椎名町での飲み歩きだが、まずは椎名町について説明しよう。池袋駅から出ている西武池袋線の最初の停車駅が椎名町駅である。下町っぽく、道幅の狭い道路に商店街があり、少し外れると住宅街が広がるという、ごく平凡なまちだ。

当然だが椎名町にビジネスホテルはないので、池袋駅北口近くに宿を取る。椎名町に出向く前に、軽く口開けをしておこう。角打ち「三兵酒店」に向かう。

酒屋に併設された立ち飲みスペースは、早くも客でにぎわっていた。ご常連も多いようで、店主との会話も途切れない。その合間をぬって、エビスの黒ビールともつ煮を注文。キャッシュオンデリバリーなので、すぐにビールと品物が出てくる。

酒場はこうでなければダメだぞ、某店!

少年時代を過ごしたとはいえ、椎名町にどんな酒場があるのかは全くの未知数。意に沿うような酒場があるかどうかも分からない。ほろ酔いになっておけば、酔った勢いでどんな店でも入れるというものだ。度胸づけといったところだな。

椎名町「すし屋の戸塚」~大将の心配りと和む店内

少年時代のノスタルジーを抱えつつ、椎名町駅に降り立った。池袋のようなターミナル駅とは比べようがないが、コンパクトな商店街でも飲食店は点在している。まるで「アド街ック天国」のロケでやって来たような気分だな。

しっかりと腰を落ち着けるため、ここは居酒屋ではなく、あえて寿司店を訪ねる。「すし屋の戸塚」は、大将が一人で切り盛りしている小さな店だ。日本酒の冷酒をいただき、握りではなく、つまみを切ってもらう。

この店は、大将の料理の出し方が絶妙なのである。

たいてい、つまみを頼むと盛り合わせを一気に出すものなのだが、大将は客のペースに応じて一品ずつ出してくれる。初ガツオ、ホタテ、ホタルイカと、旬の品ばかり。酒を飲むペースがゆっくりなので、こういう提供の仕方はありがたい。

しばらくして、小さな子供を連れた家族がやって来た。お父さんは私の隣のカウンターに座り、お母さんと子供は小上がりを占拠。家族でご常連のようだ。こういう地元密着の酒場というのは気持ちが和んで楽しい。

大将は職人気質という雰囲気ではないが、明らかに職人の仕事をしている。ご常連にも、一見の私にも、そして子供にも、同じように振る舞ってくれる。あまりの居心地のよさに、ついつい冷酒を追加注文し、握りも頂戴した。

いやあ、久々に寿司屋で美味い酒が飲めた。さあ、次へ行くぞ。

椎名町「正ちゃん」~酔客と話がはずんで

すし屋の戸塚でかなり飲んでしまった。ベロベロに酔っぱらっている。少年時代、こんな中年オヤジが歩いていたら、逃げ出していただろう。まさか椎名町を千鳥足で歩くことになるとは、予想もしなかったな。

寄った勢いで、昼間から営業している居酒屋「正ちゃん」へなだれ込む。昼酒ができるということは、間違いなく酔客の聖地だ。店構えもどこか昭和の雰囲気がある。頼んだのは焼酎のお湯割り。あとは付き出しがあれば十分。

カウンターで隣り合わせたのは、私と同世代くらいのねえさん。ずいぶん前から正ちゃんで飲んでいたらしく、かなり酔っている。こちらも負けじとベロベロである。

酔っぱらい同士、すぐに意気投合した。

話の内容はよく覚えていないが、おそらく「少年時代に椎名町に住んでいた」という話から始まっていただろう。40年たっているので、変わっているものは多い。が、変わらないものも少なくない。だから、知らない者同士でも話がはずんだのだ。

それにしても話は尽きない。そろそろ引き上げたいのだが・・・と、おもむろにねえさんがトイレに立った。ここがチャンスとばかり、店員に勘定してもらい、サッと店を後にした。これから池袋まで帰るので、余力を残しておかねばならなかったためだ。

またいつか、椎名町で飲める日を楽しみにしているぞ。

今回はここまでとします。読んでいただきありがとうございました。なお、このエッセイは2012年5月の忘備録なので、店の情報など現在とは異なる場合があります。

※次週、5月10日の「酔いどれ男のさま酔い飲み歩記」は、都合によりお休みさせていただきます

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