酔いどれ男のさま酔い飲み歩記~第65回「キトキトの魚を求めて富山市へ」
「一人酒」、それは孤独な酒飲みのように聞こえるだろうが、実はそうでもない。私は一人酒という言葉を酒場で飲み歩く時に使っている。にぎやかな雰囲気に包まれれば、その店に居る人は全員、飲み仲間だ。
withコロナでようやく一人酒が再開した。が、まだまだ心置きなく飲めるようになるまでの道のりは遠い。ならば、体験談エッセイでも書くとするか。酔いどれ男のさま酔い飲み歩記~第65回「キトキトの魚を求めて富山市へ」である。
はじめに
能登半島地震で北陸地方は大きな被害を受けたが、富山県も例外ではない。能登半島ばかり報道されるが、富山も建物などにかなり被害が出ていると聞く。メディアの偏りと極端さは今さら言っても仕方がないことだが・・・
富山市を訪れたのは2018年。前泊付1泊2日のスケジュールだったが、北陸新幹線のおかげでゆっくりと観光できた。もちろん、富山と言えば「キトキト」の魚介類。キトキトとは、富山の方言で「新鮮」を意味する重要なキーワードだ。
そんなわけで富山市の夜を堪能しよう。
富山市「割烹小川」~早速、キトキトの魚にお目にかかって
まずはお昼のことを書いておきたい。なぜか。一つはご当地グルメ「富山ブラックラーメン」を食べたから。真っ黒のスープに太麺、上からコショウがたっぷりかかったブラックラーメンは強烈だ。これはご当地でぜひ味わってほしい。
もう一つは食事中に入ってきた仕事の連絡。メッセージだったが、これが非常に腹の立つような内容で、せっかくブラックラーメンを食べていたのに、テンションがだだ下がり。あまりにも最悪なタイミングだったので書き残させてもらったよ。
閑話休題。夜の飲み歩きの話を始めよう。
幾つかの店を巡ったが、連休中とあって満席のところばかり。予約を入れておけばよかったのだが後の祭り。ようやく見つけたのが割烹小川。カウンターの一角に陣取り、地酒呑み比べで、三笑楽、勝駒、富美菊のミニグラスを頂戴する。
お楽しみのキトキトの魚だが、刺身のラインナップは旬のブリをメインに、バイ貝、クエ、レンコ鯛、サヨリ、ヒラメ、アジとなかなか。これにゲンゲの唐揚げを追加する。ゲンゲは、かつて「下の下」と言い表されていたが、今は「幻魚」と表すそうだ。
店主がややご機嫌斜めそうな感じにお見受けしたので、お話はせずに、ひたすらキトキトの魚と地酒に集中する。追加で満寿泉通一杯をいただくが、これも魚との相性がいい。
料理と酒には十分満足した。次はもうちょっと賑やかな店に行くか。
富山市「のん兵衛」~ひと癖あるオヤジがお相手の酒場
キトキトの魚でこの時期忘れてはならないのがズワイガニ。とくにメスのコウバコガニは11月初めの漁解禁から年内しか食べられない。じゃあ、なぜ割烹小川で注文しなかったのか。実はコウバコガニだけは、前日夜に富山入りした際、いち早く味わっていたからなのだ。
またも余談ではじまってしまったな。改めて閑話休題。
次に訪れたのは地元の方々ご用達という感じの居酒屋「のん兵衛」。店構えにディープな雰囲気が漂っていたので一瞬入るのをためらったが、「自分のカンに狂いはなかろう」と意を決し、暖簾をくぐる。
カウンター奥には、ひと癖ありそうなオヤジさんと朗らかな感じの女将さん。ご夫婦で切り盛りしている酒場のようだ。店構えから年配の方が多かろうと思ったのだが、意外に若い世代中心の客層だった。早速オヤジさんに
「お酒ください」と注文したら・・・
「お酒って言われても、いろいろあるよ」。
オヤジさんの返しは強烈だった。まさに先制パンチを食らったような気分。だが、これが「のん兵衛」の流儀なのだろうと割り切ろう。すぐに「じゃあ、熱燗を」と返しの返し。出てきたのは地酒・立山の燗酒だった。
肴には「ブリかま」をいただく。ブリは刺身で美味しいのは当然だが、かまの焼き物も脂が乗っていて美味い。熱燗をチビチビとやりながら、しばし酒場に身を任せる。オヤジさんのキャラが、そのまま店の雰囲気を醸し出しており、とても心地いい。
私の後から来たお客さんが刺身の盛り合わせを頼んでいたが、これが皿にてんこ盛りというビックリサイズ。思わず「いの一番にこの店に来ればよかったかな」と思ってしまう。
カンを頼りに入った酒場・・・やはり、俺のカンに狂いはなかったな。
富山市「ホットトットクラブ」~謎の気になる酒場に突入
キトキトの魚は堪能したし、地元密着の酒場の雰囲気にも酔えた。次はどこに行こうか。いつもなら、あれこれと迷ってしまうところだが、この日ばかりはお目当てがあった。旅行前にグーグルマップを眺めていて、どうしても気になった酒場。
「ホットトットクラブ」これはいったい?
何だか怪しげな屋号である。でも、店構えはバルのような雰囲気がする。ワインバーという事前情報もある。気になっているのなら来店して確かめるしかなかろう。さっきもカンを頼りに入って正解だった。今回もカンに狂いはないはずだ。
カウンターには先客が2人。カウンターの中にはマスターとおぼしき男性。スキンヘッドに一瞬たじろぐが、人当たりはよさそうな感じで安心する。早速、解禁となって間もないボジョレーヌーボーからいただくとしよう。
エッセイを書くにあたって改めて店のサイトを調べさせてもらったら、ホットトットとは「熱い親父」という意味だった。なるほど! そんなホットトットは話し上手で、一見客の私も安心して会話を楽しむことができた。
やがて同世代くらいの男性2人が隣に座り、そのうちの1人としばし歓談する。しこたま飲んできたところだったし、さらにワインを追加していたのでかなり酔っている。ゆえに何をしゃべったのかは覚えていない。まあ、他愛もない話なんだろうな。
ちなみに「ホットトットクラブ」はチーズバーの別名を持ち、マスターもチーズにこだわりがあるそうだ。たぶん注文の時にも、チーズの蘊蓄を聞かされていたのだろうと思うのだが、やはり覚えていない。マスター、ごめんなさい。
夜もだいぶ更けてきた。眠くなってくる時間帯にさしかかったので、お名残り惜しいが酒場を後にする。酔った勢いでもう一軒くらい軽く、とも思ったのだが、明日に備えてやめておこう。明日の昼にはキトキトの富山湾鮨が待っているからな。
〇〇〇
今回はここまでとします。読んでいただきありがとうございました。なお、このエッセイは2018年11月の忘備録なので、店の情報など現在とは異なる場合があります。
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